第7話 美少女の乳、尻、太ももに、今にも届きそうな俺の舌①
おバカな双子を体よく追い払った俺は、中村の後を追い土足のまま旧校舎へと足を踏み入れる。
ここしばらくは誰も訪れていないのだろう、旧校舎の中は、あらゆる場所に埃が積もっていた。
「――喉がやられそうだな……」
窓から差す光に照らされる浮遊物に顔をしかめながら、俺は先へ進む。
廊下には真新しい靴跡がハッキリと残っていた。埃っぽいのは勘弁だが、そのお陰で中村の追跡は容易だった。
歩きながら、俺は一考する。
それは、今回の抱き枕カバーの件、中村相手にどう話を持ち掛けるかについてだ……。
くろみ☆ブラックの抱き枕カバーが、中村の物であることは、ほぼ間違いないだろう。とはいえいきなり、
『この、くろみほぼ全裸抱き枕カバーはお前のだろ……。入れ替わった俺のみくるたん抱き枕カバーを返してもらおうか?』
などと聞くのは無策にも程がある。
それに万が一、これが中村の物でなかった場合、俺一人だけが社会的に死ぬという危険性すら孕んでいた。
更に言えば、例えこれが中村の物だったとしても、アイツがそれを素直に認めるとは限らないのだ。
知らぬ存ぜぬを貫き通してくる可能性だってある。
その場合、こちらの苦戦は必至だ。
この抱き枕カバーが、中村の物であるという確固たる証拠はないのだから……。
「ここか……」
足跡が一枚の扉の前で途切れる。恐らくこの先には中村がいる。
これは罠かもしれない。
人気のない場所に、生徒会長がたった一人。都合が良すぎる。誘い込まれている気がしてならなかった。
だが、俺のみくるたんを取り戻すためにも、ここで逃げ帰るわけにはいかない。
「ま、何とかなるだろ……」
抱き枕カバー(ジョーカー)は、こちらの手の内にあるんだからな。
俺はそう自分に言い聞かせ、勢いよく扉を開ける。
と、そこに居たのは、かつて教室だった部屋の窓際に佇む中村の姿。
「遅かったな……」
俺の姿を確認すると、中村は驚いた様子もなく淡々と言葉を紡いだ。
「やっぱり、俺を誘ってやがったのか……」
「誘ったとか――俺がお前に気があるみたいな言い方は止めて貰おうか」
「そんな意味で言ったんじゃねえよ!」
「本気にするな冗談だ」
「…………」
冗談ね……こいつが俺に冗談とはな。
徹底的な効率主義者。無駄なことは一切しない、目的のためなら手段を選ばない男。
それが俺にとっての中村悠(なかむらはるか)という男だ。
なのに、そんな生徒会長様が、普段から目の敵にしている俺に対して冗談だとよ。
ったく、不気味以外の何物でもないぜ。
「――――お前が、俺に冗談とはな……随分と上機嫌じゃねぇの……」
「ずっと煩わされていた案件の一つが、やっと解決しそうでな。そのお陰で気分が高揚しているのさ……」
「へぇ、ロボットみたいな奴だと思ってたけど、お前にもそんな人間らしい感情があったんだな」
「何とでも言え。今は気分が良い。大抵のことなら罪には問わんぞ」
相変わらず偉そうに言いやがるぜ、この糞メガネ。
第一、罪って何だよ、たかだか生徒会長のが、裁判官にでもなったつもりかよ。
だが、その面、今すぐ吠え面に変えてやるぜ。なにしろ今の俺にはこの紙袋があるんだからな。
分かってるんだぜ、さっきからちらちらと、この紙袋を気にしてることはな!
中村は間違いなく動揺している。
だったらここは、先制攻撃で畳み掛けるしかねえだろ!
「なあ生徒会長。この紙袋の中身見たぜ。これ、中村のだろ? どういうことか説明して貰おうか?」
敢えて大仰に、勝ち誇ったように紙袋を見せつける。だが、
「そんな袋は記憶にないな……」
中村は表情一つ変えない。
「平気な顔でいけしゃあしゃあと……。ネタは上がってんだぞ。昨日俺とぶつかった時、お前がこの紙袋を持っていたのを俺はハッキリ見てんだからな」
ま、嘘だけどな。
ぶつかる前、中村が同じ紙袋を持っていたような気がするというだけで、はっきりと目にしたわけじゃない。
だが、それでも俺は自信満々を装い、中村に対してカマを掛ける。
「だからそんな袋は知らないと言っているだろう……」
「くっ……」
こいつ、やっぱり完全に白を切る気だ。想定していたとはいえ、嫌な展開だな。
だったら仕方ねえ。ここからは正面きっての殴り合いといこうじゃねえか。
「へぇ……そういう態度ならこっちにも考えがあるぜ。だったらよ、コレの持ち主がお前だって、学校中に言い触らしても良いんだぜ……」
焦っているのを悟られないように、俺は自信満々に笑う。
「これって魔法少女のアニメのブルーレイだよな? しかもなんか美少女のエロいグッズまで入ってるときたもんだ。まさか天下の生徒会長様が、こんな趣味だと知れたら学校の連中はどう思うだろうなぁ?」
だが、中村はそれがどうしたとばかりに、不敵に笑う。
「それで脅迫しているつもりか? さっきから言っているだろう、そんな紙袋は知らないとな。それにお前が言ったところで、はたしてどれだけの人間がお前のようなクズの話を信じると思う?」
「そ、それは……」
本当にムカつく野郎だ。相手の嫌がるポイントを正確に突いてきやがる。
確かにそうだ、もし俺が中村の秘密をばらしたとして、それを信じる人間がどれだけいるのだろうか。
おバカ双子だけじゃ何の足しにもなりゃしない。
「さすがに自分の立場くらいは理解しているようだな。では、本題に入ろうか。俺は〝その紙袋〟など知らないが――〝この紙袋〟はお前の所有物で間違いないな?」
「それはっ!」
中村は、俺が持つ紙袋と、全く同じ物を背後から取り出して見せたのだった。
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