第2話

 アキラの勧めでソウルブレイドを開始する事になった俺は、そのままヤツから金を借りてゲームを購入することにした。

 それから速攻で帰宅してプレイをするための準備を進めた。

 VR専用ゲームだがハード面での不足はない。というのも推しライバーであるウルちんが将来VR配信をすることを見越して、最新のVR機器一式を既に購入済みだからである。

 その総額80万。無論リボ払いだぜ、てへぺろ。


「お、流石は最新マシン。もう準備が完了したのか。よし、それじゃ早速チュートリアルといくか」


 機器の初期セットアップとゲームインストールが完了したのを確認した俺は、専用のヘッドギアを頭に嵌めた。そして目を閉じ、音声操作を行う。


「──起動アクティベーション


 光の奔流に包まれたかと思えば、次の刹那には俺は電子的かつ幻想的な空間に立っていた。

 俺の正面には青いクリスタルが鎮座しており、その上部に半透明のメッセージウィンドウが表示される。同時に音声によるアナウンスが流れた。


『ようこそ、ソウルブレイドへ。初めにプレイヤーの名前を決めてください』


 ウインドウ画面には、リアルの俺に似たアバターが映し出されていた。

 そこにアバターの容姿を調整するような項目は特に見当たらない。設定できるのは名前だけみたいだ。

 ま、俺は金を稼ぎたいだけだし、見た目は何でもいい。名前も適当で構わないだろう。

 とはいえ、リアルネームそのまま使うのもよろしくないしなぁ。


(……いつもの名前でいっか)


 俺は少し考えたあと、クリスタルに向かって思いついた名前を告げた。


「〝ケイ〟だ。名前はそれでいい」


 これは俺が普段、配信でコメントする際に使っている名前だ。

 本名を短縮しただけの味気ない名前だが、結構気に入っている。それにアルファベットを連想させるから意外と本名を推測されにくい。


『プレイヤーネーム:ケイを登録中……完了しました。続いて貴方の魂の結晶──ソウルギアを発現させます。貴方が持つ信念や理想、志。そういった強い気持ちを頭の中に浮かべてください』


 名前の登録が完了すると、クリスタルに新たなメッセージが表示された。

 すげー抽象的な事を要求してくるな。

 要するに心の強さ的なものがソウルギアには重要ってことか?

 ま、他の奴らがどんな志や信念を持ち、どんなソウルギアを発現させてるのか知らねーけどよ。俺が誇れるのは、ただ一つだけだ。


 ──ウルちんへの愛。それだけは他の誰にも負けない。


 だが、画面の向こうで笑う彼女を応援するには、とにかく金が必要なのだ。

 だから俺は強くなって稼ぎまくる。


 そのためソウルギアが──俺には必要だ。


『スキャン完了……貴方のソウルギアが発現します』


 目を瞑って念じていると、そんなアナウンスが流れた。

 まぶたを開けば光の粒が収束していくのが見えた。

 光は徐々に集まっていき、やがて刀剣の姿を象った。


「これが俺のソウルギア……」


 宙に浮かぶそれを手に掴み取ると、俺は率直な感想を吐露した。


「……なんかボロくね?」


 システムが生み出した俺専用の武器は……果てしなくオンボロだった。

 これはシャムシールというやつだろうか。中東辺りで使われてそうな装飾付きの曲刀だ。

 しかし、その刀身には錆がこびりつき、刀装具もところどころ剥げていた。


「なぁ、これってやり直しは──」

『できません』

「返事はぇーなおい! いやふざけんな! こんなオンボロで戦えるわけないだろ⁉」


 正直、これでは剣として機能するかも怪しい。

 打撃武器としてならギリ活用できるかどうか。そんなレベルの風化具合だ。


『……』

「おい! いま明らかに会話成立してたろ⁉ 今さら定型文しか言わないオブジェクトに戻っても遅いからな⁉」

『それではチュートリアルクエスト【黎明の塔】を開始します』

「無視すんなっ⁉」


 そんな俺の抗議も虚しく、転送を示すシステムメッセージが目の前に表示された。

 次の刹那には光が俺の身体を包み込み、視界が真っ白になった。

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