第33話
俺は洞窟の奥へと駆けていく。
しばらく進むと、他より豪華な内装の部屋に辿り着いた。
「あァ? んだよ。あいつら倒されちまったのか」
そこでは男が一人、ソファの上でふんぞり返っていた。
金色に染めた髪をオールバックにしたヤンキーみたいな風貌の男だ。
「ったく、仕方ねえな……」
男は俺の姿を見るなり気怠そうに呟くと、立ち上がってソウルギアを顕現させる。
手にしたのは
(コイツが盗賊団を仕切っているヤツか)
俺はすぐさま【鑑定眼】を発動させた。
するとヤツの情報が俺の視界に映し出された。
プレイヤーネーム:ガイ
善悪値:-110
関係性:敵対
所有ソウルギア:壊星棍
STR:1221
VIT:983
DEX:523
AGI:679
INT:345
典型的な脳筋タイプのステータスだな。
相手が格下だからか、ソウルギアが保有するスキルも閲覧できた。
どうやら命中率補正と確定クリティカル効果のスキルを多く保有するみたいだ。
「お前……どっかで見たことあるな。もしかして噂の〝ケイ〟か?」
「あぁ、そうだけど」
別に隠すつもりも無いので俺は素直に答えた。
「くははッ‼ こりゃツイてるぜッ‼ お前をぶっ殺せば兄貴も俺の事を……‼」
野心に満ちた表情を見せるガイ。
その言葉から察するにコイツは〝灰の牙〟のボスでは無いようだ。
言うなれば盗賊団の監督を任された手下Aってところか。
とは言え、ステータス的にはダークネスと同格だから幹部クラスではあるようだ。
「いいから、さっさと俺の騎竜を返せよ。お前と雑談しにきたわけじゃねーんだ」
「なッ……!」
ぶっちゃけ〝灰の牙〟におけるコイツの立場はどうでもいい。
重要なのはコイツが俺の
「クソが、舐めやがって……ダークネスに勝ったからってイキってんじゃねぇぞ⁉」
俺の態度に苛立ったのか、ガイが猛然と突進してきた。
とても強者とは思えない単調な攻撃だった。
『VITの高さと確定クリティカルでゴリ押しするタイプだな。ま、あのSTRの高さなら一撃当てさえすりゃ、並大抵のプレイヤーは倒せるだろうが……』
マモンが言わんとしている事は、俺もすぐに理解できた。
コイツの戦闘スタイル……たぶん
……こりゃ俺が出しゃばらなくてもダークネス一人で制圧できたな。
「……【
俺は瞬時にガイの背後に回り込むと、その背中を切り裂いた。
「がッ⁉ てめぇが何で〝影剣〟のスキルを……⁉」
「さぁ、何でだろうな? 土下座して詫びるなら教えてやってもいいぜ? 騎竜盗んでゴメンナサイってな」
「ふ、ふざけんなッ⁉」
俺に挑発されて、怒りを顕にしたガイは手にした鈍器を振り下ろす。
だが、そこに俺の姿は既に無く、地面を叩き付けただけだった。
「がはッ……⁉」
またもや俺から不意討ちを喰らい、ガイがよろけた。
「【
そのスキを逃さず、俺は怒涛の剣撃を叩き込んだ。
さらに装飾品のオプション効果が発動、追加で感電効果が発生する。
「ぐッ……はぁはぁ……」
「結構しぶといな。やっぱそのスキルの恩恵か?」
結構なダメージを与えたはずだが、ガイのHPはまだ残っていた。
恐らくヤツの持つスキルの恩恵だろう。
【猪突猛進】
効果:HPを1.5倍に増加。さらに攻撃中は被ダメージを25%軽減する。
なかなか良いスキルを持ってんじゃねぇか。
相性の悪さがなければ、コイツもそれなりに強いんだろうな。
『ククッ、欲しくなってきたか?』
俺の心を見透かしたように、マモンが語りかけてきた。
ああ、正直に言うと欲しいな。騎竜の事といい、俺に手間暇かけさせたんだ。
それくらいの謝礼があって然るべきだろう?
