私の彼女は私だけのもの
翌日。その日は朝から病院の先生に呼ばれたので、私とお母さんは先生のもとへ向かった。
「こんにちは。さっそくですが、怪我の状態を見させてください」
先生はそういうと、私の腕をとってゆっくりと包帯を外していく。
「ふむ。まだ少し血は滲んでいますが、化膿したりもしていないので問題ないと思います。…ただ、やはり傷が深かったため、おそらく跡が残るでしょう」
私がまだ若いからか、体に傷が残ることを多少哀れに思ったようで、同情的な視線を向けてくる。
「そうですか。退院はいつ頃できそうですか?」
「退院ですか?この傷以外にはとくに問題はなかったですし、明日にでもしていただいて大丈夫ですよ。それと、一応痛み止めと塗り薬を出しておくので、貰う時に説明を聞いてください」
「わかりました。ありがとうございます」
私はそう言うと、扉の前で一度頭を下げて部屋を出た。
それから二日後、退院した私はいつものように学校に来ていた。
ただ、やはりあの事件のことが噂になっているのか、私のことを哀れみや同情の目で見てくる人が多い。
教室に入れば、これまで話したことがない人たちまで心配して話しかけてくれる。
一人一人にお礼を言っていた私は、しばらくすると教室に莉緒が入ってきたことに気づいた。
私は集まってくれていた人たちに席を外すことを伝え、莉緒のもとへ向かう。
「おはよ、莉緒。少し話せる?」
「…あぁ」
莉緒の了承も貰えたので、私たちは二人で教室を出ていくと、人気のないところまで歩いていく。
そして、その場所に着くと莉緒の方を振り向き感謝を伝える。
「ありがとね、莉緒」
「…ほんとだよ。心配かけさせやがって」
「でも、莉緒のおかげで助かったよ」
「無事でよかった…」
莉緒はそういうと、私の肩に額を当て、僅かに肩を振るわせる。
私はそれ以上何もいうことはせず、彼女の頭を優しく撫でた。
実は、あの時警察が来てくれたのは莉緒が連絡してくれたからだ。
瀬名隼人に声をかけられた時、20分後に電話を3回かけても出ないようなら、警察に連絡してもらうようにお願いしていた。
20分後にしたのは、何事もなければすぐに連絡を返せるし、何かあればそれくらいなら耐えられると思ったからだ。
莉緒が落ち着いた後、私はもう一度彼女にお礼を言い、二人で教室へと戻った。
あの事件から一か月後。私の周りでは大きく三つの変化があった。
一つ目は、雪音が私にべったりになったことだ。一ヶ月前、みんなの前で彼女が私にキスをしたことで吹っ切れたのか、今では休み時間は必ず私のところにくるし、お昼はお弁当を作ってきてくれるようになった。
「はい、六華!あーん!」
「あーん。…うん。今日も美味しいよ」
「えへへ。ありがとう!」
彼女は少し照れながらお礼を言うと、髪を耳にかける。そして、その耳にはこれまで付いていなかったピアスが付いていた。
事件があったと、雪音にピアスをお揃いにしないかと尋ねたら、彼女は喜んで了承してくれたのだ。
ただ残念ながら、まだ開けたばかりなのでお揃いには出来ていないが、プレゼントするピアスも買っているので、数ヶ月後にはお揃いにできるだろう。
二つ目は、私ではなく莉緒の方に面白い変化があった。
「莉緒さん。私たちもあれやりましょう!」
「やんねーよ。てか、なんでお前とそんなことしないといけねーんだ」
「それは私があなたを好きで、あの二人が羨ましいからです!ということで、やりましょう!」
「だからやらねーって!」
莉緒のことを好きだと言っているのは、雪音の友達であり、私のファンクラブの会員でもある八雲雫さんだ。
「てかお前、あいつのファンじゃなかったのかよ!なんで私なんだ!」
「何度も説明したじゃないですか。確かに雪喰さんのことはファンとして憧れていますが、推しとガチ恋は違います!私はそこら辺はわけるタイプなので!」
どうやら八雲さんは、私をファンとしていつも見ているうちに、いつも怠そうで少しダメそうな雰囲気と、私と話す時だけは楽しそうに笑う莉緒の笑顔に惹かれ、気付けば恋に落ちていたらしい。
「絶対に付き合わないからな!」
「むぅ。なかなかしぶといですね。…でも、絶対諦めませんよ!必ず私に惚れさせます!」
私がそんな二人を微笑ましく眺めていると、雪音が私の頬を両手で挟み込み、自身の方へと向けてくる。
「ダメだよ、六華」
「なにが?」
「葛飾さんの方見すぎ」
どうやら雪音は、前に私と莉緒が手を繋いだり腕を組んだりしていたことを根に持っているようで、たまにこうしてやきもちをやく。
「ふふ。大丈夫だよ、私が好きなのは雪音だけだから」
私はそう言うと、雪音の頬に軽くキスをする。
「はぁ。胸焼けしそうな甘さだ」
「羨ましい…」
