第30話 今日は杉田の部屋で休ませてもらおうか①

 ――中村が止まっていくことになった今日。


 何故か夕食は俺が作ることになってしまった。

 当初はこころが作る予定だったのだが、何を勘違いしたのか『お兄ちゃんの美味しい料理で、中村さんのハートをゲットだよ♪』と、気味悪いアドバイス付きで押し付けられたのだった。

 中村なんかゲットしても、ボールから一生出さないから。

 むしろ放送禁止用語ギリギリの名前つけて通信交換で送ってやる。

 もしくは最初から最後までずっと馬車の中だね。

 

 とはいえ、中村と自分だけならカップ麺でも良いのだが、こころも食べるとなると下手なものは出せない。

 結局、それなりにちゃんとしたものを作ってしまった。


 メインは、鶏肉とナスを早めに使いたいという理由でラタトゥイユ。

 サラダはこころの好物であるシーザーサラダ。

 そして、スープはキャンベルのクラムチャウダー(缶に牛乳を混ぜて温めるだけだが、抜群に美味いので我が家では常備してある)。

 んで、オーブンが空いていたので、デザートはプリンにした。

 最近の機種はボタンを押すだけで、料理に合った加熱をしてくれるから本当に楽だったりする。


「隠れてウーバーイーツに頼んだのか?」


 テーブルに並べられた料理を見て、中村が第一声そんなことを口にする。


「んなわけねぇだろ、手作りだよ。もしこれがウーバーだったら、さっきまで台所に立ってた俺、何をやってたんだよ!?」

「……まさか、信じられん。杉田が……これほどの料理を……」


 俺としてはそこまで手の込んだものを作った覚えはなかったのだが、中村は目を皿のようにして驚いている。

「何だよ、俺が料理できるのがそんなに意外だったのか?」

「ああ、正直意外だ。杉田は人間を料理する以外に能がないと思っていたからな」

「てめ、上手いこと言って人をディスってんじゃねえよ!」


 中村と軽くやり合った後、全員分の飲み物を注いでから、いただきますと手を合わせる。

 中村はまだ信じられないのか、いぶかしげな眼でテーブルの料理を凝視している。


「……これは初めて食べるな……」

「ラタトゥイユって言うんだよ。フランス料理だっけ? お兄ちゃんよく作るんだ」

「ふーん、テレビで見たの真似してるだけだから、フランス料理だとは知らなかったな」

「杉田が……フランス料理? ……すまん、少し酔ったみたいだ。幻聴が聞こえる」

「てめ、酒なんか飲んでねえだろ!」

「あはは、中村さん面白―い」

「ったく、何料理とかはいいんだよ。栄養あって作るのも簡単。少し味濃いめに作れば米にも合う。それで十分だろ。ま、贅沢言えば、本当はズッキーニとパプリカがあるともっと美味いんだけどな」

「…………ズッキーニって何だ?」

「マジか? お前、ズッキーニ知らねえの? 俺もあんま使わねえけど、普通にスーパーで売ってるじゃねえか」

「……スーパーには行ったことがない」

「うそ、中村さんって貴族か何か?」

 

 ――なんて、不本意ながら話の弾んだ夕食も終わり。風呂を済ませ。三人で『みく☆ミラ』を鑑賞して時間を過ごす。

 そして、気が付くと時刻は零時を回っていた。

 要するに、もう寝る時間なのだが――。


「……おい中村」

「何だ、杉田」

「何だじゃねえよ。どうしてお前が、俺の部屋で寝てんだよ!?」


 ホントに何でだよ。どうしてこうなった?

 何でコイツは俺の部屋で、俺の隣で、当たり前のように寝ているんだ?

 隣に敷かれた布団で横になる中村の姿に、俺は頭を抱える。

 そろそろ寝ようという話になった時、中村がいきなり、


『今日は杉田の部屋で休ませてもらおうか』


 などと妄言を口にしたのが始まりだった。

 そして、それにこころが乗っかってきた時点で、俺に逃げ道は残されていなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る