水族館でデートします

 雪音が嫉妬した時は、私のことを見てくれると約束した日から数日が経ち、今日は金曜日。


 その間、私は雪音とは継続して距離を置きつつ、莉緒とたまにスキンシップとして手に触れてみたり、頬を触ってみたりした。

 その度に、雪音からは嫉妬の視線を向けられるが、以前とは違って、その視線が向けられているのは莉緒ではなく私だ。

 雪音から向けられる、少しずつ重くなっていく愛に、私はこれまでにない幸せを感じている。


 そして、今日も雪音が嫉妬してくれるように意識して行動する。


「莉緒、ちょっとこっちに耳寄せて」


「今度はなんだよ」


 文句を言いながらも、耳を私の方に寄せてくれる莉緒。彼女は、嫉妬の視線を雪音から向けられなくなったことで、ある程度は協力してくれるようになった。

 私は、寄せてくれた耳の近くに顔を寄せ、口元に手を当てながら、いかにも内緒話をしている雰囲気を出す。

 そんな私たちを見たためか、これまで以上に嫉妬のこもった視線を雪音から感じる。私はそれに満足すると、口を離す際、悪戯心で莉緒の耳に息を吹きかける。


「ひゃ!?」


「…え、何今の。可愛かったんだけど」


 思いの外、莉緒から可愛い声が聞こえてきて、つい本音が出てしまった。

 それに対して莉緒は、急に息を吹きかけられた事に怒ったのか、私を睨んでくる。


「ごめんて。そんなに睨まないでよ」


「次やったらぜってー許さねーし、二度と協力しないから」


「ほんとごめんね」


 怒っているはずなのに、今回は許してくれるらしい。

 そんなやり取りをしていると、雪音からメッセージが来た。


『今日一緒に帰るよ』


 あの日以来、雪音とキスはしていない。よくてたまに一緒に帰る時に手を繋ぐくらいだ。それなのに、莉緒とはこういう事をしているためか、最近の雪音の嫉妬は凄い。


 前までは、一緒に帰ろうって誘われていたのが、今では帰るよと命令形だ。

 雪音の余裕がどんどん無くなって、かわりに私への独占欲が増えているようだ。


(可愛いなぁ。そろそろ次に進んでも良いかな?…よし、土日のどっちかをデートに誘って、月曜日に次に進めよう)


 雪音が良い感じに私への独占欲でいっぱいになってくれたので、来週の月曜日に第3段階へ移行する事に決める。

 私は雪音のお誘いに了承し、とりあえずは土日のデートをどうするか考える事にした。





 放課後、私と雪音は当然のように手を繋いで歩いてる。

 前までは、手を繋ぐこともあまり無かったが、今では一緒に帰る時はいつも繋ぐようになった。

 これも雪音の可愛い独占欲がゆえの行動である。


「六華。今日休み時間の時、葛飾さんの耳元で何してたの?」


「耳に息を吹きかけてからかっただけだよ」


「ふーん。何か内緒話したとかじゃないの?」


「そんなことしないよ。それより雪音、土曜か日曜にデート行かない?


「行く!」


「よかった。どっちに行こうか」


「なら、土曜日がいいかな」


「りょーかい。場所は考えてあるから、楽しみにしててね」


 雪音がデートに行くことに賛成してくれたので、私たちは土曜日にデートをすることになった。

 久しぶりのデートだから雪音は嬉しいのか、さっきまでご機嫌斜めだったのが噓のように満面の笑顔だ。

 斯くいう私も、雪音と一日遊ぶのは久しぶりなのでとても楽しみである。

 その後は、特に寄り道する場所もなかったので、私たちは自分たちの家に帰ることにした。





 土曜日。私は学校が休みの日は、お昼近くまで寝ていることが多いが、今日はいつもより少しだけ早起きをする。

 だって今日は雪音とのデートの日だ。遅刻するわけには行かない。

 昨日はお互い家に帰った後、待ち合わせの時間につい話し合い、今日の待ち合わせは11時という事になった。

 

 私はさっそく服を着替えて準備をしていく。準備が終わって時計を見ると、ちょうどいい時間だったため、私はスマホで雪音に今家を出ることをメッセージで送り家を出る。


 待ち合わせ場所は、今日の目的地に近い駅にした。駅を出てから少し歩いて、待ち合わせ場所に着くと、約束の時間から10分ほど前で、雪音はまだ来ていなかった。

 なので、スマホを取り出して時間を潰しながら待っていると、5分ほど経った頃に雪音が来た。


「お待たせ、六華。待たせちゃってごめんね?」


「そこまで待ってないから大丈夫だよ。まだ5分前だしね。気にしなくていいよ。それと雪音、今日も可愛いよ」


「ありがとう。そう素直に褒められると少し照れるね。六華もかっこいいよ…」


「ん。ありがとね」


 雪音は可愛いと言われたのが嬉しかったのか、照れながらもお礼を言った後、私のことも褒めてくれた。それに対して私も少しだけ恥ずかしくなり、そっけない感じで返してしまう。


