私の本音
家に帰ってきた私たちは、部屋に向かっていき荷物を床に下ろす。
莉緒は疲れたのか、そのままベットに座ると寝転がり目を閉じた。
「寝ないでね。この後すぐご飯だと思うし」
「んー。わかってる」
ちゃんと伝わったのかは分からないが、寝てたら私が起こせば良いだけの話なので、とりあえず彼女のことは放置して、床に置いた荷物を端の方へと寄せていく。
それから少しして、母親にご飯の用意ができたと言われたので莉緒に声をかける。
「莉緒、ご飯だよ」
しかし、やはり寝てしまったのか莉緒からの反応はなかった。
私はベットに近づき、彼女の体を揺すりながらもう一度声をかける。
「莉緒、ご飯だから起きて」
「…ぅん?…あぁ、わかった」
ようやく起きた莉緒は、ベットから降りるとフラフラしながら扉の方へと歩き始める。
そんな姿が何とも不安で、私は仕方なく彼女の手を引く。
「どした?」
「そんなにフラフラだと、階段で転びそうだからね」
「…あんがと」
一階に降りると、テーブルにはいつもより少しだけ豪華な料理が並んでいた。
どうやら、莉緒が泊まりにくるからとお母さんが気合を入れて作ったようだ。
「ようやく来たわね。…って、あら?あなたたち手なんて繋いで、相変わらず仲が良いわね」
「莉緒が寝起きでフラフラしてたから繋いだだけだよ」
「今日はお世話になります」
「はい、よろしくね。莉緒ちゃんが泊まりに来るのは久しぶりだから少し張り切っちゃったわ。冷める前に食べましょ?」
お母さんが言う通り、莉緒がうちに泊まりにくるのは久しぶりだ。
というのも、雪音と付き合い始めてからは要らぬ誤解を招かぬよう、誰も家に泊めないようにしていたからだ。
「それにしても、莉緒ちゃんは相変わらず派手な髪色ね」
「変でしょうか」
「いいえ。すごく似合ってて可愛いわよ。そういえば、雪音ちゃんも最近こないけど喧嘩でもしたの?」
雪音は高校に入りたての頃、何度か私の家に遊びに来たことがあるので、両親も彼女のことは知っている。
「そんなんじゃないよ。最近忙しいみたいだから遊べてないだけ」
「そう。あなたは友達が少ないんだから、莉緒ちゃんや雪音ちゃんを大切にしないとダメよ?」
「わかってるよ」
その後も、お母さんと莉緒は学校のことや最近の出来事について楽しそうに話、終始賑やかな状態で夕食を食べ終えた。
ご飯食べ終わったあとは、眠そうだった莉緒を先にお風呂に入らせた後、私もお風呂を済ませて部屋に戻る。
すると、いつになく真剣な顔をした莉緒が私の方を向く。
「戻ってきたな。よし、ここに座りな」
私の部屋のはずなのに、何故か莉緒に指示されて彼女の隣に座る。
「どうしたの?そんな真剣な顔して」
もともと、莉緒が突然泊まりに来ると言った時点で何かあるとは思っていたが、彼女の表情からしておふざけとかではないことがわかる。
だから私も真剣に話を聞くため、彼女と目を合わせて尋ねた。
「なぁ、六華。お前は今、雪音さんと付き合ってて楽しいか?」
「何かと思ったら、そんなの当たり前でしょ?楽しいに決まってるじゃん」
「なら、何で最近寝れてないんだ?」
私は何故寝れてないのかと聞かれ、思わず黙ってしまう。
莉緒はその理由に気づいているだろうし、だから今日も最後にアロマショップに寄ってくれたのだろう。
「雪音さんが抱きしめられてるのを見たあの時からだろ」
「…やっぱり気づいてたんだね」
「当たり前だろ。それで、実際どうなんだ。付き合ってて楽しいのか?お前は幸せなのかよ。好きなものを我慢して、感情を押し殺して、お前はそんなんで幸せなのか?」
多分莉緒は、私の本音を聞き出そうとしている。だから今日は私が好きなものに触れさせて、より感情的になりやすいようにしたのだろう。
それは彼女なりの優しさからくるものであり、おそらく私の気持ちを少しでも楽にさせるためだ。
だから私も思わずそんな彼女の優しさに甘えてしまい、少しずつ感情を言葉にしていく。
「…辛い。すごく辛いよ。今日久しぶりにスカートを履いて、猫に触れて、やっぱり好きだって感じた。
雪音が私に嫉妬するようになって、感情的になるのを見せられて、何で私だけ我慢してるんだろうって思った」
一度感情を言葉にすると、もはや止めることはできず、勝手に感情が言葉となって出ていく。
「でも、それ以上に雪音のことがやっぱり好きなんだ。だから彼女を全てから守りたいし、こんな醜い感情を知られて嫌われたくない。
雪音が近くで幸せそうに笑ってくれるのが嬉しくて、だから私が我慢すればそれで良いと思ったんだ」
「なら、何で雪音さんを依存させる計画なんて立てたんだ?我慢すればいいなら、そんな計画立てずにいつも通りでも良かっただろ」
莉緒はここまでの話を聞き、何故依存させる計画なんかを立てたのかと聞いてくる。
私はしばらく黙ったあと、気持ちを整理しながら話す。
「不安…だったんだ。雪音は人気者だし、私と違って友達も大切にしていた。
だから、いつか雪音に別の好きな人ができて捨てられるんじゃないかって怖かった。
