第24話

番外編・葵の恋編





1.




 結婚式を挙げてから三日後のことだった。葵が話がしたいとのことだから二人してなんだろ?と顔を見合わせた。


 「あ、あのですね兄さん、片……いえ義姉さん……私……好きな人がいるんです」

 「えっ、ほんと!?」

 「あ〜まぁ、そうだろうなと思ってた」


 葵はカップを手にもじもじとしながら話を切り出す。あかりは葵の好きな人いる宣言に驚くけれど、僕は気付いていた素振りで頷く。


 「え……に、兄さん知ってたんですか?」

 「うん。見当はついてるよ」

 「え〜だれだろ」

 「あかりも知ってる……というか顔馴染みの人だよ。そうだよね葵」

 「は、はい。兄さんのお気付きの通りです」

 「ほぇ? 私も知ってる人……って……あっ!」


 あかりは暫くきょとんとしていたけれど思い至ったのか声を上げて僕を見る。僕は頷く。


 「前田くんだよ。葵の好きな人」

 「まぁ〜……あの人も隅に置けない人だね〜」

 「えっと………いつから気付いてたんですか?」

 「え、だいぶ昔からかな。確信なかったけど多分そうじゃないかな〜って」

 「兄さんは本当にすごいですね」

 「いや……別にすごくはないけど……えっと、それで? その好きな人がいるっていうのはわかったけど何かあったの?」


 カップにおかわりの珈琲を入れながら聞くと葵は顔を俯かせて少し沈黙を保っていたけれどやがて顔を上げておずおずと口を開ける。


 「前田先輩とその……お、おでかけをしたいんですが………こ、こっくはく、って……まだしない方良いですか?」


 声が裏返りながらも一生懸命に要件を伝える姿に微笑みを浮かべる。


 「いつデートするの?」

 「でっ!? ……えとその………明後日の日曜日にお約束を」

 「えっ三日後じゃん!」

 「だいぶ早いねぇ……そっかぁ。葵も気持ちを伝えようとしてるんだね」


 いちいち過剰な反応を見せる葵に僕がいうのもなんだけれど成長したなぁと感慨深くなる。


 「え? も? もって言いました?」


 僕の言葉に身を乗り出すように聞き返す。僕は素直に頷く。


 「実は僕、相談されてるんだよね。前田くんもそういうところデリケートなんだなぁって思ったよね」

 「あ、それじゃあさきょーや、葵ちゃん」


 あかりの提案でとあることをすることになった。二人に幸あれって思うね。





🤍




 「えっと……き、今日はよろしくお願いします前田先輩」


 義姉さんの提案で少し離れたところで兄さんたちもデートをしています。私もまた初めてではありませんが、何処となく緊張します。


 「お、おう。行くか」

 「は、はい」


 前田先輩も緊張している感じがします。ですが私の歩幅に合わせてくださるところ本当に紳士でとても優しい方です。


 「……そういえば何か買いたいって言ってたけど何買うとか決めてるのか?」

 「その……服を買いたいなと思ってまして」

 「あ〜服か。ジャンルはどんなやつなんだ?」

 「ま、前田先輩が……選んでくれませんか?」

 「……………え?」




 服屋さんのところに来ましたが、いつも着物を着ているのでどのような服が今の流行りなのかとかわかりませんね。


 「あ、これとか良いんじゃねぇかな」

 「こちらですか?」


 前田先輩が一着の服を手に取って私に渡してきました。その服はフリルが少し多い白い長袖ワンピースでした。


 「似合って……ますでしょうか?」


 自分の身体の前で合わせてみる。前田先輩の方に目を向けて首を傾げる。


 「試着してみたらどうだ? ま、似合ってるけどな」

 「そうしてみますね」


 長袖ワンピースを手に試着室に入る。ハンガーラックに掛けて、義姉さんからコーディネートして頂いた服を脱いでワンピースを着る。


 「き、着てみました。似合ってるでしょうか」


 カーテンを開けて軽くポージングする。


 「おぉ……やっぱり似合ってるな」


 前田先輩が大きく頷きながら言ってくるのでお世辞ではないことはわかりました。ですが手放しで褒められるというのはあまり慣れませんね。少し……恥ずかしいです。


 「で、ではコレ買いますね」

 「あ、俺が買うよ」

 「え……でも」

 「俺に買わせてくれ葵ちゃん」

 「わ、わかりました」


 結局、このワンピースもその後も前田先輩が率先して出してくださいました。半分支払おうと思っても良いからとサッと払ってしまうため少しだけ申し訳なさが勝ってしまいます。


 「なぁ、葵ちゃん」

 「…? はいなんでしょう?」


 帰り道。名前を呼ばれふと立ち止まり見上げます。私を見つめる目がいつになく切り詰めたような真剣な目をしていました。そこまで疎い私ではありません。前田先輩が何を言いたいのか自ずとわかってしまい、知らずのうちにドキッと胸が高鳴ってしまいます。


 「前からな……言いたかったことあるんだ」

 「えと……はい。それは私も……」


 一度だけ目を横に逸らします。すると目の前が少しだけ暗くなりました。えっ?と思い目線を戻したら前田先輩の顔が近くにあり驚きで前田先輩の顔を凝視してしまいます。これは……もしかしなくてもされてしまうのでしょうか?そう思ってしまうと身体が強張ってしまいます。


 それは何故?


 それは────それは……あぁ、私は────。


 『好きなんだ(です)』

 「え?」

 「えっ?」


 私も前田先輩も訳がわからないといったような顔で見つめ合います。何故なら、言葉が同じだったから。少ししてから二人して笑い合います。


 「はー……まさか被っちまうとはなぁ」

 「ふふっ、そうですね」

 「なぁ、もう一回言って良いか?」

 「……はい。聞かせてください」

 「ん゛んっ……あー、えっとな。葵ちゃん。俺はお前が好きだ。きっかけは〜……まぁ、気付いたら好きになってた。恭弥程立派な人間じゃないけどさ……でも、葵ちゃんを幸せにしたいんだ。だから────」


 軽く咳払いをしてから再度私をしっかり見つめ少しだけしどろもどろになりながらも告白してくれる前田先輩を私は見つめ返します。きっと義姉さんもこんな気持ちだったんでしょう。兄さんもこんなにドキドキしたんでしょう。好きな人から好意を伝えられるなんてとても幸せなことだと思うから。


 「──────付き合って欲しい。結婚を前提に」


 私は一度目を伏せ、息を吸ってから再度目を合わせます。その時ふわりと風が舞いました。この風に私の言葉を乗せ届かせるように。私の答えは──────。



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