お弁当です
今日は日曜日。莉緒と妹ちゃんと一緒にスイーツの食べ放題に行く日だ。
連日のお出かけは正直しんどいが、莉緒にはいつも助けられているので断ることはできない。それに、妹ちゃんも楽しみにしていると言われれば、行かないわけにはいかないだろう。
待ち合わせは12時にお店の前なので、私は支度を済ませて家を出る。
待ち合わせ場所に着くと、まだ莉緒たちは来ていなかったので、しばらくお店の近くで待つことにする。
「ごめん、遅れた。妹の準備に手間取ってよ」
「大丈夫だよ。それで、そっちの子が?」
「初めまして!葛飾莉緒の妹、
「胡桃ちゃんか。ちゃんと挨拶できてえらいね」
私はそう言いながら、胡桃ちゃんの頭をそっと撫でる。
胡桃ちゃんは小学5年生で、莉緒とは少し歳が離れている。
そのためか、莉緒は彼女の事をとても大切にしており、たまに自慢話も聞かされていた。
そんな胡桃ちゃんは、私に頭を撫でられながら、気持ちよさそうに目を細める。
「莉緒。確かに胡桃ちゃん可愛いね。自慢したくなるのもわかるよ」
「だろ?胡桃は世界一可愛いからな」
私たちがそんな話をしている間も、胡桃ちゃんは私に頭を撫でられることが気持ちいいのか話を聞いていいないようだった。
しばらくの間、胡桃ちゃんのことを愛でた後、今日の目的であるお店に入ることにした。
「いらっしゃいませ」
「予約した雪喰です」
「かしこまりました。席にご案内いたします」
私が予約していたことを伝えると店員さんが席まで案内してくれる。
そして案内された席に着くと、莉緒が私に話しかけてきた。
「なぁ、お前いつの間に予約したんだよ」
「ここに来るって決まった日だよ。ここ、結構人気店だし、日曜日となると混んでてなかなか席に座れないからね。その間、胡桃ちゃんを立たせておくのも申し訳ないし」
「なるほどな。胡桃のことを気遣ってくれたのか。あんがと」
「気にしなくていいよ」
そして私たちは、テーブルに備え付けされたタブレットでメニューをみて、そのまま食べたい物を注文していく。
胡桃ちゃんはいろいろな種類のスイーツが出てきて嬉しいのか、終始瞳を輝かせて食べていた。そして、それは莉緒も同じで、彼女も嬉しそうにスイーツを食べていく。
(こうして見ると、やっぱり姉妹だね。スイーツ好きなところとかそっくりだ)
私はそんな二人を眺めながら、食べたい物を少しだけ注文して食べる。
そして、食べ放題の利用時間も残り30分となった時、胡桃ちゃんが少し苦しそうな顔をしていた。
「胡桃ちゃん、もうお腹いっぱいかな?」
「…はい。でも、まだ注文した物が…」
彼女はそう言いながら、目の前にあるいくつかのスイーツを見る。
残すのは勿体無いので食べたいのだろうが、お腹がいっぱいで食べられないのだろう。そんな胡桃ちゃんが可哀想だったので、私は彼女を助けることにした。
「なら、私が食べるの手伝ってあげるよ。私はまだ食べられるからね」
「ありがとうございます!」
胡桃ちゃんはそれを聞くと、嬉しそうに笑った。そして、私も胡桃ちゃんが注文した物を食べる手伝いをして、なんとか全部食べ切ることができた。
ちなみに莉緒は、自分で注文した物をアホみたいに食べまくっていた。
食べ放題の時間も終了したので、私たちは少しだけ休んだ後、支払いを済ませてお店を出た。
それからしばらく歩いていると、胡桃ちゃんは少し疲れたようだったので、莉緒がおんぶをする。
すると、胡桃ちゃんは疲れと満腹感で眠くなったのか、すぐに眠りについた。
「いやー、今日ありがとう。凄くおいしかったよ」
「別にいいよ。いつも協力してもらってるお礼だし、約束だからね」
「確かにそうだけど、胡桃への気遣いも凄く助かった。ほんとは私がもっと面倒見るべきなのに、食べるのも手伝ってもらったりして悪かったな」
「まぁ、今日のメインは莉緒なんだし、莉緒には満足いくまで食べてもらいたかったからね。たまには自分の好きなことに夢中になってもいいでしょ」
「お前はほんとに…。はぁ。あんがとよ」
莉緒はその言葉を最後に話すことはなかった。なので私も特に何も返さず、黙って歩く。
そのまま駅に着くと、今日はそこで解散となった。
月曜日。今日はチャイムがなる少し前に登校する。前に、時間に余裕を持って行ったら、雪音に連行されたので、今回はそれを避けるためだ。
教室に入ってすぐ、雪音の方から視線を感じたが、そちらを見ることはなく無視をする。
そして、席について教科書などを準備していると、すぐにチャイムがなり先生が教室に入ってきた。
それから午前中は何事もなく進む。雪音が話しかけにこようとしたら、私は席を立ってトイレに行ったり、莉緒と話して距離をとる。
お昼の時間になると、私は食べる物を買いに莉緒と一緒に教室を出ようと入り口まで向かうが、そこで予想外のことが起きた。
長谷川さんが何故かお弁当を持って私の教室まで来ており、ちょうど教室を出ようとしていた私たちと出会したのだ。
「長谷川さん、お弁当なんて持ってどうしたの?」
「あ!雪喰さん!前に約束した通り、雪喰さんにお弁当を作ってみたので、よければ食べていただけませんか?」
「そういえば、前に食べて欲しいって言ってたね。わかった。ありがたくいただくね。ケースは明日洗って返すから」
「いえ、感想も聞きたいですし、取りにきます!」
「そう?そういうことならりょーかい。待ってるね」
