たまにはこういうのも

「六華、土曜一緒に出かけるぞ」


 私は突然の事に驚きながら顔を上げると、莉緒がいつになく真剣な顔をして私のことを見ていた。

 今は金曜日の放課後で、雪音が休んだ日から四日が経ったが、雪音は次の日には体調が治ったからと学校に来て授業を受けていた。


「急にどうしたの?」


「たまにはいいだろ。それと、土曜はそのままお前の家に泊まるからよろしく」


 莉緒は要件だけ言うと、私の返事も聞かずに帰っていった。


「はぁ。せめて待ち合わせ場所とか時間を決めてから帰ってよね…」


 そんな事を一人愚痴りながらも、いつもと変わらない莉緒らしさにどこか安堵して、自然と笑みがこぼれる。


(仕方ない。帰ったらメッセージで聞かないとね。あとはお母さんにも莉緒が来ること伝えないと)


 私は帰ってからやることを決めて、帰り支度を済ませると家へと帰った。





 翌日。私は眠いのを我慢して何とか体を起こす。今日は莉緒と遊ぶ約束があるので、出かけるために準備をしなければならない。


「ねむい。なんで10時からなんて約束したんだろ…」


 昨日の夜、莉緒と待ち合わせ時間や場所について確認を行なっていた時、莉緒の方から待ち合わせ時間を指定されたのだ。


 私は着替えて家を出たあと、待ち合わせ場所に向かいながら昨日のことを思い返してみる。


(それにしても、莉緒から遊びに誘われるとはね。何をするのかも教えてくれなかったし、何かあったのかな?)


 突然の莉緒の行動に疑問を感じるが、彼女が私に害をなすことはないとこの長い付き合いで分かっているので、深く考えることはせずに待ち合わせ場所まで向かった。





 待ち合わせ場所に着くと、莉緒はいつも通り私より早く来て待っていてくれた。


「おはよ。今日はよろしくね」


「ん、おはよ。じゃ、さっそく行くか」


 莉緒はそういうと、私の手を突然繋いで歩き出す。

 彼女は私と同じでスキンシップなどをあまりする方では無いので、いつもと違う行動に驚いたが、たまにはこういうのも良いかと思い振り解くことはしなかった。


「それで?今日はどこ行くの?」


「お前が好きそうなとこ」


「ふーん。よく分からないけど、楽しみにしておくよ」


「任せな」


 私がそう言うと、莉緒は得意げな顔をしながら笑う。

 彼女がどこに連れて行ってくれるのかは分からないが、私のことを考えて連れて行ってくれるのなら悪い気はしないので、黙ってついて行くことにした。





「よし、着いたぞ」


 莉緒に連れて来られたのは、可愛らしい服がたくさん売られたお店だった。


「服?莉緒は服を買いたかったの?」


「んなわけないだろ。言ったろ?お前の好きそうなところだって。たまにはスカートとか履いてみろよ」


「莉緒。私がスカートを履かない理由知ってるよね」


「あぁ。でも、今は雪音さんも居ないし、買わなくても試着するだけならタダなんだから、久しぶりにいいだろ」


 私はしばらく返事をせずに莉緒のことを見続けるが、彼女は特に気にした様子もなかった。


「…はぁ。分かったよ。お金そんなに持ってきてないから、試すだけね」


「それでいいよ」


 私の返事を聞いた莉緒は、また私の手を引いてお店の中へと入って行った。


 お店に入ってすぐ、私は店内に並べられた可愛い服を見て心が躍る。

 莉緒はお店に入ったあと、すぐに手を離して一人でどこかへと行ってしまったので、現在私は一人で店内を見て回っていた。


(あ、このスカート可愛い)