甘いものが好きな莉緒が胸焼けするなどありえないので、私は何も聞かなかったことにして無視するのであった。
その後も雪音とイチャつきながら学校を終えた私たちは、いつものように雪音と二人で彼女の家へと向かう。
「ねぇ、六華。今日は…」
「ん。わかった」
「やった!ありがとう!」
少し恥ずかしがりながら話しかけてきた雪音を見た私は、それだけで彼女が何を求めているのかすぐに分かった。
雪音の家に着くと、私は彼女に腕を引かれて彼女の部屋へと連れ込まれ、ベットに押し倒された。
そして、そのまま強引に雪音からキスをされると、彼女が私の口内に舌を入れてくる。
私はそれを素直に受け入れ、お互いに舌を絡め合う。
しばらくキスを楽しんだあと、雪音は私の首筋や鎖骨のあたりに何度もキスをし、制服の中に手を入れて指で肌を優しく撫でてくる。
「雪音、制服脱ぐからちょっと待って」
「うん」
私が制服を脱ぐと伝えると、彼女の瞳はさらに情欲に染まっていく。
制服を脱ぎ終えると、雪音はすぐに私の傷跡を慈しむように撫で、そしてキスをすると舌を這わせてくる。
「んっ」
私はくすぐったさから変な声が出てしまうが、雪音はそれを楽しむようにさらに続ける。
そう。これが大きく変わった三つ目の変化で、私がする側ではなくされる側になったということだ。
といっても、毎回私がされる側というわけではなく、たまに雪音から声をかけられた時に彼女からという感じだが。
何故こうなったのかというと、事件から四日ほど経った時、雪音が私の傷跡に触れたのが発端だった。
その時に私は、くすぐったさと少しの痛みから思わず変な声を出してしまった。
それが彼女の何かに触れてしまったらしく、以来たまにこうして雪音からの行為を受けるようになった。
ちなみに、雪音は私が服を脱ぐと真っ先に傷跡にキスをしたり舐めたりしてくるので、少し犬っぽさが増した。
「六華、すごく可愛いよ。この少し伸びた髪も傷跡も口も、体の全部が私だけのものだよね?」
彼女はそう言いながら私の口の中に指を入れると、指で私の舌を嬲ってくる。
実は私も初めて知ったのだが、彼女は少しSっ気があるようで、こうして焦らされたり嬲られたりすることが多い。
その後も雪音からの行為は続き、私が何度も果てて気を失うまで、彼女が止めることはなかった。
それからどれほど時間が経ったのかは分からないが、目が覚めると外はすっかり暗くなっていた。
隣には下着姿の雪音が寝ており、私に抱きついて寝息を立てている。
そんな彼女が愛おしくて、私は起こさないように気を付けながらも優しく彼女を抱きしめる。
彼女から伝わってくる体温と柔らかさが心地よく、私の心はとても落ち着いていき満たされていく。
雪音を依存させるために始めた私の計画は、途中で邪魔も入ったが予定通り達成することができた。
それに、私がこれまで彼女のために我慢していたことも、雪音がこれからは我慢しなくていいと言ってくれた。
それが本当に嬉しくて、私はまた髪を伸ばすことにしたし、スカートを雪音に選んでもらいながら買うようにもなった。
「私だけの可愛い雪音。もう死んでも逃がさないからね」
ただ、この計画に誤算が一つあったとすれば、それは私にとって雪音という存在がさらに大きくなったことだろう。
どうやら彼女を依存させるだけでなく、私も以前よりさらに彼女に依存してしまったようなのだ。
今後、彼女が私から逃げようとした時、どうやって監禁しようかと計画を立てるほどに。
しかし、そんな重くて醜い感情を彼女に知られるわけにはいかないので、そうならない事を祈りながら彼女の額にキスをする。
これから先も、ずっと私は彼女に依存する。でも、これからは雪音も私に依存してくれるのだから、何も不安に思うことはないだろう。
だって、人気者だった彼女をようやく私だけのものにできたのだから。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
これにて、本作は完結となります。
感想などをいただけるとすごく嬉しいです。それと、お気に入りのお話があれば教えていただきたいです。
次回作について近況ノートを書こうと思うので、気になる方はそちらもよろしくお願いします!
よければこちらの作品もよろしくお願いします。
『距離感がバグってる同居人はときどき訛る。』
https://kakuyomu.jp/works/16817330649668332327
※追伸
『すれ違う双子は近くて遠い』という新作を投稿しました!こちらもぜひお願いいたします!
人気者の彼女を私に依存させる話 琥珀のアリス @kei8alice
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