嫉妬です。独占欲です。 side雪音
その日、私はいつもより早い時間に登校した。しかし、今日はまだ六華が来ていなかったので、私は自分の席に着くと教科書などを机の中に入れていく。
しばらく一人で過ごしていると、友人たちが登校してきて、自分の席にカバンを置くと私のもとに集まってくる。
そのままいつものように話すが、六華がいつ来るのか気になってしまい、たまにドアの方を見てしまう。
(六華まだかな。早く会いたいなぁ。それと、機会があればまたキスして欲しい)
六華にキスをされてからというもの、これまで以上に彼女への愛おしさで胸がいっぱいで、常に彼女のことを考えてしまう。
すると、私の思いが通じたのか、六華がドアを開けて中に入ってきた。
いつもなら、友人たちとの会話中に抜け出すような事はしないのだが、今日は六華への気持ちを優先してしまったため、会話を途中で抜けて六華のもとへ向かう。
彼女に会える事が嬉しくて、自然と口角は上がり笑顔になる。
しかし、六華に近づくにつれて、教室に入ってきたのが彼女だけじゃ無い事が分かった。
六華の後ろに隠れていて分からなかったが、葛飾さんも一緒に来ていた。
(そういえば、昨日は六華、葛飾さんと遊びに行くって言ってた気が…)
そして、さらに近づくと、私は見てしまった。六華と葛飾さんが手を繋いでいるところを。しかも、指を絡め合う恋人繋ぎで。
その瞬間、さっきまで六華に会える事で上がっていたテンションが一気に下がる。
(……は?どういうこと?なんで私の六華の手を葛飾さんが繋いでるわけ?)
すると、私が六華と葛飾さんの間で繋がれた手を見ている事に気づいたのか、六華は慌てて手を離した。
(何その反応。もしかして、本当に私と別れる気なのかな。でも、なら何でキスしてきたの…)
もう何が何だか分からなくて、あれこれ考えている私に、六華が話しかけてきた。
「あ、雪音、おはよ。雪音の方から来てくれるなんて嬉しいね。昨日は連絡なかったけど大丈夫だった?」
「…うん。大丈夫だったよ。さっきまではすごく気分も良かったし。…さっきまではね」
本当に、さっきまでは気分が良かった。金曜日にキスをして以来、ようやく大好きな六華に会えると思ってたのに、いざ会ってみれば他の女と手を繋いで登校してきた。
そのせいで私のテンションはだだ下がりである。
とりあえず、なぜ六華と葛飾さんが一緒に登校してきたのか尋ねて、現状をより正確に把握しなければならない。
「六華と葛飾さんが一緒に登校するなんて珍しいね?どういうことかな?」
「さっき、たまたま昇降口で会ってね。だから一緒に来たんだよ」
「ふーん。たまたま、ね。そーなんだ」
「あ、そろそろ先生も来るだろうし席に行くね?」
明確な確証が得られる言葉を貰えたわけではないが、一つだけわかった事がある。
私が最近感じていた胸のモヤモヤはきっと嫉妬で、六華に対する独占欲だ。
誰にも渡したく無い、私だけのものでいて欲しいという醜い感情だ。
私はその感情を抑えきれないまま、六華が自分の席に座るまで彼女のことを見続けた。
私は自分の席に戻ると、友人たちに気分が良く無いと伝え、自分の席に戻ってもらった。
そして、私は六華と葛飾さんの方を見る。すると、六華の方を葛飾さんが向いて話し始めた。
その光景とさっき手を繋いでいた光景を思い出してしまい、葛飾さんのことを睨んでしまう。
その後も六華と葛飾さんの事を見ていたが、特に何かある訳でもなく、チャイムがなって担任の先生が教室に入ってきた。
授業が始まると、私は幾分か冷静になる事ができた。普通に考えれば、友人同士で手を繋いだり抱きしめ合ったりすることもあるだろう。
実際に私だって、これまでそういったスキンシップをしてきた事はある。
だが、六華がこれまで誰かとそういう事をしているのは見た事がなかったし、何せ初めての嫉妬なのだ。気持ちの抑え方も知らないし、この気持ちを誰に向けるのが正解なのかも分からない。
だから私は、休み時間に六華と話している葛飾さんに対して、六華と話せるのが羨ましいと、六華と手を繋いだ事が妬ましいと嫉妬心を向けてしまう。
そんな気持ちを抱えながら休み時間を過ごしていると、突然後ろから抱きしめられた。
体は後ろから抱きしめられて動けないので、首だけを動かして振り向くと、そこには雫がいた。
「朝比奈ー、そんな険しい顔してどしたん?」
「雫。何でも無いよ。少し気分が良く無いだけだから」
「そう?それはそれで心配だけど」
