第18話 ステッキとの身体の相性は抜群

「じゃ、時間もないことだし。早速二人の変身アイテムを創るよ」

「な!?」

「変身アイテム……だと……」


 本当に、本物の魔法少女変身アイテムが貰えるのか?

 やべえ、武者震いしてきたぜ。

 ステッキかな? コンパクトかな? ネックレスとか指輪とか、最近はスマホってパターンもあるよな!


「どこからどう見ても嬉しそうだよね? 二人ともそわそわし過ぎだよね? まぁ、やる気があるのはいい事だけどさ」


 オノディンは「では失礼して」と言うなり、腹に手を当て、ゆっくりと深呼吸を始める。


「オェ、ウ、ウゴゴ……」


 その直後、オノディンの顔が苦しみの色に染まる。


「ちょ、おま、大丈夫か?」


 オノディンの腹が奇怪に盛り上がり、激しく波打つ。

 その動きに合わせて、ヒッヒッフーと、呼吸を整え始めるオノディン。

 

 そして――。


「ボォウエッ!!!」


 限界まで開かれた口から、自らの体積を明らかに超えた巨大な卵を吐き出した。


「ピッコロ大魔王じゃねえかっ!」


 俺のツッコミを背景に、オノディンは更にもう一つの卵を「ボォウエッ!」と吐き出してみせる。

 腹を痛めて生んだ二つの卵を優しく撫でるオノディンは、一端の母の顔をしていた。


「そのやり切った感ある顔、気持ち悪いから止めろ!」

「うるさいなぁ。産後は心も身体も不安定なんだから、もっと労わってくれないと。ほら、パパでちゅよ~~~」

「パパじゃねえ! 黙れ、馬!」

 

 彼女もできたことねえのに、いきなりパパになってたまるか!

 ってか卵はねえだろ、卵は!

 モンスター娘とかは嫌いじゃないけどさ。


「ま、すぐに孵ると思うから、ちょっと待っててごらん」


 その言葉の通り、オノディンが言い終わるや否や、二つの卵にひびが入る。

 細かく揺れる卵。パリパリと次々に増えていくひび。

 その隙間から、徐々に光が溢れだす。


「うお!?」


 突如として弾けた眩い光に顔を背ける。

 しばらくして視界を取り戻した俺達は、眼前に浮かぶ〝それ〟の存在を目にした。

 それは、まさしく魔法少女のステッキだった。

 全長は五十センチ程、全体に可愛らしいメルヘンな意匠が施されている。杖の頭にはハートを模したオーナメント。その中央には、まるで満天の星空を閉じ込めたかの様な水晶玉が輝きを放っていた。


「へぇ……クソ馬のことだから、てっきり〝マジカル釘バット〟とか〝マジカル鉄パイプ〟なんてふざけた代物を出してくるかと思ったが……」

「ああ、存外まともな物が出てきたな……」


 俺と同時に中村もほっと溜息をつく。


「俺のステッキはみくるたんと同じピンクか。いいね、分かってるじゃねえの……」


 目の前に浮かぶピンクのステッキを握りしめる。


「俺は、くろみカラーの紫か。いい、悪くない……」


 中村もまた紫のステッキを掴んだ。

 それは、初めて手にしたはずなのに、何年も愛用した道具のような、離れ離れだった相棒と再会したような感覚。


「な!? こ……こいつは…………」

「魔法のステッキの知識……いや、意志が流れ込んでくるっ!?」


 ステッキから伝達される波のような刺激が、次々と脳内へインプットされていく。


「すごい! もう│接続コネクトが始まってるんだね。やはり、ボクの見立てに間違いはなかった。ふたりともステッキとの身体の相性は抜群みたいだ!」

 

 俺達の変化にオノディンが歓喜する。


「身体の相性とか言うんじゃねえよ!」

「だが確かにこれは……流れ込んでくる力を感じる。これが魔法少女力なのか……」

「ああ、これは……これならあの触手男だってやれる!」


 ――その時、後方から唸るような雄叫びが聞こえた。


 それは、ずっと停止していたコスプレ触手男が、再び動き始めたことを示す合図。

 場が一瞬にして緊張に包まれる。


「心配はいらないよ。今のキミたちなら大丈夫さ。さあ、もう接続は済んだだろ。変身して、あの哀れな怪物を浄化してやって欲しい!」

「ああ、分かったぜ!」

「任せてもらおうか」


 オノディンに言われるよりも早く、ステッキを強く握りしめた俺達は、哀れな触手男に向かって走り出すのだった。

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