第45話 封印の鍵

 オノディンに案内された先、地下深くの洞窟の中、そこに中村の姿はあった。


「よお、中村。妹の隣で体育座りって……我が生徒会長ながら、情けなくて涙が出るぜ」


 中村のやつ、なんて陰鬱な顔をしてやがる。見てるこっちまで嫌になる。


「杉田……お前、ここに何をしに来た?」

「まさか東京の地下にこんな巨大な洞窟があるとは知らなかったぜ。オノディンに聞いたけど、ここ昔はアースドラゴンって怪物が――」

「何をしに来たと聞いている」

「ったく、短気な坊ちゃんだぜ。そりゃこっちの台詞だよ。テメエこそ、妹を助ける気はないとか抜かしておいて、こんなとこで何してんだよ?」

「それは……」


 言葉に詰まる中村。その目が、俺の横に控えるオノディンを捕らえ睨みつける。

 中村の攻めるような視線に、オノディンがやれやれと首を振る。


「勘違いしないでくれよ。杉田がここに来たのは、杉田自身の意志だからね。僕が唆したりとかは、断じて違うからね」

「そういうことだ。で、その子が奏多か? お前と全然似てなくて、写真で見るより可愛い妹じゃねえの」

「お前が可愛いとか言うと、奏多が穢れるから止めろ」

「褒めたのにそれかよ! 世の女子は、俺が感想を述べただけで穢れるってか!?」

「そうだ。知らなかったか?」

「くっ、てめ、いけしゃしゃあと……」

「魔法少女モノの卑猥な本をコレクションしている男に対する、当然の評価だと思うがな」

「ぐぬぬ」

 

 それを言われると、返す言葉がないのが悲しい。


「――んで、その奏多の胸に浮いてる宝石が、封印の鍵なんだな……」


 十字架に吊るされたように、宙に浮かぶ奏多。その目の前まで足を進める。

 奏多の胸の宝石を見つめると吸い込まれそうな不思議な感覚に襲われた。

 それは信じられないほどに強い魔法少女力の塊だった。

 宝石は絶えず術式を変化させ、扉の封印のためのロジックを作り上げようとしているのが分かる。


「力の源である奏多から、今も魔法少女力が注ぎ込まれ続けているのか……」


 だが、注ぎ込まれる魔法少女力が増えれば増えるほど、それに合わせて、奏多の存在が希薄になっていっているのも分かった。


「奏多の胸を凝視するな、このロリコンが。 期待しても無駄だぞ、奏多は母親似の巨乳美少女なるからな。すぐにお前の趣味からは逸脱するからな」

「見てねえよ! ってか『俺の妹は巨乳美少女になる』とか断言してる兄貴の方が余程変態だって気付けや。こっちは真面目な話してんだよ! 話が進まねえだろ!」


 いや、話なんかする必要はねえか……。

 中村だって、俺に何も言わねえで、一人こんな所まで来やがったんだ。今さら何を気を使う必要がある?

 そうだ、俺は俺で好きにやらせてもらう。そのためにこんな地下深くまでやって来たんだからな。


「この封印の鍵が完成したら最後、世界は救われて、お前の妹は人間じゃなくなるってわけだ……」

「…………何が言いたい?」

「何が『俺は妹を助けない』だよ。ものは言い様だな。――――お前、妹と心中するつもりでここに来たんだろ?」

「………………」

「お前は困るといつもだんまりだな。ま、別にいいけどよ。最初から気の利いた答えなんか期待してねえし、お前の答えが何であろうと、これから俺がやる事に変わりはねえからな」


 それだけ言うと、俺は、背後に隠した変身ステッキを振り上げる。


「杉田……お前、何を……?」

「さっき、散々何しに来たって聞いてたよな? 答えは簡単だ。俺は奏多を助けに来たんだ。けどそれは、奏多がお前の妹だからじゃねえ――奏多が俺の妹の親友だから助けに来たんだよぉぉぉ!」


 叫ぶと同時に、俺は変身ステッキを勢いよく振り下ろした。

 驚愕し目を見開く中村。

 その目の前で、俺のステッキが奏多の胸で輝く宝石に叩き込まれる。

 

 そうして、今まさに完成しようとしていた封印の鍵は、無残にも粉々に砕け散ったのだった。

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