幸せでした side雪音

※次から話が少し重くなりますので、一度side雪音を挟みます。糖度を十分に摂取してください。



 月曜日に六華が家に来たあの日以来、私は自分でも分かるくらいに変わったと思う。何をするにも六華のことばかりを考え、彼女に声をかけられれば胸が高鳴る。


 最近では慣れて来た手を繋ぐという行為にも、毎回ドキドキするようになった。


 そう、あの日私は気づいたのだ。六華に愛してもらえることで得られる快楽と幸福の素晴らしさに。


 だから今日も私は、六華という最愛にいつでも可愛がってもらえるよう心構えをして学校に向かう。





 木曜日。その日も私はいつも通りの時間に登校するが、前と違うのは六華が近づいてくるのを待つだけではなく、自分から彼女を探すようになった事だろう。


(今日はいるかな…)


 早く六華に会いたい気持ちを抑えながら、落ち着いた雰囲気を保ってドアを開ける。


(あ、六華だ!)


 私が六華を見つけると、彼女も私に気づいたのか近づいてくる。


「おはよ、雪音」


「あ、六華!おはよう!」


 彼女に会えただけで、私のテンションは一気に上がる。本当はこのまま抱きついて、彼女の腕と匂いに包まれたいが、今は学校なので我慢する。

 それでも嬉しいという気持ちを隠すことはできず、自然と声が弾んでしまう。


 私がそんな事を考えていると、六華は私の耳に口を寄せて小声で話しかけて来た。


「お昼休みが始まったら時間を貰える?少しだけ二人きりになりたいの」


 そう話す六華の声は、なぜか少しだけ色っぽく、私の脳を甘く溶かしていく。


「ぅん。わかったぁ」


 六華の妙な色気のせいか、私の体は自然と彼女のことを求めてしまい、顔が熱を持っていく。私は期待を込めた瞳で六華のことを見つめながら、なんとか返事をするのであった。





 朝の一件から数時間後。ようやく待ちわびたお昼休みとなる。六華は葛飾さんと何かを話しているようで、すぐには移動しなかった。


 私は早く六華と二人きりになりたくて、チラチラと何度も彼女の方を見てしまうが、私の方でも雫たちにお昼を一緒に食べれないと説明しなければいけないため、すぐにみんなのもとへと向かった。


