第47話 俺の愛する魔法少女のカタチ①
異界の扉を封印するための鍵は、俺がぶっ壊してやった。
このままだと、そう遠くない未来にはアビスの使途がこの世界に雪崩れ込んで来る。
そうすれば世界は終わりだ。
「そんじゃ、アビスの使徒とやらの顔でも拝みに行くか」
「瞬殺されても助けてやらんからな」
「そりゃ、こっちのセリフだっつーの」
最悪の未来を阻止するため、覚悟を決めた俺たちは、アビスの使途と決着をつけるべく異界の扉を潜る。
すべての色の絵の具をパレットにぶちまけてこねくり回したような、歪んだ一本道を抜けると、俺達は奇妙な空間に投げ出された。
そこは継ぎ接ぎだらけの世界だった。
学校や誰かの部屋、ショッピングモールに街中、果てはゲームの画面やテレビのCMまで――ありとあらゆる風景が、所狭しと脈絡なく、延々と繋がっている。
ただ共通して言えることは、
「これは……魔法少女たちの記憶なのか?」
どれもこれもが、年頃の少女が普段から目にしていそうな風景ばかりだった。
「どうやらそのようだな……。ぬいぐるみやら人形やらのサイズ感はメチャクチャだが、十中八九、アビスの使徒と戦った魔法少女たちの記憶から作られた空間なんだろうな」
「何のために、こんな……」
「さあな。それよりも杉田、雑談をしている時間はなさそうだぞ。気付かれたな、何体か接近してきている……」
「チッ、作戦をやるにしてもここじゃ手狭だ。囲まれる前に移動して、いい場所を探すぞ」
幸いな事に、アビスの使徒の動きは緩慢だった。
互いに連携を取っている様子もなく、俺達は上手く追跡を撒きながら、探索を続ける。
そうして、どれだけ逃げ回っただろうか……。
いくつもの風景を巡った先で、俺達は、派手に装飾された広い空間に出た。
「ここは……」
「ステージのようだな……」
ここも魔法少女の記憶の一部なのだろう――っていうか、知ってるぞここ。パシフィコ横浜じゃねえか。
『みく☆ミラ』のライブトークイベントで、この前行ったばかりだ。
「打って付けだな……」
広い空間、ステージに客席、照明や音響設備まである。
作戦決行は、ここ以外には考えられない。
「本気でやるつもりなのか……杉田?」
「当たり前だろ。どうせこのままじゃ世界は終わるんだ。だったら、やるしかねえだろうが。ほれ、アビスの使徒(かんきゃく)が集まって来たぜ」
決して早い動きではないが、確実に、俺たちを囲むように、強大な力を持つ何かが迫っているのを感じる。
「チッ、仕方ない。お前の作戦に乗ってやる。死んだら呪うぞ、杉田!」
「そんときゃ俺も死んでるな。でも、絶対に大丈夫だ。任せとけや! お前こそ例のアレ、完コピ出来てんだろうな!」
「誰に言っている。10話ならブルーレイに穴が開く程に観たからな」
ブルーレイには最初から穴が開いてるけどな。
「なら安心だ。中村、てめえのことは嫌いだが、『みく☆ミラ』に関してだけなら信頼してるからな」
「それは、こっちの台詞だ。っと、客が来たな。さっさと変身するぞ、杉田!」
「わかってらい」
俺たちはその手に持つピンクと紫のステッキを振り上げ、左右対称に同じポーズを取る。そして、
「「フィーリング トゥハート!」」
魔法の呪文とともに、はじける制服。
露になった鍛えられた肉体の大事な部分が謎の光で隠される。
みるみる縮む男の身体は、やはり凹凸の少ない、けれど少女特有の甘く柔らかな肢体へと変化を遂げる。
可憐なステップに合わせて、次々と装着されていく、フリフリな衣装たち。
そしてついに――
「魔法少女☆杉田」
「魔法少女☆中村」
「「――ここに参上!」」
異界の地に、ふたりの魔法少女(男)が降り立つのだった。
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