雪音は私にとっての全てだし、彼女が隣で幸せそうに笑ってくれる嬉しさを知ったら、絶対に手放したくないと思った。
だから、私に依存してくれたらずっと離れないでそばにいてくれると思ったんだ」
私がここまで話すと、莉緒は何も言わずに抱きしめてくれる。
いつもならやめるように言うところだが、今はそんな彼女の優しさが嬉しくて、自然と涙が溢れてくる。
「お前はよく頑張ってる。確かにやり方は間違ってるかもしれないし、愛だって重い。
ただ、人によって愛の重さも考え方も違うんだから、正解なんてないんだよ。
なら、お前はお前のやりたいようにやれば良いさ。それで振られたら私が慰めてやる。それに、お前も覚悟は出来てるんだろ?」
莉緒は私の背中を撫でながら、落ち着かせるように優しく語りかけてくれる。
私は莉緒から体を離すと涙を拭って、彼女に覚悟が伝わるよう目を見ながら答える。
「もちろんだよ。後悔が残らないように頑張るから、最後まで見届けてね」
「あぁ。任せな。ちゃんと見ててやるから」
莉緒が見届けてくれるなら、少なくとも私の頑張りは誰かの記憶に残る。
それに、最悪の場合は莉緒が慰めてくれるらしいので、一人で泣くことにはならなそうだ。
なら、あとは私が自分で決めたことを最後までやり切るのみだ。
「ふふ。莉緒ってほんと、いい女だよね」
「今更か?私は昔からいい女だぞ。なんなら、今から付き合うか?」
「それはやめておくよ。私に莉緒はもったいないからね。それに、私には雪音がいるし」
「冗談だよ。…さて、お前もだいぶ落ち着いたみたいだし、買ってきたアロマでも焚いて寝るか」
「そうだね。せっかく莉緒が選んでくれたわけだし、そうしようか」
その日の夜は、莉緒が選んでくれたネロリのアロマを焚いてみた。
買う時の説明によれば、ネロリは精神安定の効果があるらしく、莉緒には即決でこれを買わされた。
確かに落ち着く良い香りがして、最近寝れてなかったのもあり、私の意識は少しずつ微睡んでいく。
そして、数分で私は深い眠りへと入っていった。
翌日。私はここ最近感じていた気怠さを感じることなく目が覚める。
頭はとてもスッキリしており、どうやらアロマのおかげで熟睡できたようだ。
しかし、起きようと思い体を動かそうとするが、何故か思うように体が動かない。
私は疑問に思って下の方に視線をやると、莉緒が私のことを抱きしめていた。
「なんで莉緒が同じベットで寝てるんだろ」
確か、昨日は莉緒が寝る布団を床に敷いたので、彼女はそちらに寝ているはずだ。
記憶を遡ってみても、寝る前は確かに別々に寝ていた。
なら、何故彼女がここで寝ているのか。それを知るには起こして直接聞くのが一番なので、私は莉緒の体を揺する。
「莉緒、起きて」
しかし、彼女も熟睡しているためか、一向に起きる気配がない。
いつまでも起きない彼女に少しイラついた私は、頭を思い切り叩く。
バシッ!
しかし、一度叩いただけでは起きる気配がなく、私は何度も彼女の頭を叩く。
「…ぅぅ。なんだぁ?どうした」
「どうしたじゃない。起きて今の状況について説明して」
「じょーきょー?」
莉緒はまだ眠そうにしながら体を起こすと、周りを見て少しずつ状況を理解していったようだ。
「…あぁ。なるほど。あのままここで寝ちまったのか。てか頭いたいんだけど…もしかして叩いた?」
「何か知ってるなら早く教えて」
「まじで覚えてねーのか?昨日お前が寝たあと私がトイレに行ったんだけど、布団に戻ろうとした時にお前が手を掴んで引き摺り込んだんだろうが。あと頭叩いたのか?」
「私が?」
「そうだよ。しかも思いっきり抱きしめてくるから抜け出すこともできなくて、結局そのまま寝ちまったってわけだ。それと頭叩いたのか答えろ」
どうやら、原因は寝ぼけていた私にあったようだ。
まぁ、莉緒はシスコンだし、こんなことで嘘をつくような性格でもないため、今の説明にも納得ができる。
「一応謝っておく。ごめんね」
「それは引き摺り込んだことに対してか?頭を叩いたことに対してか?」
「両方」
「チッ。やっぱ叩いたのかよ。はぁーあ。昨日はせっかく相談に乗ってやったのに。恩を仇で返された気分だ」
「それについては感謝してるよ。ありがとう」
「へいへい。私はもう少し寝るよ」
莉緒はそう言うと、自分の布団へと戻っていき、すぐに眠りについた。
私はあまり眠くなかったので、スマホを眺めながら明日以降のことを考える。
(莉緒のおかげで気持ちもスッキリしたし、自信も持てた。なら、あとは自分で決めたことを悔いのないよう最後までやるだけだ)
今後どんな結果になるのかは分からないが、改めて覚悟を決めた私は、まずは邪魔なゴミを片付けるために動こうと思うのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
よければこちらの作品もよろしくお願いします。
『距離感がバグってる同居人はときどき訛る。』
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