「雫、少しいい?」


「朝比奈?あらたまってどした?」


「お昼のことなんだけど、少し用事があって一緒に食べれそうにないから、先にみんなと食べてて」


「ん。りょーかい。でも、その用事って?私も何か手伝おうか?」


「大丈夫だよ。気遣ってくれてありがと」


 その後も他のみんなに同じ説明をして周り、六華が教室を出て行ってから数分後、ようやく私も教室を出ることができた。


 私は少しでも早く六華のもとへ行くため、小走で向かう。


「待たせてごめん。みんなに説明するの時間かかっちゃって…」


「大丈夫だよ。それじゃ、行こうか」


「うん!」





 六華についていくと、たどり着いたのは前に私が彼女を連れ込んだ空き教室だった。私が教室に入ったのを確認すると、六華はドアを閉めて鍵をかける。


 そして、私の手首を掴んで引っ張っていくと、机が並んだ場所にたどり着き、私は机の上に座らせられる。

 六華は座った私を逃さないというかのように、両手を挟み込むようにして机につく。


「六華。何かあった?」


 私は分からないフリをしながらも、期待を込めて彼女にそう尋ねる。


「ふふ。何もないよ。今日も雪音は可愛いね」


 すると、六華は私の耳元でそう囁く。それだけで私の体は歓喜してしまい、ゾクゾクと身震いする。

 六華はそんな反応を楽しむかのように、さらにいろいろと囁きかけて来て、私の脳はどんどん溶かされていく。


 終いには呂律が回らなくなり、情欲を込めながら愛していると言うことしかできなくなった。

 私は六華にキスをされながら押し倒され、彼女からの愛を求めて舌を絡めていく。


 しばらくの間キスをしていた私たちだが、六華の方から唇を離すと、今度は首筋にキスをしながら太ももを撫でてくる。

 最初は少しびっくりしたが、太ももを優しく撫でる彼女の手は執拗でなんとも焦ったく、くすぐったさと妙な疼きを感じる。


「んっ。くすぐったいよ、六華。キスマーク、そこに付けちゃダメだからね」


「大丈夫。今日は別なところに付けるから」


 六華は一度体を起こすと、下の方へと下がっていく。そして、私の制服を捲ってお腹にキスをすると、今度はお腹に舌を這わせて甘噛みしたり、ヘソに舌を入れたりしてくる。


「あっ、ダメ六華!なんか変な感じする…。んっ!」


 これまで感じたことのないゾワゾワとした感覚に、私は思わず声が出る。

 しかし、六華はそんな私などお構い無しに行為を続けていき、今度は太ももに柔らかいものが触れる。


 その後も、いろいろな所にキスをされ続けた私はとうとう限界を迎えた。


「り、りっかぁ。それ以上はもぉ…」


 なんとか六華を止めるため声をかけるが、いつものように力が入らず、思考もうまく纏まらない。

 それでも何とか止めるように伝えるが、今度はその唇が塞がれ、これまで以上に口内が彼女の舌によって蹂躙される。


「あっ、ふぅ…んちゅっ…ま、まって…くちゅ、りっ、か…」


 六華は私の言葉を無視して、獣のように私のことを求めてくる。

 しばらくすると、六華もようやく落ち着いたのか、ゆっくりと唇を離してくれた。


「ごめんね雪音。辛かった?」


 そう言いながら、六華は私の目もとを指で拭うが、別に嫌なわけでも辛かったわけでもない。彼女に求められることが幸せ過ぎて、気づけば自然と涙が溢れていたのだ。


 最後に触れるだけのキスをした後、私は机から降りて制服などを整えていく。


「もぉ、ここ学校なのに…」


「バレなきゃ大丈夫だよ。それに…」


 六華はそこで言葉を一度区切ると、また私の耳元で悪戯っぽく囁く。


「雪音も嬉しかったでしょ?」


「そ、それは、嬉しかったけど…」


 さっきまでの事を思い出した瞬間、急に恥ずかしくなった私は俯いて視線を逸らすが、いつまでもここにいるとお昼休みが終わってしまうので、私たちは急いで教室に戻った。





 教室に戻ると、雫たちはすでにお昼を食べ終わり楽しそうに話をしていた。


「遅くなってごめん」


「おぉー、朝比奈。大丈夫だよ。それより時間ないから、はよご飯食べな」


「ありがと」


 雫にお礼を言った後、私はカバンからお弁当を出して急いで食べていくのであった。





 放課後。私たちはいつものように手を繋ぎながら歩いていると、六華からデートに誘われた。


「あ、そうだ雪音。土曜日か日曜日にでも遊びに行かない?」


「いいけど、どこいくの?」


「普通にお買い物かな。前に雪音の家に行った時に、アロマのいい香りがして気に入ったから、おすすめがあれば教えてよ」


「わかった。なら、土曜日はどう?」


「ありがと。時間は13時に駅前でいい?」


「いいよ」


 久しぶりに外でデートをすることになったので、準備に気合を入れようと心に決めた私は、どんな服や髪型にしようか考えながら家に帰った。





