第20話

「ふんふんふふ~ん♪」


 翌朝──俺は清々しい気分でソウルブレイドの世界に降り立った。

 ちなみにログインする場所はいつも同じ地点で、街に設置された祭壇のような場所だ。

 このゲームじゃNPCがリアルタイムで動き回ってるからな。

 ログインした時に座標が重ならないようにログイン地点がある程度決められているらしい。


『よう、今朝は何だか機嫌が良さそうだな』


 ログインして間もなく、マモンが勝手に顕現して話しかけてきた。


「おう、わかるか?」

『まぁ、それだけ楽しげに鼻歌を歌ってりゃな。何かいい儲け話でもあったのか? なら俺様にも教えろよ』

「んなもんねーよ。昨日PK野郎から奪い取ったアイテムの売上が入ったろ? それで久々にウルちんに赤スパ投げたんだよ」

『……なんだ、そっちか』

「ふあぁぁぁ……思い出すだけで至福の時間だったぜ! 久々にウルちんにコメント読んでもらえたし……!」


 つい興奮しちまって5万円ほど投げちまったが許してほしい。

 だってウルちんが尊すぎるんだもの。


『ちっ、聞いて損したぜ』


 刀装具を器用に鳴らして舌打ちしやがるマモン。相変わらず態度悪いな、コイツ。

 ふっ、まぁいいさ。いつもならイラッとするところだが、今は気にならない。

 ウルちん成分を補給したばかりの俺は幸福感に包まれて無敵なのだ。


『それより今日はどうするんだ?』

「あぁ、実はもう決めてあるんだ……そろそろ来ると思うんだが……」


 答えながら俺はメッセージ機能を呼び出した。

 連絡が来ていないか確認しようとした矢先に、背後から声をかけられた。


「よ! 待たせたな!」


 振り返ると、そこにいたのはアキラだった。

 現実と同様にチャラそうな見た目をした彼は、大きな盾型のソウルギアを背負っていた。


「おぉ、待ってたぜ」


 言うまでもないが、呼んだのは俺である。

 ちょっとしたを頼みたくて、呼び出したのだ。

 それにしても、ゲーム内で会うのは初めてだが盾型のソウルギアってのは意外だな。

 外見的に剣とか槍とか王道的な武器を持ってそうなものだが……。


「何だよ、人のソウルギアをジロジロ見て」

「いや、陽キャ代表みたいなお前の装備が盾って、意外だと思ってな」

「あぁ、よく言われるよ。ま、俺ってこう見えて堅実なタイプだし? それがソウルギアに反映されたんだろーな」


 アキラの説明に俺は納得した。

 確かにコイツは見た目こそチャラいが、勉強とかは真面目にやってたんだよな。

 進路とかも早いうちから色々と考えていたようだし、根が堅実的ってのはその通りだ。


「それより頼み事ってのはなんだ?まさかレイドを二人でクリアするなんて無茶言わねーよな? 俺はお前みたいな強いソウルギアは持ってねーぞ?」

「俺がレイドをソロクリアした事知ってんのか?」

「当たり前だろ? ゲーム内であんだけ大々的に告知が流れたんだから」


 あー、あれってゲームにログインしてるヤツ全員に表示されるもんな。

 称号収集に興味はねーから気にしてなかったけど、よく考えりゃすごいことだ。


「それに獲得称号もヤバいからな。レイドのソロクリアとか普通はやろうとも思わねーよ」

「そうなのか? 上級者ほどそういうのやりたがりそうだけど」

「このゲームはリアルタイムで物事が進むだろ? だからクエストに失敗したら基本的に再挑戦できないんだ。やり直しが効かねーから上級者ほどリスクを回避したがるのさ」


 あぁ、なるほどな。コンティニューできないなら慎重になるのも頷ける。

 レイドのレアな報酬を台無しにするくらいなら、堅実にクリアした方が得だしな。


「それにしても、よくそんな細かい情報まで覚えてたな。ログ流れたの一瞬だったろ?」

「なんだ知らないのか? 世界の魂刻アカシックレコードはシステムインターフェースからいつでも詳細が見れるぞ」


 そう言ってアキラはシステム画面を開いて俺に見せてきた。

 表示されていたのは、世界の魂刻アカシックレコードの保有者一覧だった。


「へぇ、こんな機能があるんだな」


 わずか七名ほどの短いリストの中に確かに俺の名前があった。

 さらには獲得した称号も掲載されており、右端のボタンから詳細を閲覧できるようだ。

 俺は何気なく自分が獲得した称号の一つにタッチしてみた。

 獲得時に少し気になっていた称号、その詳細画面が表示された。


<副団長のハートを射止めた男>

 アルレ騎士団の副団長フラヴィアに恋情を抱かせた者に送られる称号。

 純真な彼女の心はとても繊細。うっかり傷つけて殺されないように注意しよう。


「……」


 俺は無言のままウィンドウをそっと閉じた。

 うん、見なかったことにしよう。なんか怖い事書いてたし。


『……ま、いいんじゃないか? 概念的にはお前の好きなVライバーとやらと大して変わらんだろ?』


 一連の行動を見ていたマモンが適当なことを言い出す。

 いや、そういう問題じゃねーんだよな。書いてる事が不穏なんだよ。

 そもそも、俺の推しは赤檮ウルただ一人なんだよ!

 ヴァーチャルならなんでも良いわけじゃねぇ!


「ケイ、どうかしたのか?」

「いや、なんでもねぇ。それより頼み事の件だけど……」


 答えつつ、俺はインベントリからゴールドを具現化してアキラに差し出した。

 手渡した金額は8000ゴールド。昨日フラヴィアから受け取った報酬額そのままだ。


「え? くれるのか?」

「んなわけねーだろ。そりゃ軍資金だ」

「は? どういう意味だ?」


 怪訝な表情を見せるアキラに、俺はニヤリと笑いながら答えた。


「俺は闘技場に参加するつもりだ」


 何を隠そう、先日のレイド報酬で大量の名声ポイントを獲得した俺は、今日から闘技場に参加するつもりだった。そこでPVPによる荒稼ぎを行うつもりだ。


「けどよ、このゲームは自分自身に賭ける事ができねーんだよ」


 そんな闘技場には出場選手の勝敗を賭けるギャンブル機能があった。

 だが、残念な事にこの機能は自分自身にベットする事ができない。

 そこで俺はアキラを呼ぶことにしたのだ。

 リアル幼馴染で友人のコイツなら信頼して金を預けられるからな。


「なるほどな。それで俺を呼んだのか」

「そういうことだ。あ、自分の金があるならそれも全額俺に賭けといた方がいいぜ。もし俺が負けたら素材の売上で補償してやってもいいくらいだ」

「大した自信だな……勝算はあるのか? 言っとくが闘技場じゃステータスが格下の相手とはマッチしないぞ?」


 アキラに問われて俺は自信満々に答えた。


「当然だろ?」

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