第31話

 ドラリオンの街からそう遠くない距離にある山岳地帯。

 ダークネスと合流した俺は、盗賊団のアジトを目指して山道を突き進んでいた。


「悪いな。急にクエストに参加させてもらって」

「くひひっ、大丈夫だよ……と、だから……」

「お、おう……そ、そうだな……」


 妙に友達という単語を強調してくるダークネスに、俺は愛想笑いを返した。


「トモダチ、トモダチ、トモダチ……くふふ、嬉しいな……トモダチと遊ぶの初めて……」

「……」


 安易にフレンド登録したのは間違いだったかもしれねーな。

 いや、むしろこれが正解なのか?

 鑑定したら関係値が『友愛』になっていたしな。

 少なくとも裏切られてPKされることは無さそうだ。


「くひっ、ケイ、そこ危ないよ」

「ん? のあっ⁉」


 警告する言葉と同時に、視えない何かが俺の横を掠めた。

 その後すぐに草陰から断末魔が響き、光の粒子が宙に舞い上がった。


『ダークネスが跳躍蛇ホッピン・スネークを倒しました』

『アイテムを獲得しました:跳躍蛇の螺旋尾✕1』


 どうやら草陰に魔獣が潜んでいたようだ。

 相変わらずコイツのソウルギアは視えねぇな。

 風切り音は鳴ってんだが、何が飛んできたのかは全くわからない。



 遭遇した魔獣を処理しながらしばらく進むと洞窟が見えてきた。

 周辺には樽や木箱などが乱雑に置かれ、入り口には見張りと思しき二人の男が立っていた。


 ここが盗賊団のアジトで間違いなさそうだな。

 俺とダークネスは草木に身を隠しながら様子を伺った。


「ふわぁ……眠い。俺もPKしにいきてぇよ」

「仕方ないだろ。とりあえずはNPCを育成するってのがハイガさんの方針なんだからよ」

「わかってるって。それより奴ら帰ってくるの遅くね? 乗合馬車襲うのにどんだけ時間かけてんだよ」


 欠伸を噛み殺しながら、そんな会話を繰り広げる男たち。

 その頭上にはNPCを示す紋様が見当たらなかった。


「あいつら……プレイヤーか?」

「くひっ……〝灰の牙〟……たぶん盗賊団と結託してるんだと思う」

「聞いた事ある名前だな。確か有名なPK集団だっけ? 盗賊団の規模が大きくなったのもあいつらが原因っぽいな」


 ソウルブレイドは非常に自由度の高いゲームだ。

 その自由度の高さ故に、犯罪行為に手を染めるプレイヤーが一定数存在している。

 灰の牙と呼ばれるPK集団はその代表格のようなもので、その存在は俺も知っていた。


「どうする? 灰の牙には……ボクよりランクの高いプレイヤーも在籍してるけど……」

「そりゃ全員ぶっ倒すに決まってんだろ。俺からすりゃボーナスゲームだ。うへへ」


 不安そうにするダークネスに、俺はにやりとした笑みを返した。

 ランカーが保有するレアアイテムを合法的に奪い取れる絶好のチャンスだ。

 この機会を逃すという選択肢は、最初から俺にはない。

 それにプレイヤーが相手なら【貪欲なる者アヴァリス】でスキルをコピーできる可能性も高いしな。


「くひっ……ならとことん付き合うよ……トモダチ、だから……」

「はっ、そう来なくっちゃな。それじゃ左の男はお前に任せた」


 俺が指示を出すとダークネスは無言で頷いた。

 それから俺たちは同時にスキルを発動させた。


「「──【瞬影シャドウブリンク】」」


 瞬間移動ブリンクスキルによって一瞬で男の背後に回り込んだ俺は、そこからさらに武装スキルを発動させた。


「【黒欲魔爪ゲレスヴァルト】」


 黒い瘴気を纏った斬撃が男の背中を切り裂いた。


致命傷クリティカルダメージを与えました──〝貪狼の爪〟が発動します』


「がっ⁉ は、襲撃ッ⁉ くそ!」


 先制攻撃を受けた男は即座に手斧型のソウルギアを構えた。

 そして武装スキルで応戦しようと試みるが──


「は? 俺のスキルがっ……⁉」


 肝心のそれは発動せず、男は疑問と焦燥で顔を青くした。

 プレイヤー同士の戦いにおいて、動揺は命取りだ。


「けッ、残念だったなァ⁉」


 その間抜けな表情に嘲笑を送りながら、俺は男の胴体を袈裟斬りにした。


『悪意あるプレイヤーを討伐! 名声を105ポイント獲得しました』

『通貨を獲得しました:561ゴールド22シルバー』

『アイテムを獲得しました:上級強化石✕13』

『アイテムを獲得しました:疾走の革靴、簒奪者のベルト』


 光の粒子となって消え去り、戦利品の獲得ログが視界の端に流れた。

 悪賊を一人倒すだけで5万円相当の稼ぎ……いや、アイテムを売れば10万は超えるか?

 これだからPKKは辞められねぇんだよなぁ!ぐへへ!


「くひひっ! 【鎖影剣シャドウリーパー】!」

「ぐあぁあぁッ⁉」


 ダークネスの方も問題無さそうだ。

 見張りの男は光の粒子となって散り、分配されたアイテムのログが流れた。


「よし、このまま中にいる奴らも殲滅するぞ」


 獲得アイテムに歓喜するのも程々に、俺は次の行動に移ることにした。

 NPCと違ってプレイヤーの連絡手段は豊富だからな。

 俺たちの襲撃を仲間に知られては面倒だ。


「くひひっ……了解……」


 俺とダークネスは洞窟の奥へと駆け出した。

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