第3話
「ここは……?」
光が収まると俺は別の場所にいた。
何かの建造物の中だろうか。古風な石造りのフロアだ。
それにしても最近のVRってすげーな。実物にしか見えねぇや。
『黎明の塔──1F』
感心しながら周囲を見回していると、視界にシステムメッセージが表示された。
どうやら、ここがチュートリアルクエストとやらの舞台らしい。
『ソウルブレイドでは、ソウルギアによってプレイヤーの身体能力が強化されています。このチュートリアルクエストを通じて現実との感覚の違いに慣れましょう!』
そんなアナウンスが流れた後、視界にミッションウィンドウが表示された。
その内容はアバターの操作からアイテムスロットやステータスの表示方法といったシステム的なものまで。チュートリアルにありがちな初心者ミッションってやつだ。
「スキップはできねーか。面倒くせえけどやるか」
次から次へと表示される指示。それに従って俺は行動していった。
『基本操作は覚えましたか? それでは最後に実践です。これまでに覚えた操作を駆使して、この黎明の塔を攻略してください』
ひと通り終わったところで、そんなメッセージが流れた。
それと同時に、緑色の小鬼──俗に言うゴブリンがフロア内に
『ゴブリンを討伐してください』
「ようやく本編開始か。今日はウルちんの配信も見たいしな。サクッと終わらせてやらあ」
俺は手をかざしてソウルギアを顕現させる。そのボロボロの柄を握り、正面に構えた。
視界に映る赤錆だらけの刃。相変わらずの見た目に正直げんなりする。
一応、ソウルギアの詳細情報には『マモン』っていう名がついてんだけどな。しかし名前持ちの刀剣とは思えぬボロさだ。
そんな文句はさておき、俺はフロア内に出現したゴブリンを標的に定めて駆け出した。
「∨ドルヲタだからって運動できないと思うなよ。ヲタ芸で鍛えた俺の踏み込みを見せてやらあッ!」
勢いよく振りかぶった刀身。それをゴブリンの頭に叩きつけた。
──ガンッ!
剣撃とは思えぬ鈍い音が響く。よし、これで一匹……あれ?
「効いてない……?」
俺の渾身の一撃を叩き込んだ相手は、少し怯んだものの絶命には至ってなかった。
それどころか殴られた事に怒りを顕にして、手に持った棍棒でこちらのスネを殴りつけてきた。
「痛ッ! やめ、やめろゴラッ!」
ビリビリとした痛みが足を突き刺す。
実を言うと、このソウルブレイドにはPvPにおける競技性を向上させるための痛覚フィードバック機能が付いている。擬似的にダメージを再現しているのだ。
もちろんショック死しないように適度に軽減されているが、それでもダメージの度合いに応じて電気虫に刺されたくらいの痛みは感じる。
電気虫が何かって?
街路樹とかについてる緑色の毛虫のことだ。アレ刺されるとクソいてーんだよ。
「この野郎っ!」
ボコボコと俺を殴りつけるゴブリン。俺も負けじと殴り返すが、全く効いている様子が無い。
そうこうしているうちに他のゴブリンたちまで加勢しにきて、ついに──
『──死亡しました。リスポーン待機時間:30秒』
俺の体力が尽きた。
ふざけんな。チュートリアルのゴブリンすら倒せねぇって、プレイヤーをナメてんのか。
こちとらフレンズに借金して、オタクのゲーム購入したんだが? あん?
『基本操作は覚えましたか? それでは最後に実践です。チュートリアルで覚えた操作を駆使して黎明の塔を攻略してください』
光に包まれながら、俺は同じ地点に復帰する。
そして見慣れたアナウンス。どうやら死んだ場合はここから再スタートみたいだ。
「くそっ! もう一度だ! 要するに全部回避すりゃ良いんだろ!」
俺はソウルギア──マモンを構え直して意気込んだ。
そうだ。当たらなければどうということはない。
どこぞの名セリフにも、そうあるじゃないか。よし、勝てる気がしてきた。
『──死亡しました。リスポーン待機時間:30秒』
いや、無理。数の暴力の前には避けるとかいう概念が存在しないから。
つか、これ本当に身体能力上がってんのか? 普段と変わらないんだが……。
むしろゴブリンの方が、機敏で腕力も上な気がするぞ。
『──黎明の塔を攻略してください』
もう半分以上聞き流した。
このソウルブレイドとやらが鬼畜難易度のクソゲーである事は理解した。
だが俺は諦めねぇ。アキラ曰く、上位のレイドで手に入るソウルギア強化素材なら10万円以上のリアルマネーで取引されるらしいからな。
儲かると聞いた以上、俺はこのゲームで大成してみせる!
『──死亡しました。リスポーン待機時間:30秒』
連続で殴られすぎて、未だにジンジンする。
いや、何かがおかしい。これは本当にチュートリアルなのか?
いくらなんでも難し過ぎるだろ。
俺は攻略に必要な重大な何かを見落としているのか?
リスポーン待ちの間に、俺はチュートリアルで学んだ事を思い返す。
確か使えるスキルやステータスはソウルギアの能力に依存するんだよな。
他に能力を向上させる装備は装飾品だけ。しかし、それはチュートリアル開始時点で手に入らないものっぽいので当然ながら考慮されているはず。
『──黎明の塔を攻略してください』
「詰まるところ、俺のソウルギアが弱すぎるんじゃねぇか! 何だよこのナマクラ刀は! ユーザーのことナメすぎだろ!」
結論、このチュートリアルを鬼畜仕様に変えた原因は俺の弱すぎるソウルギアだった。
このゲームで強さに影響する要素の大半はソウルギアが占めている。
ソウルギアが良ければより良いステータスとスキルを得られるし、ソウルギアの形状によってタンクやアタッカーといった役割だって決まる。それほど重要な要素なのだ。
「なぁ、ソウルギアの作り直しって──」
『できません』
「ふぁっきゅーッ!」
マジで始まる前から終わってんじゃねぇか。
はぁ、いったいどうやって上位に食い込むんだよ。
こんなゴミみてぇなソウルギアを掴まされてよ。
『さっきから俺様をゴミ扱いしやがって。失礼な野郎だな、全く』
憤慨していると、急に頭の中で声が響いた。
これまでのシステムアナウンスとは異なる低めの女性の声だ。
『どこ見てんだ、人間。その手に持ってるだろ』
声の主を探して周囲をきょろきょろと見回していたところ、また声が響いた。
「まさか……俺のソウルギアが喋ってんのか?」
『そのまさかだよ』
俺の問いを肯定した後、手に持った曲刀──マモンはひとりでに浮かび上がった。
そして本当に意思があるかのように、カチャカチャと刀装具を打ち鳴らす。
驚いた。本当にこのソウルギアには意思があるようだ。
『お前があまりに弱すぎるからな、こうして話しかけてやったんだ』
「いや、弱いのはお前のせいだろ⁉ まともなスキルも何も無いし、ステータスも貧弱だしよ」
俺が反論すると、マモンはまたしてもカチャカチャと刀装具を打ち鳴らした。
まるで笑っているかのような、そんなリズムで。
『けっ、甘えんじゃねぇ。俺様の力は特別なんだ。それを
宙に浮いた曲刀は、その切っ先を俺に突きつけて言葉を続ける。
『──人間、力が欲しけりゃ対価を払いな。そうすりゃお前を最強にしてやれる』
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