「まさか、俺のスキルが見えてんのか……ッ⁉」
目を見開くガイに俺はとびきり邪な笑顔を返してやった。
「あぁ、見えてんぞ。んでもってソイツは俺が貰ってやるよ」
そう答えた後に、俺はマモンでガイの首を刎ねた。
『悪名高いプレイヤーを討伐! 名声を230ポイント獲得しました』
『称号:〝悪行は許さん〟を獲得しました。DEXが永久的に10ポイント増加します』
『通貨を獲得しました:42300ゴールド23シルバー』
『アイテムを獲得しました:帰還石✕11、上級強化石✕46、保管庫の鍵✕1』
『アイテムを獲得しました:蛮族の腕輪、隠密の外套、蛮族の首飾り、悪魔の仮面』
ガイを倒すと同時に戦利品のログが流れた。
アイテムとゴールドを見た瞬間、思わず俺の頬が緩んだ。
「うへへへ……!」
流石は上位プレイヤーだけあって、所持金も桁違いに多かった。
マモンの強化費用があっという間に回収できたな。
『──【
次に表示されたのはスキルの発動確認だ。このメッセージもすっかり見慣れてきた。
つか、やっぱりこのスキルは俺の物欲に反応しているみたいだな。
「発動だ」
俺が了承の意を返すと、視界にログが流れた。
『【
『【
驚いたことに、今回は二つもスキルを取得できた。
【壊震撃】
効果:渾身の力で攻撃する。この攻撃によるクリティカル発生率は100%となる。
こっちは確定クリティカル攻撃のスキルだな。これもかなり強そうだ。
完全に別スキル扱いだから【
「さてと、さっさと盗品を回収して街に戻るか」
スキル効果の確認を終えた俺は、部屋の隅にある頑丈そうな扉に目を向けた。
『この扉の向こうが盗品の保管庫のようだな』
「だろうな」
わざわざ周囲の岩盤を加工してまで取り付けられたものだ。
つまり、それだけ大切なモンがこの奥にあるってこった。
「とりあえずぶっ壊せばいいのか?」
『さっき鍵を拾っただろう? わざわざ壊さなくてもそれを使えばいい』
そういや、さっきアイツがドロップしたな。
俺はインベントリを開いて拾った鍵を実体化させた。
鍵穴にそれを差し込むと、すんなりと扉は開いた。
「何だよ、殆ど何も無いじゃねぇか」
中にはアンティークな箱が置かれているだけで、他に盗品らしきものは見当たらない。
まさか既に別の場所に運んだ後なのか?
そんな風に考えていると、マモンがカチャカチャと震えた。
『いや、その箱の中を見てみろ。それはハウジング用の収納ボックスだ』
マモンに言われてなるほどなと思った。
収納ボックスとは、言わば追加インベントリだ。このアイテム本体が、プレイヤーの持つインベントリと同じ機能を有している優れものである。
これを活用する事でプレイヤーはより多くのアイテムを持ち歩いたり、設置して倉庫代わりにする事ができるのだ。
「マモンの言う通りだな。騎竜もこの中にあるみたいだ」
収納ボックスの中身を確認すると、数十頭の騎竜が収納されていた。
この世界における騎竜は普通に生き物なのだが、プレイヤーにとっては騎乗アイテム扱いである。だから、こうやってインベントリに収納できてしまうのだ。
その点についてNPCが疑問に思うことも無いのは、やはりゲームだからなんだろうな。
──ピコンッ
ふと、そんな通知音が鳴った。
通知画面を確認すると、ダークネスからのメッセージが届いていた。
あちらも盗賊の掃討が終わったようだな。
「それじゃ、街に帰還するか」
俺は収納ボックスを自分のインベントリに仕舞い込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます