第21話

番外編・大学生編





1.




 「ただいま〜」

 「あ、おかえり〜あかり」


 高校を卒業後僕とあかりは大学に入学してから二年経過した。大学進学を機に父さんとあかりのお母さんは今のままでは狭いだろうとのことで少し広い部屋をお互いにお金を出し合って契約してくれた。とはいえ僕はそこまでしなくてもと渋っていたのだけれど、葵も父さんも、


 「部屋を行き来する方が時間の無駄だろう(でしょう)?」


 とのことで僕が結局のところ折れ、部屋を取ってもらった。大学にも程よく近い物件だしあかりはあかりで、


 「ずっと二人っきりだしすごい嬉しい!」


 なんてウキウキしていたな。そんなことがありながらも疲れた様子のあかりをキッチンから眺める。


 「あかり、お風呂沸いてるから入っといで」

 「じゃあ先にそうしようかな〜きょーやも一緒に入ろ〜」

 「ぼ、僕は今晩御飯の支度してるから大丈夫」

 「え〜じゃあ終わるまで待つー」

 「……そんなに一緒に入りたいの?」

 「うんっ!」


 いや、うんっ!じゃないよ。いくら付き合ってるからといって混浴は流石にまずいでしょうに。特に僕の心が保たない。


 「……はぁ、まったくもう」


 とはいえ、彼女の我儘を聞いてしまうのが僕なのだけれど。


 「それでそれで? なにつくってるの〜?」

 「今日は豆腐を使ったハンバーグと五目ご飯、松茸のお吸い物だよ。お吸い物に関しては松茸は高価な代物だからコレだけど」


 棚から某松茸のお吸い物のパックを取り出す。お湯に関しては電気ケトルをいつでも沸かせれるようにセットはしているからあとはボタンを押すだけ。ご飯に関してはもうそろそろ炊き上がるだろう。あとは豆腐ハンバーグだけだ。


 「ふぉぉ……美味しそうだねぇ」

 「あっはは。豆腐ハンバーグのタネ、一緒に作る?」

 「良いの?」

 「うん。良いよ。手、洗ってね」

 「は〜い」


 側に来ていたあかりは袖捲りして髪を結い手を洗う。


 「じゃあ、これ。この分取れば丁度いいよ」

 「んっ」


 掌サイズで手に取り形を整えてから空気を抜くために両手の間でぺちぺちと繰り返す。クッキングシートの上に乗せてから上面の真ん中に窪みを軽くつける。そうした方が旨みもあって良いらしい。そうこうしているうちに炊飯器がピーピーと音を鳴らす。


 「あっ、ご飯炊けたね」

 「うん。だけど出来てから少しは蒸らしておくからそのままで良いよ」

 「わかった〜。ねね、作ってるとこ横で見ててい?」

 「ん、良いよ。油はねとか気をつけてね」

 「は〜い」


 IHコンロの電源を入れ、中くらいの大きさのフライパンを置き、その中に多少の味付けとしてサラダ油ではなく、ごま油を少量垂らす。フライパンを円を描くように傾け全体に馴染ませてから先程作った豆腐ハンバーグのタネを一つずつ置いていく。じゅう〜と程よく焼ける音が響く。のと同時に焼ける匂いが広がる。


 「うわ、お腹空いてきたよ」

 「うん、僕も。あ、電気ケトルの電源いれてくれる?」

 「ん、いーよー。あい、つけたよー」

 「ありがと」


 フライ返しで片面が焼けているかの確認をし、焼けていればひっくり返す。どうやら片面はしっかり焼けているようで良かった。一先ずは安心かな。それから暫くして豆腐ハンバーグを作り終えた。お皿に盛り、テーブルに持って行く。


 「お味噌汁とご飯も美味しそうだね〜」

 「お吸い物はまぁ、美味しいと思うけれど炊き込みご飯は口に合うと良いな」

 「それじゃあ食べよっか」

 「うん」


 向かい合わせで座り、手を合わせて食べて行く。


 「あ、おいひ〜!」

 「口にあって何よりだよ」


 ほわっとした顔で頬張っているあかりの顔を見て味が合って良かったと安心する。それなりに彼女の趣味嗜好は理解しているから味の調整は出来るけど難しいところだ。



 『入ってい〜い?』


 ご飯を食べた後、あかりの「一緒に入ろ〜」というお願いをやはり断り切れず先に僕がお風呂場に入っている。


 「良いよ」

 「は〜い」


 僕の掛け声でカララと引き戸を開け中に入ってくる。既に何度もあかりの裸を見ているとはいえ混浴はあまりしない。椅子に座りながらも顔を伏せる。後ろでしゃがむ気配を感じたと思ったら背中に柔らかな感触と少し硬い感触を感じる。


 「ぅえっ!? ちょ、タオルは!?」


 その感触に驚きつい前方の鏡を見る。鏡越しに彼女と目が合う。


 「だってたまーにシてるしいっかなぁって」

 「い、いやそれはそうだけど……さ、流石に混浴でそれは恥ずかしい……」

 「あ〜、きょーやってばえっち〜」


 にぃ〜と揶揄うような顔をしつつ密着してくる。あぁ、わかってる。わかってるさ。あかりの言うとおり今までにも何回か行為をしている。けれどそれとこれは別じゃないか。


 「あはっ、顔真っ赤だよ〜。うりうり〜」

 「や、やめ……」


 サッと顔を下げるも頬をツンツンと揶揄いながらやるあかり。


 「ふふっ。じゃあ、頭洗うね?」

 「………う、うん。お願い」


 それから暫くあかりに洗われるのを受ける。


 「……ね、きょーや」

 「いや……こ、これは………」


 今の今まで背中に当てられた胸の柔らかさやお湯で濡れた肢体に意識しないようにしていたけれど反応してしまうものだろう。


 「……だ、大丈夫。その……あ、あとは僕がやるから」

 「でも、辛いでしょ?」

 「え゛っ……あ……いや……が、我慢出来るから」


 正直このままいたら僕の理性が保たない。シャワーを手に取りボディーソープを洗い流してそそくさと湯船に浸かる。混浴はほんとに目に毒すぎる。


 「ふふっ。も〜きょーやってば」


 僕の様子にクスッと微笑んでいて、僕はわざと目を合わせないように壁に顔を向ける。


 「湯船はいるよ〜」

 「う、うん」


 壁側に身体を向ける。流石に今の状態で抱き寄せるような形は拙いと思ったからだ。


 「え〜そのままでも良かったのに」

 「た、だめ」

 「だめか〜」

 「ん」

 「じゃあ、しょうがないにゃ〜……よいしょっと」

 「えっ!? あ、ちょっ! それは予想外なんだけど!?」


 なんと背中合わせじゃなくて僕を抱き締める形で入ってきたのだ。


 「んっふふ。ね、きょーや」

 「……ぅ…な、なに?」


 耳許で話されるとどうあれドキッとする。アレからスる時は耳を攻められることが多い。


 「ん……ふふっ、お耳真っ赤〜。ほんときょーやってココ弱いね」

 「し、仕方ないでしょ……普段そんなふうなことされた事ないんだから……」

 「ね、お風呂上がったらベッド行こ?」


 これは単純にがしたい合図みたいなものだ。本当はするつもりはなかったけれど、お風呂の熱気とは違う熱の籠った吐息と共に発せられる途轍もなく甘く、蕩けた声は僕の心を奪い去るには十分すぎた。


 「……………」

 「ふふっ。ん、わかった♡」


 だから僕は頷くことしかできなかった。あかりはただ耳許で「先、上がってるね」と甘く囁き、お風呂場を出て行く。


 「………………っ、はぁ〜………こんなの保ちそうにないって」


 お風呂場に残った僕はただただ長い溜息を吐いてそう独り言ちるのだった。








 翌朝、二日ぶりに大学に行く。というのも僕が取ってる授業が昨日は講師の人が用事が入ったため休講だったのだ。それ以外はリモートでも受けれる為基本外に出ることは少なく、出るとしてもバイトと買い物くらいだろうか。


 「あ、キスマーク付いてる」

 「……強く噛みすぎだよあかり」

 「にゃはは、ごめん」

 「まぁ、これくらいはネックシャツ着れば隠れるし良いけどね」

 「え〜隠しちゃうの〜?」

 「当たり前でしょ。もう」


 サッと服を着替えてから朝ご飯を済ませて家を出る……前に玄関のノブに手を当てた時に後ろから肘をくいっと引かれ振り向く。


 「ん……ちゅ……えへへ、おはようのちゅーまだしてないでしょ?」

 「………き、急に来るのは禁止」

 「んふふ、はぁい」


 ほんとにあかりと暮らすようになってからはあかりに何かを握られているかもしれないと思うことがある。今だってそうだ。まぁ、それもまた彼女なりの愛情表現というのは分かっているから僕も僕で拒めないけれど。


 「行こっか」

 「うん。行ってきます」

 「行ってきま〜す」


 

 大学に行ってもやることは変わらない。授業を受けて無い授業の場合は図書室か学食の一席で出された課題やレポートに四苦八苦する。サークルはめんどいから入ってない。


 「きょーや〜」


 昼。学食でレポートが進むことが無いからパソコンを開き、父さんの仕事を手伝っている最中に隣に座りテーブルに突っ伏すあかりに目を向ける。


 「もうお昼なんだね。お疲れ様あかり」

 「う〜ほんとだよぉ〜」


 人前では家でやってるようないちゃつきは控えているけれど見るからに憔悴しているあかりに労いを込めて頭を撫でる。


 「何食べよっか。お腹空いたでしょ」

 「ん。食べる。じゃあ私は今日はえーとあれ。あの〜……ほら、お魚の定食」

 「んーと……秋刀魚……かな?」

 「あっ、それ!」

 「おっけー。じゃあ食券買ってくるね」

 「あーい」


 パソコンを閉じて席を立ち券売機に向かう。僕は……ちょっとまだお腹空いてないし消化のいい讃岐うどんにしよう。そうして買ってからすぐに気づく。讃岐うどんの麺が大盛りだということに。


 「………まぁ、大丈夫でしょ」


 お盆に箸を乗せ券売機で買った券を僕のとあかりのを渡す。乗せられたお盆を片手に持ちながら元の場所に戻る。


 「はい、あかり」

 「わ、ありがと〜!」


 そして食べ始めてから後悔した。うどんの大盛りは舐めたらダメだと。麺がコシがあり、太くもっちりとした食感だからだ。


 (あ、これ食い切れるかな)


 食べ進めて行くうちにほぼ無心で食べるしかなかった。勿論、食べ終えた後はめっちゃ眠かった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る