 私が手に取ったのは、黒のロングスカートだった。最近ではスカートを買うことは無くなったが、やはりこういった可愛いものを見るのは好きだと改めて実感する。


 それからしばらくの間、いろいろなものを見て回っていると、何着か服やスカートを持って莉緒が戻ってきた。


「どこに行ってたの?それに、そんなに持ってきてどうしたのさ」


「お前のために選んできたから試着してこい」


 そう言って莉緒は私に持ってきたものを渡すと、試着室へと連れて行く。

 私は仕方ないと諦めながらも、彼女がどんな服を選んでくれたのかと少しだけ期待してしまった。


 それから渡された服を試着して行くわけだが、渡されたもの全てが私好みの可愛いものばかりで、私も段々と楽しくなってきた。

 莉緒が持ってきたものの中にはガーリーな服もあったが、今まで着たことが無かったのでとても新鮮だった。


 そして、最後に残ったのは私が最初に可愛いと思った黒のロングスカートだった。


 私は最後にそれを履くと、莉緒に見てもらうためにカーテンを開ける。


「どう?」


「うん。すごく似合ってるよ。今日の服にも合ってるし、それがいいな」


 莉緒はそう言うと、店員さんを探して声をかける。


「すみません。あのスカート買うので、支払いをお願いします」


「ちょっと莉緒!私買うなんて言ってない!」


「私が買ってやるから黙ってな。それと、このまま履いて帰るので値札とかもよろしくお願いします」


 莉緒は私の意見など無視して、店員さんとのやり取りを進めて行く。

 そして、支払いを済ませると私が来る時に履いていたものを袋にしまい、私が試着室から出てくるのを待っていた。


 諦めた私は、カバンを持って靴を履くと、莉緒が待っている場所まで向かう。


「あとでお金返すから」


「いらん。言ったろ、私が買うって。今日付き合ってくれたお礼だと思って受け取りな」


「はぁ。まったく、強引なんだから」


「それが私だからな。よし、次行くぞ」


 どうやら他にも行くところがあるようで、莉緒と私は自然と手を繋いで歩き出した。





「んーっと。確かこの辺に…お、あった」


 次に連れて来られたのは、様々なお店が並んだ綺麗な街の通りだった。

 どうやらこの中に次の目的地があるようで、莉緒はその場所を探していたようだ。


「んじゃ、行くぞ。気合い入れてけよ」


「そんなやばいところなの?普通のお店でしょ?」


「いや、お前は多分すぐにダメになる」


 言われていることはよく分からないが、何やら私にとってはよく無い場所のようなので、気合を入れて莉緒に続いた。


「いらっしゃいませ〜。何名様ですか?」


「二人です」


「お席にご案内しますね〜」


 お店に入った私たちは、店員さんに案内されながらテーブルに向かう。

 しかし、その途中で私は目にしてしまった。白くてふわふわの可愛いを詰め込んだような生き物を。


「ま、まって莉緒。ここってもしかして…」


「あぁ。猫カフェだ」


 猫カフェと聞いた瞬間、私は立ちくらみがしてフラつくが、莉緒が私を支えてくれた。


「気をしっかり持て!まだ傷は浅いぞ!これからさらにあの可愛いがお前に寄ってくるだ!頑張れ!」


「…そ、そうだ。せっかくの機会なんだから、堪能しないともったいない」


 ここまでの反応でも分かると思うが、私は大の猫好きなのだ。とある理由から猫は避けてきたのだが、せっかく莉緒が作ってくれた機会を無駄にするわけにはいかない。


 私たちは案内されたテーブルに着くと、飲み物と食べ物を注文する。

 頼んだものが来るまで待っている間、私は落ち着かずソワソワしていた。


「り、莉緒。猫ちゃんは今どこに」


「寛いでるのは結構いるが。…お、一匹近づいてきたぞ」


 莉緒が指差した方を見ると、先ほど見かけた白くて綺麗な毛並みをした猫が近づいてきていた。

 そして、しばらく私たちの様子を伺うと、私の膝にジャンプして座ってくれた。


「か、可愛い。莉緒、どうしたら…」


「普通に撫でてやればいいだろ」


「そう、だね。よし。…ふわぁ。毛がふわふわしてる。あ、目を細めた。気持ちいいのかな」


 私が撫でるたびに気持ちよさそうに目を細めて喉を鳴らす姿があまりにも可愛くて、思わずキュンとしてしまう。

 しばらく撫でていると、猫は気持ちよさそうに膝の上で眠り始めた。


「すっかり懐かれたな」


「うん。可愛すぎてやばい」


「そんなに好きなら飼えばいいのに。何ならその子連れて帰れば?確かここ、引き取りできたはずだぞ」


「だめだよ。出来ないのは分かってるでしょ?」


「はぁ、そうか。仕方ないな。ならまた来るか」


「そうだね。たまにならいいかも」


 その後、私たちは頼んだ物を食べながら猫たちとたくさん遊んだり写真を撮ったりした後、猫たちに見送られながらお店を出た。


 ちなみにだが、注文した料理には猫の絵が書いてあったり肉球の絵が書いてあったりしてとても可愛らしかったので、こちらも写真をたくさん取った。





 お店の外に出ると、空は少しオレンジ色になっており、帰るにはちょうど良い時間帯だった。


「莉緒。このあとはどうするの?」


「最後にもう一箇所だけ行く予定だけど、大丈夫か?」


「大丈夫だよ」


「おーけー。こっちだ」


 そうして最後に連れて来られたのは、何の偶然かは分からないが、以前雪音と一緒に行く約束をしていたアロマショップだった。


「なんでアロマショップなの?」


「お前、私が気づいてないとでも思ったのか?」


「…はぁ。やっぱり莉緒には隠し事は出来ないね。…ありがと」


「別にいいさ。それより、早く買いに行くぞ」


「うん」


 最後に連れてきてもらったアロマショップで、私はお目当ての効果がある物を買った後、そのまま二人で私の家へと向かって帰って行くのであった。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇

よければこちらの作品もよろしくお願いします。


『距離感がバグってる同居人はときどき訛る。』


https://kakuyomu.jp/works/16817330649668332327

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