第49話 幕間2 ――異文化交流――

「結局のところ、我々天界の大ポカが原因だったんですよ。アビスの使徒が現れた時、軍部は見た目が気持ち悪いって理由だけで先制攻撃を行った。結果、アビスの使徒は〝戦闘行為〟を我々の〝コミュニケーション手段〟なのだと勘違いしてしまった」


『アビスの使徒の戦闘行為は、あくまで我々の真似をしただけだとキミは言うのかね?』


「何度もそう言ってるじゃないですか。でないと、一連のアビスの使徒の行動に説明がつかないし、そうであるならば色々と納得が行くことが多いでしょ」


 アビスの使徒の生物としての強度は尋常ならざるモノだった。我々の攻撃など、じゃれ合いにしか感じなかったとしても不思議ではない。


「異界の扉の先に広がっていた魔法少女たちの記憶だってそうです。あの風景はアビスの使徒が、自分たちと〝戦いというコミュニケーション〟を取ってくれた魔法少女を理解しようとして作り上げたモノなんですよ」


『だからと言って、相手の生命活動を停止させるまで続けるコミュニケーションなんてあるはずが――』


「それって、我々の生まれたこの世界の常識に過ぎないですよね。まず、アビスの使徒に生命という概念があるのかすら分かっていない。なのに、生きるとか死ぬとかを彼らに押し付けること自体がナンセンスですよ」


『そんな無茶苦茶の理屈が……』


「実際、杉田と中村の歌を聞いたアビスの使徒は、その後、一切の戦闘行為を止めました。あれは戦闘行動以外にも人類にはコミュニケーションの手段があると、彼らが理解したからこその結果ですよ」


『俄かには信じられないな……』


「そうですか? ボクは最初からこの可能性を示唆していましたけどね。報告書も挙げていますよ。ま、どこかで握り潰されたのかも知れませんけど、それも調べればすぐ分かるでしょ」


『…………』


 だんまりか……。

 どうせ当時の責任者はもう居ないのだから、義理立てする必要もないだろうに。


 結局、この話のオチは──

『せっかちな馬鹿共が異文化交流に失敗した』というだけのことだったのだ。


 アビスの使徒はボク達や、人間に興味を抱き、理解しようとしてくれた。

 だが、その気持ちに先に矛を向けたのはボク達だった。

 何も知らないアビスの使徒は、ただボク達の行動を真似しただけ。


 子が初めて出会う他者である母の真似をする事と何ら変わらない。

 ただの自然の摂理に過ぎない。


 確かにそれは最悪な行き違いだった。

 けれど認識という点で、絶望的にボク達と異なる存在であるアビスの使徒に対して『お前ら空気読めよ』と要求するのは無理な相談だろう。


 だって、人の心とは、昨日今日やって来た新参者に簡単に理解できるほど易しい作りはしていないのだから。

 けど、複雑だからこそ、難解だからこそ、アビスの使徒は人の心に惹かれ、理解しようとしたのかもしれない。


「――なんてね。らしくないポエミーなこと言ってるなぁ、ボク」


『オノディン君、急にどうしたのかね?』 


「いえいえ、独り言ですよ。――じゃ、報告もこれで終わりってことで……今日の午後からしばらく有給取ってるんで、もう行っていいですかね?」


『な、オノディン管理官、こんな時にどこへ行くと言うんだね?』


「そりゃ、こんな時だからこそ人間界に行くんですよ。だって、魔法少女の大団円にマスコットが居なかったら格好つかないでしょ?」

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