コーヒーと抹茶ラテ

 翌日、私はいつもと同じく、少し早い時間に教室へと来ていた。

 目的は、雪音より早くきて、彼女がきたら挨拶をするためだ。


 昨日の夜も電話はしなかったが、私からメッセージで好きだと伝えたし、おやすみも言った。そして、朝はメッセージを送っていないが、いつもの時間に来て挨拶をする。


 (早く雪音こないかなぁ。自分から距離を置いてるけど、やっぱり寂しいものは寂しいし。早く声が聞きたい)


 そんな事を考えていると、いつもより少し早い時間に雪音が来た。

 私はその事に気づくと、慌てて雪音の下に向かい、声をかける。


「おはよ、雪音。今日は早いね?どうしたの?」


「六華、おはよう。早く起きちゃったから、少し早めに来たんだよ」


「そうだったんだ。珍しいね」


「六華も今日は早いんだね?」


「というより、昨日が遅かっただけだよ。今日がいつも通り」


「確かにね。なら、昨日はどうして遅かったの?」


「いつも通り家を出たんだけど、途中で忘れ物に気づいて取りに戻ったんだ。だから、いつもより遅い時間になったんだよね」


「そうだったんだ。六華に何かあったんじゃないかって、心配したよ」


「ごめんね?でも、心配してくれてありがと」


 雪音は会話の中で、さり気なく昨日のことについて探りを入れてきたが、理由は考えていたからすぐに返せたし、雪音の様子もいつも通りだ。


 (でも、雪音がこの時間に早く起きて来た、か。高校に入学してから一度もそんな事なかったのにね。

 もしかしたら、私より早めに来て、声をかける気だったのかな?そうだとしたら、なんて可愛いんだろ)


 その後も、少しのあいだ雪音と話していると、教室には人が増えてきて、雪音のいつもの友人たちもやってきた。

 なので、私は自分の席に戻ってスマホを取り出し時間をつぶす。


 しばらくすると、莉緒が登校してきて私に声をかけて来る。


「はよー。今日はいつも通りの時間に来たんだな」


「雪音に早く会いたくてね」


「ん? 例の計画はやめたん?」


「これも計画の一環だよ。金曜日から本格的に仕掛ける予定」


「ほーん。そっか」


 そう返事をした後、莉緒は自分の席に座って寝始めた。

 私はまたやることがなくなったので、スマホで恋人を依存させる方法などを調べて、始業のチャイムがなるまでの時間を過ごした。





 授業が始まれば、その後はいつも通り進む。ときどき雪音の視線を感じながら授業を受け、休み時間に目が合えばたまに軽く微微笑んであげる。

 しかし、それ以外に何かするわけでもなく、適度に距離を置きながら接する。


 雪音は私と話したそうにしていたが、学校ではいつもの友達がいるため話せないし、メッセージや電話は私が時間をあけて返したり、何かと理由をつけて断っていたため、まともに話すことができないでいる。

 そんなこんなで、水曜日と木曜日が終わり、金曜日となった。


 この日は朝から雪音の様子が少し変だった。浮かれているのか、ソワソワしたり、私のことを何度もチラチラ見たりと落ち着きがない。


 斯くいう私も、内心では色々と我慢するので大変だったりする。


 (まぁ、一緒に帰るのは久しぶりだし、嬉しいのは私もだけど、あそこまで意識してもらえると揶揄いたくなっちゃうなぁ。さすがに可哀想だからしないけど。

 それにしても、浮かれてる雪音めっちゃ可愛い。放課後まで我慢できるかなぁ)





