第11話

 ──1時間後。



『全ステータスが大幅に向上しました。合計ステータスが2500を超えました』

『称号スキル【貪欲な鉤爪】を獲得しました』

『武装スキル【黒欲烈閃ファヴニル】を獲得しました』


「あぁぁ……勢い任せにやっちまった……」


 欲望に負けた俺は──またしても危ないお金を借りてしまった。

 これで俺の借金は150万となったわけだ。

 早くソウルブレイドでひと山当てないと、ガチで漁船に乗せられそうだ。


「いやでもこれでスキルは手に入ったわけだし……うーん」


 目当てのスキルは手に入った。

 それだけでなく新しい武装スキルとステータスの向上のおまけ付きだ。

 それなのに俺の心境は何だか微妙だった。


 あー、この気持ちはあれだな。

 ソシャゲで天井まで回しちゃった時のヤツ。

 推しは獲得したけどカード明細見て、ふと我に返ったときの感情に近い。


『ケケ、気にするなよ。さっきも言ったろ? 元を取れば問題ないのさ。そのための力が俺様にはあるんだからよォ! さっさと稼ごうぜ!』


 課金したからかマモンはいつになく上機嫌だった。


「この野郎……他人事だと思って適当な事言いやがって……」


 とはいえ、マモンの言うことは正しい。

 ここで腐っていても何も始まらない。

 課金しちゃったものは仕方がないのだ。


「ちっ……さっさと稼ぎに行くぞ」

『ククク、そうこなくっちゃな!』


 俺は奪い取った装飾品類を全て売却登録してから取引所を出た。


『それで今日はどうするんだ?』

「そうだな……本当はアキラを誘ってクエストをやるつもりだったが予定変更だ」

『あん? 良かったのか? たった一人の友人だろ? そんな事してるとぼっちになるぞ』

「余計なお世話だっつーの」


 つか、なんでお前がそれを知ってんだよ。


「確かにアキラには悪いが……せっかく大枚はたいて手に入れたスキルなんだ。そこは最大限に有効活用しねぇと、って思ってな」

『……ククッ、なるほどな』


 俺が新たに獲得した【貪欲な鉤爪】には〝高額報酬クエスト発生率上昇〟と〝獲得通貨2倍〟の効果がある。これらの恩恵を最大化するにはソロが一番なのだ。


 いやぁ、楽しみだなぁ。

 上手くいけばウン十万円相当のゴールドを独占できるんじゃないか?うへへ。


『ほら、さっさとクエストを探しにいこうぜ』

「言われなくてもわかってるつーの」


 妙に乗り気なマモンに答えながら、俺はアルレの街を歩き始めた。



「いいクエストねぇな」

『……』


 それから小一時間ほど街を彷徨った。

 結論から言えば、俺たちが求めるようなクエストをくれるNPCは見当たらなかった。

 発生するのは素材収集や運搬といったお使いクエストばかり。

 報酬も昨日のクエストと同程度で、2倍になることを考慮しても微妙だった。


「このスキル壊れてんじゃねーのか?」

『あ? そんなわけないだろう! この俺様が与えるスキルだぞ⁉』


 俺が不満を漏らすと、マモンが鞘の中でカチャカチャと騒ぎ立てる。

 そう言われてもな。実際あんまり機能してねーじゃん。


『いいか? クエストは基本的にNPCから生成される。つまり、高額報酬が欲しけりゃ金を持ってそうなNPCに近づかなきゃなんねーんだよ』

「そうは言ってもな。俺このゲーム始めたばかりだし、この世界の情勢なんて知らねぇんだけど」

『ちっ、使えねぇやつだな。だったらまずは──「すまない‼ 通してくれっ‼」


 マモンが何かを言いかけた刹那、そんな声が響き渡った。

 何事かと思って視線を向けると、騎竜に跨った女騎士がこちらに迫ってきていた。


「うおっ⁉ 危ねぇな⁉」


 慌てて俺が道を空けると、そのまま猛然と駆け抜けていった。


『ありゃ、領主お抱えの騎士だな』

「へぇ。確かに中世ファンタジーっぽい世界観だとは思ってたが、実際そういう感じなんだな」


 それにしても何かトラブルでもあったんだろうか。

 一瞬しか顔が見えなかったが、かなり焦っているように見えた。


『おい、何ボサッと突っ立ってやがるんだ!』


 そんなことを考えていると、マモンが刀装具をガチャガチャと打ち鳴らした。


「は? 何だよ急に?」

『お前は馬鹿か? さっき教えただろ! 高額報酬を狙うならに近づくんだよ!』

「ああ、なるほど……ってもっと早く言えよ! 相手は騎竜だろうが⁉」

『ああん⁉ お前の察しが悪すぎんだよ! いいから走れ! 今のお前のステータスなら追いつける!』


 言葉の意味を理解した俺は、慌てて走り出した。

 恐らく俺たちに金をもたらしてくれるであろう女騎士を追って、ひたすらに。

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