「そ、それじゃあ!今日の目的地に連れて行ってくれる?」


 雪音は恥ずかしさを紛らわせるためか、そう言いながら自然な動きで私の腕に自信の腕を絡めてくる。

 これまでは腕を組むなんて事をしたことは無かったが、どうやら以前に莉緒と私が腕を組んでいたのを見て、羨ましく感じたのだろう。

 ただ、やはり初めての事だからか、少し顔が赤くなっている。

 その表情があまりにも可愛くて抱きしめたくなるが、今は人も多いため自重する。


「それで六華、今日はどこに行くの?」


「それは着いてからのお楽しみって事で。それと、お昼もそこで食べる予定だけど大丈夫?少しお昼過ぎちゃうかもだけど」


「大丈夫だよ。朝もしっかり食べたし、そこまで気にしなくてもいいよ」


「わかった。じゃ、行こうか」


 この後の予定を大まかに話し合った後、私たちは本日の目的地に向かって歩き出した。





 私が今回、雪音を連れてきたのは、最近出来たばかりの水族館だ。私がここに来たかったというのもあるが、雪音は水族館が好きなため、彼女と一緒に来たかったのである。


「わぁ!ここって、最近できた水族館じゃない?」


「そうだよ。雪音は水族館が好きだから、せっかくなら一緒に来たくてね」


「ありがとう、六華!」


「どういたしまして。さっそくチケットを買って中に入ろうか」


 雪音はお礼を言ってくれた後、早く入りたそうにしていたので、私たちはチケットを買って中に入った。


「すごく綺麗」


 館内に入ってすぐ、雪音は中の綺麗さに見惚れていた。

 館内は新しくできたばかりのため、壁や床なども綺麗だが、それ以上に水槽の配置やライトの色使い、数多くの魚たちが泳ぐ様子がとても綺麗だった。

 雪音が見惚れてしまうのも納得できる。


 その後、私たちはいろいろなものを見て回った。

 クラゲや小さな魚たちが泳いでいるアクアリウム、大きい水槽の中で統率の取れた動きをする魚の群れ、水槽がトンネル状になった道を歩いたりもした。


 他にも、深海魚や深海生物のコーナーに行っては、少しグロテスクな見た目の魚やブサイクな顔をした魚などを見て、二人で感想を言い合った。


 触れ合いコーナーでは、ドクターフィッシュの水槽に手を入れて、くすぐったそうに笑う雪音が可愛かった。





 ひと通り館内を見て回った私たちは、水族館の隣にあるお店でお昼を食べる事にし、さっそくお店の方に向かった。

 お店の中はお昼時を過ぎているためか、比較的空いており、すぐに席に着くことが出来た。


「雪音は何食べる?」


「んー。私はきのこたっぷりのオムハヤシライスにしようかな」


「わかった。私はどうしようかな…あ、このカルボナーラ風うどんによう」


 食べるものが決まったので、私は店員さんを読んで注文を済ませる。

 待ってる間、水族館の感想を雪音に聞いてみることにした。


「雪音、今日はどうだった?」


「すごく楽しかったよ!新しく出来ただけあって、他の水族館で人気なものや流行りものを真似て作られた物もあるし、逆にここにしかない物もたくさんあったから、すごく良かった!」


「雪音に楽しんでもらえてよかった。私も楽しかったし、良い一日になったよ。今日はありがとね」


「ううん。私こそ連れてきてくれてありがとう」


 その後も水族館で見たことの感想を話していると、頼んだ料理を持った店員さんが来て、私たちの前に料理を置いていった。

 私たちはそれらをゆっくりと食べ、食べ終わった後はお土産コーナーを見るために、もう一度水族館に戻った。


「六華、このキーホルダーお揃いにしない?」


 雪音はそう言いながら、私に子供ペンギンが付いたキーホルダーを見せる。


「可愛いね。いいよ、お揃いで買おっか」


 私はそう言いながら、雪音のと同じペンギンのキーホルダーを手に取った。

 あとは、カワウソのぬいぐるみが可愛かったのでそれも一緒に買う事にする。


「六華って、意外と可愛いの好きだよね」


「まぁね。可愛い物を見てると、疲れとか忘れられるんだよね」


 そして、お互いに買う物も決まったのでレジでお会計をした後は、館内でもう一度見たいところを改めて見て回り、ひと通り見た後に外に出た。

 外はすでに夕方になっており、かなりの時間見て回っていたようだ。


「そろそろ帰ろうか」


 私がそう声をかけると、雪音も了承してくれたので今日は帰る事にする。


 電車に乗っていると、最初に雪音が降りる駅に着いた。

 雪音は少し寂しそうな顔をしながら「またね」と声をかけてくる。

 私と離れる事を寂しがってくれる彼女が可愛くて、彼女が降りる前に腕を引き、こちらを向かせる。

 そして、軽く彼女の唇に自信の唇を重ねてキスをしてから手を離し、「またね」と返す。


 雪音は少しの間驚いていたが、すぐに笑顔になって手を振ってくれた。

 私も手を振り返すと、電車の扉が閉まり動き出す。


 こうして、私と雪音の水族館デートは終わりを告げた。






◇ ◇ ◇ ◇ ◇

よければこちらの作品もよろしくお願いします。


『距離感がバグってる同居人はときどき訛る。』


https://kakuyomu.jp/works/16817330649668332327

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