好きなところ side雪音

 六華と葛飾さんに嫉妬してから数日が経った。その間も、六華から葛飾さんに対するスキンシップは続いており、その度に嫉妬の視線を六華に向ける。

 最近は六華の行動一つ一つが気になってしまい、いつも彼女の事を考えてしまう。

 そのせいで雫たちと話していても内容が頭に入ってこず、場に合わせた軽い返事しかできない。


 そんな状態が続いて金曜日。今日も六華から葛飾さんへのスキンシップは止まらない。


 私が今日も六華のことを見ていると、彼女が何やら葛飾さんに話しかけた。すると、葛飾さんが六華の方に耳を寄せる。

 それに合わせて六華も顔を近づけると、口元に手を当てながら、いかにも内緒話をしていますと言わんばかりの雰囲気を醸し出す。


(また私がされたこともないことを葛飾さんと)


 ここ数日間で、一番の嫉妬を瞳に込めながら六華のことを見る。いや、もはや睨みつけていると言っても過言ではないだろう。

 そして話も終わったのか、六華が顔を離そうとした時、葛飾さんから突然「ひゃ!?」と言う悲鳴のようなものが聞こえた。


(なに!?今度は何をしたの六華!)


 私はもう彼女への嫉妬で気が狂いそうだった。今回のことは直接彼女に聞かなければならない。そう感じた私はスマホを取り出すと、トークアプリを開いてメッセージを送る。


『今日一緒に帰るよ』


 少し命令っぽくなってしまったが、これは仕方ないことだ。私には今、お願いするように話しかける余裕はないし、お願いだと断られる場合がある。

 だから命令形になってしまったのは仕方ないはずだ。


 とにかく、放課後一緒に帰る時、さっきの事を彼女に聞かなければならない。

 しかし、放課後まではまだ時間があるため、とりあえずこの後の授業も頑張ろうと気合を入れた。





 午後の授業もなんとか乗り切り放課後になった。

 私と六華は今、手を繋いで歩いている。前まではこういった少しでも目立つようなことはしなかったのだが、最近の六華は葛飾さんとのスキンシップが多いため、私の六華だと周りにアピールする意味も込めて手を繋ぐようにしている。

 そして、今日最も聞きたかったことを彼女に尋ねる。


「六華。今日休み時間の時、葛飾さんの耳元で何してたの?」


「耳に息を吹きかけてからかっただけだよ」


「ふーん。何か内緒話したとかじゃないの?」


「そんなことしないよ。それより雪音、土曜か日曜にデート行かない?」


 どうやら内緒話をしていたわけではないようだが、それでも耳に息を吹きかけるなどの悪戯を私はされた事がない。

 その事でまた嫉妬しそうになったが、六華から久しぶりにデートのお誘いを受けた。

 私はそれだけでさっきまで嫉妬に染まりそうだった心が晴れやかになり、すぐに返事をする。


「行く!」


「よかった。どっちに行こうか」


「なら、土曜日がいいかな」


「りょーかい。場所は考えてあるから、楽しみにしててね」


 こうして、急遽六華とデートする事が決まった。どこに連れて行ってくれるのかは分からないが、彼女といられるのなら、きっと何処でも楽しいだろう。





 翌日。今日は六華とのデートという事で、待ち合わせは11時だが、しっかりと準備をしたいので8時には起きる。

 デート中にお腹が鳴るなど万死に値するため、朝食もしっかりと摂る。

 そして、いつもより可愛く見てもらえるよう、髪型や服装、メイクなどにもいつも以上に時間をかける。


 ひと通りの準備を行い、終わった頃には10時15分だった。

 30分には家を出ないと遅れてしまうので、結構ギリギリになってしまったが、なんとか間に合ったと安堵する。

 そして、予定していた時間になったので、お出かけ用のカバンを持って家を出た。


 待ち合わせの駅に向かうと、すでに六華は来ていた。

 待たせてしまった事に対して謝ったが、彼女は気にしなくていいと言いながら、今日の私も可愛いと褒めてくれる。


(可愛いって言われた。早起きして頑張ってよかった!)


 褒められて嬉しかった私は、彼女のこともかっこいいと褒めてみる。すると彼女も嬉しかったのか、照れながらも「ありがとう」と言ってくれた。

 お互い少し恥ずかしくなったので、話を変えるために今日の目的地について尋ねる。


 その際、さりげなく彼女と腕を組む。前に葛飾さんとこうしていたのを見て羨ましかったのでやってみたが、いつもより六華の顔が近いので、恥ずかしさから顔が熱くなる。


「それで六華、今日はどこに行くの?」


「それは着いてからのお楽しみって事で。それと、お昼もそこで食べる予定だけど大丈夫?少しお昼過ぎちゃうかもだけど」


「大丈夫だよ。朝もしっかり食べたし、そこまで気にしなくてもいいよ」


「わかった。じゃ、行こうか」


 やはり行き先は教えてもらえなかったが、今は彼女と腕を組めたという幸せをかみしめることにした。





 歩くことしばらく、連れてこられたのは最近できたばかりの水族館で、私がここ最近で最も来たかった場所だった。


「わぁ!ここって、最近できた水族館じゃない?」


「そうだよ。雪音は水族館が好きだから、せっかくなら一緒に来たくてね」


「ありがとう、六華!」


「どういたしまして。さっそくチケットを買って中に入ろうか」


 六華はそう言うとまた歩きだし、入場チケットを買いに向かう。


(ほんと、こういうところが好きなんだよなぁ。六華とならどこでも楽しいけど、さり気なく私の好きなところに連れて行ってくれるところがかっこよくて好きなんだよね)


