第28話 その抱き枕カバー、ウチの生徒会長の物だぜ③

 『――その抱き枕カバーの本当の持ち主は、うちの生徒会長である中村なんだ!』

 

 というのが、俺がこころにした言い訳だった。

 我ながら無茶苦茶なシナリオである。

 なのに、中村もよくこんな話を飲んだものだ。



 そして、その約束の日――。


「えっと、中村さんって本当にお兄ちゃんの学校の生徒会長さんなんですか?」

「ああ、就任して一年半になるかな」


 ――早速、中村が家にやって来ていた。


「それじゃ、一年生の時から生徒会長だったんですか!? すごい優秀なんですね」

「こころ騙されるなよ、コイツは理事長の孫だからコネで選ばれたんだよ」

「お兄ちゃんちょっと黙ってて、部屋の隅で体育座りしてて」


 すみっこで暮らせと言われた。

 酷い。俺が中村呼んだのに……。


「それにしても、お兄ちゃんが生徒会長さんと友達だなんて、絶対嘘だと思ってたんですけど、まさか本当だったなんて……」

「いや、友人というわけではないんだが、ダメな生徒の面倒を見るのも仕事だからな……」


 何が面倒を見るだよ。

 俺を退学にしたくてうずうずしてた癖によく言うぜ。


「あはは、中村さんったら話し方硬いなぁ~ もっとリラックスして下さいよ。ね♪」


 つーか何だこの状況は。こころと中村が仲睦まじそうに話している。心なしか、こころの瞳にハートまで浮かんでいるような。

 何だよ瞳にハートって! んなもんエロ同人でしか見たことねえぞ!


「あ、お兄ちゃん。お茶のおかわり用意して。あと、戸棚にお客さん用のクッキーあったでしょ。それもよろしく。……それで、お話の続きなんですけど、中村さんは――」


 すみっこ扱いの後は、使用人扱いかよ!?


「ちょ~~~~~っと待った~~~~~! こころ、目を覚ませ! コイツはあの抱き枕カバーの持ち主なんだぞ! ロリコンなんだぞ! 児ポ法ギリギリ男なんだぞ!」

「ちょっと、お兄ちゃん失礼でしょ! あんなの中村さんが買うわけないじゃない! どうせ、中村さんの物ってことにして欲しいって、お兄ちゃんが頼み込んだんでしょ!?」

「ちっげーよ!」


 いや違くないけれども! でも、違うんだよ! 

 そいつはそいつで本物なんだよ!

 顔がイイだけで、正真正銘モノホンなんだよ、分かってくれよ! 


「まあ二人とも落ち着いてくれ。それと、えっと妹さん――」

「こころです。気軽にこころって呼んで下さい」

「呼んだらコロスぞ」

「お兄ちゃんさっきからうるさい! 早く家に帰りなよ!」

「ここが俺の家だよ! 帰るべき場所だよ!」


 いやだー。男に対してこんなに積極的な妹の姿、お兄ちゃんは見たくなかったよ。

 ってか、中村は魔法少女好きだ。

 ということは、高い確率でロリコンの気質があるに違いない。そしてこころは中学二年生――ぎりぎりロリと言えなくもない。

 しかも超かわいい。

 くそ、どうしよう、二人に間違いがあったら――――俺は俺の中の獣を抑えることができるだろうか……いや、無理だな。

 

 殺意衝動を抑えることを秒で諦めた俺が、中村の処刑方法について考えていると、


「えっと、こころ……ちゃん? 勘違いしているようだけれど、あの抱き枕カバーを買ったのは、確かに俺なんだ」


 うお、中村よ。俺に散々言われてるのに、あくまで約束を守ろうとしてくれるとは……。

 ロリコン野郎とか児ポ法野郎とか言ってゴメンな。事実だけどさ。


「いいんですよ、中村さん。こんな顔面凶器を庇わなくても?」

「顔面凶器は酷くない!?」


 やっぱり顔なのか? 男は顔なのか妹よ!?


「庇ってはいないんだけどな。でも確かに、正確に言えば、あの抱き枕カバーは俺の物ではない。実は、妹に頼まれて購入したものなんだ……」

「だーかーら、その言い訳は無理あんだろ! お前に『みく☆ミラ』好きの妹がいるってのは信じてやるけどな……だからって、どこの世界に魔法少女のエロい抱き枕カバーを兄貴に頼む妹がいんだよ!?」


 バレバレな言い訳はやめてくれ。お前の嘘がバレると、回り回って俺の嘘もバレるだろうが!


「なーんだ。妹さんのかぁ~。心配して損した」

「って、おぉーーーーーーい。信じるのか、妹よ!?」


 何でそんな与太話にあっさりと……。


「ちょっとちょっとこころさん? 今の中村の話、信じるの? あのエロい抱き枕カバーを中村の妹が欲しがってたって、有り得ないだろ?」

「だって中村さん、生徒会長だし嘘つかないでしょ」


 何、その生徒会長への無条件の信頼は!

 もしかして俺の妹って実はアホの子だったの? 生徒会長って立派な肩書を相手にすると、アホの子は判断力が無くなっちゃうの!? 


「それにあの抱き枕カバー、確かにちょっとエッチだったけど、結構可愛いかったし。実はあたしもちょっといいなって思ってたんだよね」


 うそ、まさかあの芸術に、こころが理解を示してくれるとは……。

 だったら嘘なんて吐く必要ないんじゃね? 堂々と俺の趣味だって言っても、受け入れてくれるんじゃね?


「あ、でもお兄ちゃんが持ってるのはNGね。メッチャ引く。女の子が持ってるのは良いけど」

「何、その理屈!?」


 あっぶねー。あと少しでぶっちゃける所だった。お兄ちゃん大自爆かますところだったよ。


「ていうかお兄ちゃん、今わたし中村さんと話してるんだから邪魔しないでよ」


 そう言ってこころがしっしと俺を遠ざけようとする。

 もう、泣いてもいいかな。

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