第36話
「……つまり、俺をブラックリリィにスカウトしたいと?」
「ええ、そういうことよ」
応接間に案内された俺は、そこで彼女から一通りの説明を受けた。
俺がこの場に連れて来られた理由──それは事務所への
「……けど、なんでまた俺なんだ? わざわざ
彼女曰く、俺の闘技場の試合を観てブラックリリィに勧誘する事を決めたらしい。
そして色んな人脈を駆使して使って俺の身元を特定したんだとさ。怖すぎ。
「むしろ貴方だからこそよ。動画がアップされてから界隈は貴方の話題で持ち切りよ?
「マモンが特別なのは認めるが、操作に関しては特別上手いわけでもないと思うぞ……」
別に何かスポーツや格闘技をやっていたわけでもないからな。
課金したマモンのステータスでゴリ押ししてるってのが俺の自己評価だ。
「ふふ、謙遜しちゃって。剣術だって凄かったわよ? 見たこと無い流派だったけど……」
「あぁ、アレはヲタ芸の応用だ」
「……え?」
「だからヲタ芸だって。サイリウム振るヤツ。それくらい知ってるだろ?」
「……」
一瞬、残念な人を見るような目を見せたのを俺は見逃さなかった。
だが、すぐに彼女は表情を戻して言葉を続けた。
「ま、まぁ、アレがなんであれ素晴らしいプレイヤーである事は間違いないわ……だから是非ともウチと契約しましょ?」
よろしくねと言わんばかりに差し出された彼女の手。
目の前のそれを一瞥してから俺は端的に答えた。
「いや、無理」
「ふふ、ありがとう。これから──って、えぇっ⁉ む、無理⁉」
俺の返答を聞いた彼女は驚きの声をあげた。
まさか拒否されるとは思ってもみなかったのだろう。
信じられないといった表情を見せる。
「そ、そっか! まだ契約条件とか説明してないものね! ギャラの事なら安心してちょうだい。貴方の想定収益なら年収1億以上だって……」
「いや、無理だって」
「えぇ⁉ おかしいわね……調査報告書だと生活に困ってるって書いてたのに……」
「そういうのは本人の前で言うなよ……確かに金はいくらでも欲しいけどよ」
探偵業者って凄いな。そんな事まで調査できんのか。
「ならどうして? まさかもう別の事務所と約束してるとか?」
ったく、何もわかってねぇな。
「俺がそこに所属するって事は、何かしらタレント活動しなきゃなんねぇんだろ?」
「えぇ、まぁ……対戦系のゲームは配信が主な活動になるわね」
「そしたらウルちんの配信見れなくなるだろ。それじゃ話になんねぇ」
確かに金は稼ぎたいが、ウルちんの配信をリアルタイムで見れなきゃ意味がない。
なぜならアーカイブ配信では投げ銭ができないからだ。
ウルちんの為に金を稼いでるのにウルちんに投げ銭できなきゃ本末転倒もいいところだ。
「じゃ、そういう事だから」
契約しない理由も説明した事だし、俺は帰ろうと立ち上がった。
そのまま部屋を出ようとするも、腕をガシッと掴まれた。
「じゃ、じゃあこうしましょう! 所属してくれるだけでいいから! 基本的に何もしなくていいからっ!」
いや、どんだけ俺を所属させたいんだよ。
「それって所属する意味あるのか?」
「全く問題無いわ。貴方がいてくれるだけで宣伝効果バッチリだから! もちろん基本給も支払うし、もし気が向いて何かのイベントに参加してくれた場合は追加報酬も出すから!」
黒木の言葉を受けて俺は少し考えた。
何もせずとも毎月お金が入ってくるなら悪い話じゃない。
それにブラックリリィに所属する事で将来ウルちんの為に何かできるかもしれないな。
「……わかった。じゃあ所属するだけな」
損が無けりゃ断る理由も無い。
俺は黒木の提案を飲み、ブラックリリィに所属する事にした。
◇
黒木と契約条件の調整を終えた後、俺は帰宅した。
ブラックマネーは無事に返済した事だし、後は月末のライブに備えて金を稼ぐだけだ。
「何だ? アオイからメッセージが来てんな」
ソウルブレイドにログインしようと思ったところで、アオイからのメッセージが届いている事に気付いた。
連携アプリを入れる事でゲーム内メッセージをスマホからでも確認できるのだ。
「クエストを手伝って欲しいのか……ま、いいか。急ぎで返済しないといけないヤツは返し終わったしな」
メッセージの内容はクエストを手伝って欲しいというものだった。
アオイとはステータス差が大きいが、こうやってフレンドの手伝いをするのもネトゲの醍醐味ってもんだろう。
「了解っと……」
俺はメッセージに返信した後、ログインすべくヘッドギアを装着した。
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