 私はそんな事を考えながら六華を横顔を眺め、胸を高鳴らせた。




「すごく綺麗」


 館内に入ってすぐ、私は内装の綺麗さに見惚れてしまった。水槽の配置やそれらを照らす綺麗なライト、その中を泳ぐ魚たちの美しさが私の心を躍らせる。


「六華、早く行こう!」


 私はそう言うと、組んでいた六華の腕を引いて、さっそくいろいろと見て回る。

 柱型の水槽に入ったクラゲや丸い球状の水槽に入ったカラフルな小魚。トンネルの形をした水槽の道を歩いた時は、興奮のあまり子供のようにはしゃいでしまった。


 深海魚のコーナーでは、珍しい見た目の魚や奇妙な顔の魚を見たり、触れ合いコーナーではドクターフィッシュの水槽に手を入れて、あまりのくすぐったさに笑ってしまった。


 その後は近くのお店にお昼ご飯を食べに行く。時刻はお昼時を過ぎていたため、私たちはすぐに席に着くことができた。

 私はオムハヤシライスを注文し、六華はカルボナーラ風うどんを注文する。

 注文した料理が来るまでの間、私と六華はさっきまでいた水族館の話をする。


「雪音、今日はどうだった?」


「すごく楽しかったよ!新しく出来ただけあって、他の水族館で人気なものを真似て作られた物もあるし、逆にここにしかない物もたくさんあったから、すごく良かった!」


「雪音に楽しんでもらえてよかった。私も楽しかったし、良い一日になったよ。今日はありがとね」


「ううん。私こそ連れてきてくれてありがとう」


 私は、今日この場所に連れてきた六華に感謝を伝える。その後もしばらくの間、水族館での話などをしていると、注文した料理が運ばれてくる。

 その後、私たちは料理を食べ終え、お土産コーナーを見るために水族館に戻る。そこで六華が好きそうな可愛い子供ペンギンのキーホルダーを見つけたので、お揃いで買わないか聞いてみることにした。


「六華、このキーホルダーお揃いにしない?」


「可愛いね。いいよ、お揃いで買おっか」


 六華はそう言うと、私と同じペンギンのキーホルダーを手に取ったあと、カワウソのぬいぐるみも手に取りレジに向かおうとする。


「六華って、意外と可愛い物好きだよね」


「まぁね。可愛い物を見てると、疲れとか忘れられるんだよね」


 六華はそう言うと、私と一緒にレジへ向かいお会計を済ませる。その後はもう一度館内を見て回り、私たちは帰ることにした。





 電車に乗ってしばらく経つと、最初に私が降りる駅に着いた。

 六華と離れるのは寂しかったが、迷惑をかけたくなかったので、何とか笑顔で「またね」と声をかける。

 そうして電車を降りようとしたとき、六華に腕を引かれたので後ろを振り向く。


 すると彼女の顔が少しずつ近づいてきて、私の唇に六華の唇が触れた。突然のキスに驚いていると、六華は唇を離して「またね」と微笑んでくれた。

 私は、また六華がキスをしてくれたのが嬉しくて、さっきの作り笑いとは違う心からの笑顔と一緒に手を振って見送る。

 その後私は、今日のデートと別れ際のキスのことを思い出しながら、幸せな気持ちで家に帰った。





 家に帰宅してからしばらく経った頃、スマホに通知があったので画面を確認してみる。それは六華からのメッセージで、今日のデートに対するお礼だった。


(私の好きなところに連れて行ってくれたんだから、むしろ感謝してるのは私の方なのに。こういう律儀なところも六華らしくて好き…)


 私は改めて彼女の好きなところを実感しながら返信をする。そして、お揃いで買ったキーホルダーを眺めながら一人でニヤニヤし、今日撮った写真を見て夕食までの時間を過ごす。


 夕食を食べた後も時々六華にメッセージを送るが、彼女からの返信はない。そのことに少しの寂しさを感じた私は、気を紛らわすために動画を見たり漫画を読んだりする。

 時計を見ると12時になる少し前で、そろそろ眠くなってきた私はベットに入る。そして電気を消して目を閉じると、少しずつ微睡んでいく。


 そんな時、枕元に置いていたスマホに通知があったので、なんとなくスマホ画面を確認してみた。


『おやすみ』


 それは六華から送られてきたもので、その一言だけで嬉しくなった私は、『おやすみ』と返信をした後、今度こそ眠りにつく。

 しかし、そこにはさっきまでの寂しさなどはなく、ただただ幸せだという気持で眠りにつくことができた。


(はぁ。今日は良い夢が見れそうだなぁ)






◇ ◇ ◇ ◇ ◇

よければこちらの作品もよろしくお願いします。


『距離感がバグってる同居人はときどき訛る。』


https://kakuyomu.jp/works/16817330649668332327

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