 私は無事に、雪音という可愛いの暴力に耐え切り、なんとか手を出さずに放課後を迎えた。

 そしてHRが終わると、雪音は帰り支度をすぐに済ませ、私のもとへ来ると声をかけてくる。


「六華、帰ろ?」


「待ってね。私がまだ帰り支度済んでないから」


「わかった」


 そう返事をしてくれた雪音は、カバンからスマホ取り出して、画面を暗くしたまま顔の前に持っていくと、髪型をチェックし始めた。

 その行動が可愛すぎて、もっと眺めているために帰りの準備をゆっくりとしてしまう。


「雪音、お待たせ。終わったよ」


「わかった。じゃあ、帰ろうか」


「莉緒、また日曜日ね」


「はいよー。あとで時間とか送っといて」


「りょーかい」


 莉緒にも別れの挨拶を済ませ、私と雪音は帰る事にした。

 雪音が莉緒とすれ違う時、少し莉緒を睨んでいた気がするが、おそらく日曜日のことが気になるのだろう。

 順調に私に対する雪音の独占欲が育ってくれている事を嬉しく感じながら、私と雪音は教室を出た。





 学校を出た後、私と雪音は手を繋いで歩きながら駅まで向かっていた。


「六華、今日はどうする?久しぶりに一緒に帰るんだし、どこか寄ってく?」


「んー。なら、雪音ん家の近くにあるカフェに行かない?」


「でも、そうすると六華が別の駅で降りる事になっちゃうけど、いいの?」


「別にいいよ。それに、雪音がちゃんと帰れるか心配だし」


 そう、心配なのだ。果たして彼女は、キスをした後しっかりと帰れるだろうか。

 それが不安な私は、雪音が帰りやすいように、彼女の家の近くにあるカフェを提案した。


 こうして寄るところも決まったので、私たちは雪音の家の近くにあるカフェに向かうことにする。


 カフェに到着した私たちは、さっそくメニュー表を見て注文を決めていく。


「私はイチゴのパンケーキとコーヒーにするよ」


「六華がコーヒーなんて珍しいね。じゃあ私は抹茶ラテとフォンダンショコラにしようかな」


 お互いに注文するものが決まったので、店員さんを呼んで注文をする。

 注文を済ませた後、雪音は久しぶりに私と帰れて嬉しいのか、いろいろと話しかけてくれた。

 学校であった楽しかったことや、私と電話できなかった時のこと、一緒に帰れなかった数日間は何をしたなど、楽しそうに語ってくれた。


 そして、注文したものが来ると、次に私のこの数日間について尋ねて来る。


「そういえば六華は、最近忙しかったの?全然私と帰ってくれなかったし、電話とかも出来なかったよね?」


「んー、そうだね。火曜日の放課後は莉緒と出かけたし、昨日と一昨日は家の手伝いでしなきゃいけないことがあってね。それで疲れてたから電話とかも出来なかったんだ」


 莉緒の名前を出した瞬間、雪音の肩が小さく跳ねた。

 そして、先ほど帰る直前に私と莉緒がしていた話について聞いて来る。


「そういえば、日曜日に葛飾さんと遊びに行くの?」


「そうだよ。たまには莉緒と休日に遊ぼうかなって思って、私から誘ったんだ」


 この話、半分は嘘だ。遊ぶのを提案してきたのは莉緒で、土日のどちらかを提案したのは私である。

 ただ、雪音を嫉妬させるには、私から莉緒を誘って遊びに行くって形の方が都合がいい。


「ふーん、そうなんだ。六華から誘ったんだ」


 案の定、雪音は嫉妬してくれたのか、少し拗ねたような言葉を返してくれた。

 そして、莉緒に対抗するためか、さりげなく誘ってほしいという雰囲気を出しながら、私に話しかけてくる。


「ねぇ、六華。私、明日暇なんだよね」


「そうなんだ。友達とは遊びに行かないの?」


「みんなも予定があるらしくて、一日やることがないんだ」


「なら、たまには家でゆっくりするのもいいかもね。私も明日は家で休みながら、日曜日の予定考えようと思ってたし」


 誘って欲しそうにアピールしてくる雪音は可愛いが、私はそれをのらりくらりとかわす。そして、私も雪音も注文したものを食べ終えたので、そろそろお店を出ることにした。

 支払を済ませて店を出た私たちは、また手を繋いで歩いてた。しかし、遊びに誘ってもらえなかった雪音は、少しご機嫌斜めで拗ねた様子だった。

 しばらく二人とも無言のまま歩き、雪音の家が近づいてた時に、私は雪音の手を引いて裏路地に連れていく。

 周りに人の気配がないことを確認した後、突然の行動に驚いた様子の雪音の唇に、自身の唇を重ね合わせた。


 突然のキスに目を見開て驚いている雪音は、とても可愛くて愛おしい。しかし、私の目的はただのキスではない。

 私は自身の舌を雪音の口の中にねじ込み、舌と舌を絡めた。そして、歯茎やうちほほを舌でなぞり、また舌を絡める。

 舌を絡めるたびに、先ほど飲んだコーヒーと彼女の抹茶ラテの味が混ざり合い、甘やかな刺激と一緒に流れ込んでくる。


 しばらくそれを続けていると、段々と蕩けた顔をしてくる雪音に悪戯がしたくなり、舌を吸ってみたり下唇の甘噛みなどもしてみた。

 たまに漏れ出る彼女の甘い吐息と声が色っぽく聞こえ、ずっとこうしていたい気持ちに駆られるが、あまり長引かせると私が我慢できなくなる。

 なので、とても名残惜しいが唇を離すことにする。


「……ぁ」


 唇を離すと私と雪音の間には細い糸ができるが、それもすぐに切れて無くなった。唇を離すとき、雪音は寂しそうな声を漏らしたが、私はそんな彼女を気にかけず、別れの言葉を告げる。


「雪音、気をつけて帰るんだよ。また月曜日会おうね」


私はそう言って雪音に一度微笑んだ後、駅に向かって歩くのであった。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇

よければこちらの作品もよろしくお願いします。


『距離感がバグってる同居人はときどき訛る。』


https://kakuyomu.jp/works/16817330649668332327

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