私はそう言いながら、長谷川さんからお弁当を受け取る。
長谷川さんは私にお弁当を渡すと、すぐに自分の教室に戻って行った。
「莉緒。私は食べるものを貰ったけど、どうしようか。一緒にお昼買いに行く?」
「うんにゃ、一人で買ってくる。すぐ帰ってくるから少し待ってな」
「わかった。急がなくていいから、好きなもの買っといで」
莉緒は私の言葉を聞き終えると、自身のお昼を買いに教室を出て行った。
なので私も、莉緒を待つために自分の席に座る。すると、すぐに雪音が近づいてきて声をかけてくる。
おそらくさっきの事について聞きたいことがあるのだろう。
「六華、今すぐついてきて」
「ん?どうしたの雪音。私、莉緒を待たないといけないんだけど?」
「いいから来て」
雪音はそう言うと、私の手首を掴んで引っ張り、無理やり私を連れ出す。
歩いている間に、私はスマホを取り出して莉緒にメッセージを送る。
『雪音』
おそらく莉緒なら、これだけで状況を理解してくれるだろう。
なので私はスマホを閉じて、黙って雪音についていく。すると、誰もいない空き教室に連れ込まれ、雪音はすぐに鍵をかけた。
「ねぇ、六華。さっきのあれはどういう事」
「あれって?」
「お弁当の事だよ!なんであの子からお弁当なんて貰ったの!」
雪音にしては珍しく、私を責めるように言ってくる。
私はそんな彼女の変化が嬉しくてたまらない。だから、さらに彼女の余裕を無くすために土曜日のことを話す。
「なんでって、美桜とは土曜日に遊びに行ったから、そのお礼とかじゃないかな?」
「…は?あの女と遊びに行ったの?二人で?」
「そうだよ?前に一緒に帰った時に誘われてね。せっかく友達になれたんだし、いいかなって」
「いいわけないでしょ!なんで私に一言も言ってくれなかったの!私は六華の彼女だよね!なんで私に黙って他の女に会いに行くのさ!」
「女って。ただの友達だよ?雪音だって友達と二人で遊びに行くことはあるでしょ?それと同じだよ」
「…っ。でも!一言くらい言ってくれてもよかったじゃん!」
「私もこれまで雪音からそんな話は聞いたことないよ?私にだけそれを言うのは少しずるくないかな?」
「…そうだけどっ。でも…でも…」
雪音は最後にそう言うと、泣きそうな顔で俯いてしまった。
(少し言いすぎたかな)
そう思った私は、ゆっくり雪音に近づいて抱きしめる。彼女は先ほどのことがよほどショックだったのか、なおも俯いたまま顔を上げようとしない。
「雪音、ごめん。私も少し言い過ぎたね。これからはちゃんと言うようにするから、雪音も今度からは私に教えてくれる?そうしたら今回みたいにはならないと思うし、お互い安心できると思うんだ。
だから、そんなに不安そうな顔をしないで?大丈夫だから。私が好きなのは雪音だけだよ」
私がそう言うと、雪音は顔を上げて私のことを見てくる。
「…本当に?」
「本当だよ」
「ならキスして」
「わかった」
私はそう言うと、彼女唇に軽く触れるだけのキスをする。
「不安は消えた?」
「足りない。もっとして」
雪音にそう言われては、私は断れないのでまたキスをする。
すると、彼女の方から口の中に舌を入れて絡めてくる。少し驚いたが、私はそれを受け入れて舌を絡める。
しばらくの間、誰もいない教室に私たちの舌を絡める水音が鳴る。
そして唇を離して雪音を見てみると、彼女は蕩けたよう顔をしており、なんとも言えない色気を感じる。
私はそんな雪音が愛おしくて、彼女の制服の襟元を少しずらし、鎖骨のあたりにキスをする。
「んっ。六華、くすぐったい」
「少し我慢して」
少しの間、彼女の鎖骨あたりにキスを続けて唇を離すと、綺麗にキスマークができた。
「何したの?」
「んー。まぁ、あとで確認してみてよ」
「わかった」
雪音の返事を聞いた後、もう一度だけ彼女にキスをして、私たちは教室に戻ることにした。
「ねぇ、あのお弁当食べるの」
「そうだね。せっかく作って貰ったから食べないと申し訳ないし」
「今回は許すけど、今度からは絶対ダメだから」
「わかったよ。彼女にも私から言っておく」
私のその言葉を聞くと、雪音は少しだけ安心したのか、さっきまでの険しい表情からいつもの彼女に戻る。
そして、教室に戻るとそれぞれの席に向かった。
「よ。遅かったな」
「いろいろあってね」
私が席に着くと、莉緒は買ってきたものを食べずに私のことを待っていた。
「先に食べててもよかったのに」
「そしたら一緒に食べてる意味ないだろ。急ぐ理由もないし、これくらい待つよ」
「ありがと」
私が莉緒に感謝の言葉を伝えると、私たちはそれぞれお昼を食べ始める。
私は長谷川さんから貰ったお弁当を食べてみるが、勉強を始めたばかりとは思えないほどにとても美味しかった。
そんな長谷川さんからのお弁当を食べながら雪音の方を見ると、ちょうど鎖骨のあたりにあるキスマークの話になったのか、雪音は顔を赤くしながら何か喋っていた。
そんな雪音を眺めながら、さっきの嫉妬に染まった彼女を思い出し、ここまでの計画が順調である事を再認識するのであった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
よければこちらの作品もよろしくお願いします。
『距離感がバグってる同居人はときどき訛る。』
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