第8話 美少女の乳、尻、太ももに、今にも届きそうな俺の舌②

 自分のくろみ抱き枕カバーは棚に上げ、俺のみくる抱き枕カバーについて追及してくる中村。


「お前こそ白を切っても無駄だぞ……。俺はこの紙袋を持っているお前の姿をしっかりとこの目に焼き付けている。お前の言葉は誰も信じないだろうが、俺の言葉ならどうかな……なんなら明日、実験してみるか?」

「――ッ! てめえ…………」


 マズい。マズい状況だ。

 状況は五分だと思っていた。互いに握っているカードは同じだと。

 だが根本的に、絶望的に、それが間違いであるということを思い知る。

 強引な方法で生徒を絞めつけている中村も、決して人望があるわけではない。むしろ、嫌いだと答える生徒の方が圧倒的に多いに違いない。

 だが、曲がりなりにも生徒会長。それに実績もある。やり方はどうあれ、こいつが生徒会長に就任してから校内の問題が減っているのは事実だ。

 聞くところによると、教職員や保護者からの信頼は相当なものらしい。


 ――だとすれば、手持ちのカードが同じだとしても、こちらの敗北は目に見えている。


「へっ……ばらされたくなきゃ学校辞めろってか……?」

「察しが良くて助かる。まぁ、無理にとは言わんが。ただお前を慕う奴も多いだろう? そいつらにこんな趣味がばれたら、どう思われるかな。想像くらいは付くだろう?」

「て、てめえ……」


 最低な野郎だ……テメエの方がよっぽどクズじゃねえか……。


「何で……何でそこまでする……お前だって『みく☆ミラ』好きなんだろ!? じゃなきゃ、こんなもん持ってるはずがねえ! なのに……どうして!」

「何を言っているのか、さっぱり分らないな」


 こいつ、この期に及んで……。


「それに俺はもうずっと問題なんか起こしてねえだろ! 確かに昔は色々あった……けど、最近は何もしてねえだろうが!」


 この一年、俺は静かに過ごしていた。意外に思われるかも知れないが、赤点の一つすら取っていない。

 そして、生徒会長である中村が、それを知らないはずがないというのに。


「確かに、最近のお前は問題行動を起こしていない。全くもって、忌々しい事だ……」


 忌々しい?

 こいつ、俺が問題を起こさないことを、忌々しいって言ったのか?


「おい、それ、どういう意味だよ」

「分らないのか? さすがに過去の問題だけで退学に追い込むのは難しくてな。だから、次にお前が問題を起こすのをずっと待っていたんだ」


 コイツ……何を言って――。


「なのに足でも洗ったつもりなのか知らんが、お前はぱったりと問題を起こさなくなった……。ほとほと困ったよ。目障りなクズを追い出す口実を見つけられないことが、こんなにもストレスになるとはな……」

「てめぇ……それ、本気で言ってやがるのか……」


 自分の耳を疑った。

 何だかんだ言っても、中村には中村なりの正義があって、強引なやり方であろうと、そこには何かしらの信念があるのだと思っていた。

 なのに――。


「何でだよ! 俺の無実はお前が一番よく知ってんだろ! なのに何で、何でそこまでして俺を追い出そうとする!? 邪魔者扱いする!?」


 中村は溜息をついた。心底馬鹿にするような、そんな深い溜息を……。


「だからお前は何も分っていないと言うんだ。例えお前が不良を止めたとしても、それで万事解決などなるものか。今でもお前を慕うバカは多いだろう? お前を目の敵にする奴、利用しようとする奴、いないとは言わせんぞ」

「…………それは……」

「『妖怪サトリ』がいるというだけで、うちの学校には大ダメージなんだ。お前が足を洗ったとかは関係ない。お前を慕ってクズがやって来る。お前を倒そうとゴミがやって来る。そのせいで、どれだけの生徒がうちの学校への入学を取り止めたと思う?」


 憎しみの籠った視線を俺に向けたまま中村は言葉を続ける。


「お前のせいで、どれだけの人間が迷惑を被ったと思っている? いいか、よく聞け。お前の存在自体が害悪なんだ! 足を洗った? 反省した? 知ったことか! そう簡単に過去の汚名を濯げると思うな。お前はな、いつまでもたっても迷惑な不良のままなんだよ!」

「―――――――」


 中村に浮かぶ憎しみの感情に当てられて、言葉が出なかった。

 色々……思うところがあり過ぎて、怒りより戸惑いが先行する。

 こいつが学校の改革とやらに異常に執着しているのは知っていた。俺の存在が、一番の障害になっているということも……。

 ああ、そうだな。確かに、お前の言い分には一理どころか二理も三理もあるのかも知れない。

 でもな……俺だって……好きで不良になったわけじゃねえ。

 好きでこんな凶悪顔に生まれたわけじゃねえ。

 なのに勝手に決めつけて、レッテル貼って、お前は〝そういう人間なんだ〟と誰もが俺を追い立てる。

 結局、お前も同じかよ……。

 

 中村が『みく☆ミラ』を好きかも知れないって知った時、俺は、本当は――――と思ったのに……。

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