さすがの情報網

 雪音に距離を置こうと言ってからの一週間は酷く退屈だった。

 最近では私に対して子犬のように接してきていた彼女も、私に言われたことがよほどショックだったのか近づいて来ることはなかった。


 四日ほど経ったあたりから彼女は目に見えて元気がなくなっていき、メイクで隠そうとはしているようだが寝れていないのが分かるくらいに隈が酷くなっていった。


 そんな彼女を見かねてか、周りのお友達は親切に相談に乗ろうとしたり、世話を焼こうとしている。


 そして、それはあの男も同じで、落ち込んでいる時に助けになれば心を開いてくれると思っているのが見え見えである。


(蝿かよ。振られたくせに人の彼女の周りをうろつかないで欲しいなぁ。早く消し去りたい)


 しかし、彼女も別に一度も近づいてこようとしなかったわけではない。

 何度か私が一人でいる時に話しかけようとしていたようだが、その度にあの男が蝿のように雪音の周りをウロチョロして話しかけていたので、結局話すことができなかったのだ。


(そういうのをしっかりと断らないからこんな事になるんだよ。雪音はその事をわかっているのかな?)


 別にいつもなら周りに誰がいようが我慢できたし、ここまで感情的になることもなかっただろう。

 しかし、雪音を私に依存させるための計画を実行し、彼女の感情的な嫉妬に当てられたせいか、私だけが我慢をするのは馬鹿らしくなったのだ。


 だから私も感情のままに行動するし、今回のことはそう簡単に許すつもりもなかった。


(それでも、今回の件で雪音が私を選ばずに友達と私で悩むようならその時は…)


 覚悟を決めた私は、今後どうやってゴミを排除するか考えながら、雪音を観察して日々を過ごしていく。





 そんな風に一週間を過ごして迎えた土曜日。男の情報が集まったとの連絡があったので、私は話を聞くため彼女に家に来てもらった。


「おはようございます!雪喰さん!」


「おはよ、長谷川さん。さっそくだけど、上がって話を聞かせてくれる?」


「はい!」


 私が情報集めをお願いしたのは、私のファンクラブである長谷川さんたちにだ。

 彼女たちはとても広い情報網を持っているので、きっと有益な情報を集めてくれるだろうと思い協力してもらったのだ。


「うわぁ!!ここが雪喰さんのお部屋なんですね!」


「そんなに見られると少し恥ずかしいね。今飲み物を持ってくるから、ベットにでも座ってまってて」


「ありがとうございます!」


 彼女に座って待つよう言った後、私は一階に降りてレモンティーをコップに注ぐ。

 ついでに軽く食べられるお菓子なども持つと、部屋へと戻ってテーブルの上に置く。


 私は持ってきた飲み物を一口飲むと、さっそく集めてもらった情報について話を聞く事にした。


「それで、頼んでいた件だけど」


「そうですね!では、さっそく私たちが集めた情報についてご報告いたします!


 名前は瀬名隼人。身長176cm、体重66キロ。成績は比較的優秀な方で、スポーツは得意であるが部活動には所属しておらず、よく助っ人としていろいろな運動部の手助けをしているようです。


 また、先生方からの評価も高く、彼の優しさと顔も相まって、女子生徒からはかなり人気なようです。しかし、現在特定の女性と交際中という話はありませんでした」


「なるほどね。絵に描いたような完璧っぷり。逆にそこが気持ち悪く感じるね」


 瀬名隼人の情報を聞いた私は、ある種の気持ち悪さを覚え、吐き捨てるようにそう言った。


「はい。私たちも同じ考えに至りました。なので、範囲を広げて情報を集めましたところ、他校では逆にかなり評判が悪いことが分かりました」


「具体的には?」


「端的に言えば、女を取っ替え引っ替えする屑野郎です。

 他校にいる友人を通じて、言い方は悪いですが、コミュニケーションが苦手で友達の少ない女子生徒を口説き落とし、その気にさせてやることをやった後は飽きたからと捨てるそうです。


