あの子、だぁれ? side雪音

 六華が私の家に来て、いろいろとして行った日から3日が経った。

 彼女はあの日のことがなかったかのようにいつも通りで、私が夢を見ていただけなのかと思えてくる。でも、あの日のトーク履歴を見てみれば六華が家に来たのは事実だから、あれが現実なのだと分かる。


 あの日から六華が私にそういった事をしてくる事は無かったが、私はあの時の続きを求めて彼女のことを見てしまう。

 すると、私が六華のことを見すぎていたせいか、彼女と目があってしまい恥ずかしさと嬉しさで胸が高鳴る。しかも、彼女はそんな私に対して流し目で微笑んできた。


(何その流し目は?!六華のかっこよさと合わさって色気がやばい!)


 私は六華が放つ謎の色気にあてられて、慌てて顔を逸らす。それでも顔が熱を持つことは止められず、周りにいた雫たちに心配されたが、何とか誤魔化すことができた。





 放課後、私が帰りの準備をしていると雫が話しかけてきた。


「朝比奈、ちょっと聞きたいことがあるんだけど今いい?」


「いいけど、どうかした?」


 本当は早く帰り支度を済ませて六華のもとに行きたかったが、少しくらいなら大丈夫だろうと思い、話を聞くことにした。


「最後の授業で分からないところがあったから、そこを教えてほしいんだよね」


「わかった。どこが分からなかったの?」


「ここなんだけど…」


 それからしばらくの間、私は雫に勉強を教えた。終わった頃に時計を確認してみると、既に40分ほど経っており、私は慌てて教室を見渡してみたが、既に六華の姿はなかった。


 私は急いでにカバンを持って雫に別れを告げると、走って教室を後にする。そして、最寄りの駅まで走って向かうが、道中に六華とすれ違うことはなかった。


「はぁ、はぁ。六華…」


 駅に着いてからも息を整えながら彼女のことを探すが、やはり彼女はどこにもおらず、私は仕方なく一人で家に帰った。





 その日の夜。私はどうしても六華が一人で勝手に帰った理由が知りたくて、彼女にメッセージを送ることにした。


『六華、今日はどうして最初に帰っちゃったの?せめて一言声かけてから帰ってよ。そしたら私だって六華に合わせて一緒に帰るのに。お願いだから今度からは声をかけるようにして。私を置いていかないで』


 私がそうメッセージを送ると、すぐに既読が付いた。私はそれが嬉しくて、六華から返信が来るのを待ったが、何分待っても彼女から返信が来ることはなかった。

 なので私は続けてメッセージを送るが、今度は既読すら付かない。


 その後も返信を返してくれないことに少しずつ憤りを感じた私、何度も彼女にメッセージを送るが、結局その日は六華から返信が来ることはなかった。





 翌朝。私は朝から少し機嫌が悪かった。それは朝になっても六華からメッセージが来なかったことが理由である。

 なので、学校で六華にあったら昨日のことを問い詰めることに決め、私は急いで準備を済ませて家を出る。


 教室に入ると、まだ六華は来ていなかったので、私は自分の席に座ると黙って六華のことを待つ。

 まだ登校してきている人たちは少ないが、私のいつもと違う雰囲気を感じ取ったのか、私の周りにだけ人が少ないような気がした。


 しばらく待っていると、六華が教室のドアを開けて中に入ってきた。私は彼女の姿を見るなり、すぐに近づき手首を掴む。


「ちょっと来て」


 私はそう言うと、そのまま彼女のことを引っ張り教室を出て廊下を歩く。彼女は何も言わずについてきて、私たちは人のいない場所に着いた。そして六華の方を振り向くと、私は彼女に思い切り抱き着いた。


「六華。六華六華六華…」


 彼女に会ったらすぐに昨日のことを問いただそうと思っていたが、いざ六華を目の前にすると、会えたことが嬉しすぎてそれどころではなかった。

 そんな私を六華も優しく抱きしめ返してくれたので、一気に心が多幸感で満たされる。


(あぁ。六華だ。六華の匂いがする。幸せ…)