 デート当日。私は目が覚めると体が怠く、意識もぼんやりとしていた。

 時計を確認するとすでに12時を回っており、私は急いで起きようとするが体が思うように動かない。


 スマホでお母さんに連絡をして部屋まで来てもらい状況を説明すると、風邪だと言われてしまった。


 今日は楽しみにしていたデートの日なので、這ってでも行きたかったが、それをする気力もなかったので、泣く泣く行けない事を六華に謝罪して眠りについた。





 それから何時間経ったのかは分からないが、ふと目が覚める。ただ、まだ熱があるせいか意識は朦朧としており、未だ夢見心地だった。


 ベットの横に人がいる気がしてそちらを見てみると、なぜか六華がいた。


「ぅん?…りっかぁ?」


「おはよ、雪音」


「りっかだぁ。わたしのりっかがいる〜」


 六華が私の部屋にいるわけがないので、これは夢だと思い甘えることにした。

 そして、前から触ってみたかった彼女の顔に手を伸ばして触れてみると、確かな感触が手のひらに伝わる。


「…あれ?六華?」


「うん。雪音の六華だよ」


 彼女に触れた事で、これが夢ではなく現実だと知り、彼女がどうしてここにいるのか尋ねる。


「お見舞いにきたよ。部屋にはちゃんとお母さんの許可をもらってから入ってるから安心してね」


 今の状況について理解した私は、お見舞いに来てくれたことへの嬉しさで舞い上がりそうになるが、現在の自分の格好とさっきまでの言動を思い出して急に恥ずかしくなる。


「まって、今すごく髪とかボサボサだし、すごく恥ずかしいこと言った気がする!」


 恥ずかしさのあまり思わず布団に潜るが、そんな私に対して、六華は優しく声をかけながらゼリーなどを買って来たと言ってくれた。

 私は六華が買って来てくれたというゼリーを食べるため上体を起こすと、彼女は私にゼリーを食べさせるためか、スプーンで掬って口元まで持って来てくれる。


 私はそれをありがたくいただき、完食するまで食べさせてもらった。

 ゼリーを食べ終わると、やはり熱があるせいか酷く喉が渇き、飲み物も欲しいと伝える。


 六華は買って来たスポーツドリンクを私に渡そうとするが、そこで何を思ったのか手を引っ込めると自分が飲み始めた。


「り、六華?…んぐっ?!」


 疑問に思った私は彼女の名前を呼ぶが、特に反応することなく私の方に顔を向けると、いきなり私にキスをしてくる。


 私は何が起きているのか分からないまま呆然としていると、六華の方から緩くなった液体が流れ込んでくる。


(これっ、さっきの飲み物!)


 彼女が何をしたいのか理解した私は、流れ込んでくる飲み物を甘んじて受け入れ飲み込んでいく。


 与えられたものを全て飲み込むと、六華は私から顔を離して見つめてくる。


「な、なんで口移しなの。私、風邪引いてるんだよ?」


「それはほら、風邪ってうつしたらすぐに治るって言うでしょ?だからキスをしたらいいんじゃないかなって」


「そしたら次は六華が風邪を引いちゃうじゃん」


「雪音からなら喜んでうつされてあげるよ」


 最後にそんな事を言いながらもう一度キスをすると、六華は時間を確認する。私も一緒に確認してみると、17時を少し過ぎたあたりだった。


「雪音、そろそろ私帰るね」


「え、もう帰るの?まだ居てくれてもいいのに…」


「そう言ってくれるのは嬉しいけど、私が居たら休めないでしょ?」


 私の体調を気遣って言ってくれているのは分かるが、風邪のせいかいつも以上に寂しく感じてしまう。

 そんな私を元気づけるため、六華は耳元に口を寄せると、優しく囁きかけてくれた。


「ちゃんと治ったらご褒美あげるから、今日はいい子にしてね」


 ご褒美が何かは分からないが、最近の雰囲気から言ってきっと良い事だろう。それだけで沈みかけていた私の気持ちは一気に晴れる。


「う、うん!」


「ふふ。それじゃ、またね」


「今日は来てくれてありがとう!気をつけてね!」


 私は手を振って出ていく六華を最後まで見続け、彼女が帰っていくのを見送った。


「はぁ。幸せだなぁ。本当に幸せ。これから先もずっとこんな日が続くと良いのに…」


 そんな未来を夢見ながら、今度は夢で六華に会える事を願って、私はまた眠りについた。





 三週間後、これまでの幸せが嘘のように感じる地獄のような日々が私のことを待っているとも知らずに…






◇ ◇ ◇ ◇ ◇

よければこちらの作品もよろしくお願いします。


『距離感がバグってる同居人はときどき訛る。』


https://kakuyomu.jp/works/16817330649668332327

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