雫に抱きしめられながら私は思う。やっぱり友達同士でこういったスキンシップは普通にある事なのだと。
私がそれらを受け入れているのだから、六華が葛飾さんと手を繋いでいたとしても、私がとやかくいう資格はない。
分かってはいるのだ。しかし、分かっているからといって納得する事はできない。
六華は私の彼女なのだ。なら、彼女と手を繋いだりしていいのは私だけの特権である。
しかし、私はこうして友達とスキンシップをしているにも関わらず、六華にはやめるように言うのは筋違いだろう。
まずは私からこういうことをやらないようにしなければならないと思い、雫に声をかける。
「雫、悪いけど離れてくれる?」
「んー?いいけど、どしたん?いつもはそんなこと言わないじゃん」
「雫だけには言うけどね。私、恋人がいるの。その人を不安にさせたくないから、今度からこういうのは控えてくれる?」
「…うっそ。まじで?だれだれ?」
「それは今度紹介するから、とりあえずはそういうわけで、今度からはやらないようにお願いね?」
「そーいうことならしゃーないね。分かった。今後はやらないようにするから、絶対恋人を紹介してよね」
雫に今後、抱き着いたりなどを控えるように話していると、六華から今日一緒に帰らないかと誘われたので、私はすぐに了承するメッセージを返してスマホを閉じた。
午後の授業も終わり、すぐにカバンに教科書などを入れて帰り支度を済ませると、私は六華のもとへ向かう。
「六華、準備できた?」
「今終わるよ。……よし、終わった。じゃあ、帰ろうか」
「うん」
六華はそう言って席を立つと私の横に並んできたので、私たちの仲を見せつけるように彼女と肩が触れ合うほどの距離に近づいた後、葛飾さんを見た。
しかし彼女は、特に気にした様子もなく帰り支度をしている。その態度が、私と彼女の心の余裕を表しているようで、余計に私を嫉妬させた。
学校を出てからしばらく経ったが、未だ私の機嫌は直らない。そんな私を見かねてか、六華は私の手を握って、機嫌が悪い理由を聞いてくる。
「雪音、さっきから少し機嫌悪そうだけどうしたの?なんかあった?」
六華が手を繋いできた事によって、朝、六華と葛飾さんが一緒に登校して手を繋いでいた事を思い出したので、その事について聞いてみる事にした。
「……六華、朝来る時に葛飾さんと手を繋いでたよね」
「そうだね。でも、友達なんだから、たまにはそうゆうのもあるじゃない?雪音だって、友達とたまにあるでしょ?今日も後ろから抱きしめられてたし」
「そうだけど。でも…」
「…うん?もしかして雪音、莉緒に嫉妬したの?」
「…っ」
「そうなんだ。雪音が嫉妬かぁ。だからあんなに莉緒のことを見てたんだね」
図星を突かれた私は、それ以上何も言う事ができず、ただ黙ることしか出来なかった。
だが、彼女の友人に嫉妬していた事がバレた事で、彼女に嫌われてしまうのではないかと不安になってくる。
そんな私の不安を知ってか知らずか、六華は話を続ける。
「雪音。嫉妬したならさ、今度から相手を見るんじゃなくて、私のことを見てくれないかな?」
「六華を?」
これまで嫉妬した事がなかったから分からないが、普通、嫉妬した時は嫉妬した相手を見るものだろう。
それなのに、六華は嫉妬した時は自分を見るように言ってくる。その意味が分からなくて、彼女にその真意を尋ねる。
「そう。雪音が嫉妬してくれるのは嬉しいけど、その視線に他の人が映るのは嫌なんだよね」
「…わかった。今度からはそうする」
「ありがと」
嫉妬というものが何か分かった今なら分かる。これはおそらく彼女の嫉妬だ。なら、私は彼女の願いに応えるべきだろう。
今後嫉妬するような事があれば、私は六華を見るようにしようと心に決め、私たちはそれぞれの家へと帰った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
よければこちらの作品もよろしくお願いします。
『距離感がバグってる同居人はときどき訛る。』
https://kakuyomu.jp/works/16817330649668332327
※ご報告です。
更新日についてです。
これまでは2日に一話で更新していましたが、火曜日、木曜日、土曜日、日曜日の固定に変更しようと思います。
時間は12時ごろです。
また、ストックの問題で投稿できない場合があるかもしれないので、その場合はご連絡します。
よろしくお願いします。
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