 私がしばらく六華を抱きしめていると、彼女がどうしたのかと尋ねてきた。なので私は、改めて昨日のことについて聞くため、六華に抱き着いたまま顔を上げて尋ねる。


「どうして昨日は一人で帰ったの。なんでメッセージを返してくれなかったの。私ずっと待ってたんだよ?既読ついたから返信まだかなって待ってたのに、数時間待っても返信くれないし。その後に何度もメッセージ送ったのにそれには既読すらつかないし。ねぇ、なんで?なんで返信してくれなかったの?」


 昨日のことを思い出しながら話したため、少し六華のことを睨みつけてしまったが、彼女はそんなことは気にせずに説明を始めた。


「ごめんね?昨日は帰る時、雪音が友達と話しているようだったから話しかけられなかったんだ。

 それに、既読無視については返したと思ったんだけど、勉強していたせいかちゃんと送信するの忘れちゃったみたい。不安にさせちゃってごめんね?」


 私は六華の話が本当かを確かめるため、黙って彼女の目を見続ける。その瞳には嘘を感じなかったので、とりあえずは彼女の話を信じることにした。


「……わかった。六華がそう言うならそうなんだろうね。ごめんね、私も急にこんな事言って。それと、今日からは帰る時に声をかけて。友達がいる時でもいいから。お願い」


「私は別にいいけど、雪音はいいの?前までは友達との時間も必要そうだったから、そういう時は声をかけなかったんだけど」


 確かにこれまでは、彼女である六華と友人たちの両方が大切で、どちらとの時間も重要だと考えていたが、今は六華の方が大切で重要なのだ。

 彼女と一緒に居る時間が増えるのなら、友人たちとの会話や遊ぶ時間など必要ないと思えるほどに。


「大丈夫。何も言われずに勝手に帰られる方が嫌だし、彼女たちも話せば分かってくれるから」


「わかった」


 六華はそう言うと、もう一度私のことを強く抱きしめてくれた。そして、そのまま私の方に顔を近づけると、優しく額にキスをしてくれる。

 突然の行動に少し驚きはしたが、それよりも六華が好意を行動で示してくれたのが嬉しくて、自然と笑顔になる。


 その後、私たちはお互いの背中に回していた腕を離し、教室に戻るため廊下を歩く。その際、昨日のように勝手に帰られないため、しっかりと今日は一緒に帰るよう伝えておくことを忘れない。


「あ、今日はちゃんと六華と帰るから、準備できたら声かけに行くね」


「りょーかい。待ってるね」


 六華の了承を得た後、私たちは教室に戻り各々の席に向かった。





 お昼休み。私がいつも通り雫たちと一緒に昼食を食べていると、教室の入り口あたりから六華を呼ぶ声がしたので、気になった私はそちらの方を見てみる。

 すると、見たこともない女の子が入り口のあたりに立ち、六華の方を見ていた。


 そして六華の方を見てみると、彼女もその女の子に気づいたのか、そのまま席を立って女の子のもとへ向かう。


 そして、そのまま六華と女の子は話し始めた。私はその事が気になってしまい、昼食を食べる手を止め、六華たちのことをじっと見つめる。


(どういうこと?今まであんな子、六華の知り合いにいなかったよね)


 そんな事を考えながら二人を観察していると、女の子の方が何故か顔を赤らめる。


(は??何その反応。あれじゃまるで六華に…)


 そこまで考えると、これまでに感じたことのない怒りと嫉妬が私の心を埋め尽くす。

 しばらくすると、二人の会話は終わったのか、女の方はクラスへと戻って行った。


 そして、六華も自分の席に戻るため振り返ったところで私と目が合った。

 私はさっきまでの光景が頭から離れず、無意識のうちに彼女のことを睨む。


(放課後、絶対に問いたださないとね…)


 今日一緒に帰る時、絶対にあの子のことを聞き出すと決めた私は、嫉妬と怒りで狂いそうになるのを何とか抑え、放課後を迎えるのであった。







◇ ◇ ◇ ◇ ◇

あけましておめでとうございます!


本年も『人気者の彼女を私に依存させる話』『距離感がバグってる同居人はときどき訛る。』をよろしくお願いします😄


また、まだ未定ですが、新作を投稿した場合にも読んでいただけると嬉しいです!


みなさんも良いお年をお過ごしください!




『距離感がバグってる同居人はときどき訛る。』


https://kakuyomu.jp/works/16817330649668332327

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