 中には暴力を振るわれた子や避妊をしてもらえなかった子もいたそうで、それ以来男性が怖いと言っていました。


 また、他校にいる友人たちと一緒にふざけて何度も万引きをしていますし、ストレス発散のためか殴る蹴るの暴力行為および金銭の強奪も行っています」


「ふーん。そんな社会のゴミがなんで雪音を狙うわけ?」


「おそらく自分をさらによく見せるためかと。雪音さんはとても可愛らしい方なので、そんな人と付き合った自分はさらに凄いというアピールのためだと思われます」


 そこまで聞いた私は、一旦考えるため長谷川さんに話を止めてもらう。

 長谷川さんもここまで一気に話したためか、レモンティーを一口飲んでお菓子をつまむ。考えが纏まった私は、顔を上げて長谷川さんに尋ねた。


「…長谷川さん。今の話に証拠はあるの?」


「はい。メッセージのトーク履歴、その場面が写った写真および動画まで全て揃ってます」


「わかった」


「どうしますか?」


「最初は学校から退場してくれれば良いかなと思ったけど、被害にあった女の子たちが可哀想だしね。

 それに、私の雪音にそんな不純でくだらない理由で手を出そうとしたこと、後悔させないとね。だから…社会的にご退場いただこうか」


「では、そのように準備しておきます」


「ありがと」


 これで一先ずは邪魔者を消す段取りがついたので、あとは念入りに準備をしていくだけで良いだろう。

 私も一息つくため、レモンティーを飲んだところで一つ気になったことがあったので聞いてみる事にした。


「そういえば、ここ三週間ほどゴミと雪音が二人きりになることが多かったようだけど、あれはなんでなの?」


「あれは、瀬名隼人が周りの人たちに朝比奈さんが好きだから協力して欲しいと言った結果です。

 朝比奈さんのそばにいる会員がなんとか止めようとしたのですが、力及ばすあのような結果になってしまいました。申し訳ありません」


「大丈夫だよ。断りきれなかった雪音に非があるし、むしろ止めようとしてくれただけありがたいよ。いつか直接お礼を言わないとね」


「そうしていただけると、彼女も喜ぶと思います!」


 話が済んだ私たちは、その後ファンクラブがどうなっているのか、今度二人で遊びに行こうなど楽しく話をした。


 そして15時を少し過ぎた頃、長谷川さんはこの後別の予定があるとのことで帰る事になった。

なので、私は彼女を見送るため家の前まで一緒に向かう。


「今日はありがとうございました!」


「ううん。むしろ感謝するのは私の方だよ。ほんとにありがとね」


「お役に立てたようで嬉しいです!」


 私はもう一度感謝を伝えたあと、最後にもう一度念押しをするため、彼女の耳元に口を寄せて語りかける。


「計画の方、よろしくね」


「はい。お任せください」


 それだけ言うと、私は顔を離して今度こそ長谷川さんのことを見送った。

 そして家に入ろうとした時、どこかで見たことのある女の子が走り去って行くのが目に入ったが、気のせいかと思い家の中へと戻った。





 休日が終わり月曜日になった。私はいつものように学校に着き、雪音が来るのを待つが、いつまで経っても彼女が来ることはなかった。

 そして、始業のチャイムが鳴り先生が教室に入ってくる。


「えー、朝比奈は今日体調を崩したようなので休むそうだ。みんなも体調管理には気をつけるように。では、今日の連絡事項を話していく--」


 どうやら雪音は体調不良で今日は休みのようだ。少しだけ心配ではあるが、最近の彼女を見れば体調を崩すのも仕方のないことだろう。


(あるいは何か心的要因が原因か…。まぁ、何が原因で今の状況になったのかを考えるにはいい機会かもね)


 雪音が私を選ぶのか友達を選ぶのかは分からないが、今後どちらの結果になったとしても対応できるよう、しっかりと計画を練っていく。


 そして、近々行うゴミ掃除に向けて、こちらも最終確認を長谷川さんたちと行いながら忙しい日々を送っていった。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇

よければこちらの作品もよろしくお願いします。


『距離感がバグってる同居人はときどき訛る。』


https://kakuyomu.jp/works/16817330649668332327

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