第15話




 伏見稲荷大社を後にした僕たちは京都駅に戻り、そこから今度は映画村までバスで向かう。受け付けで入場料を払い、中に入る。


 「おぉ……すげぇ広いな」

 「……何その微妙な言葉」

 「い、いや……あんま言葉出てこなくてさ」


 はは、と苦笑する前田くんを肩を竦めながら見る。


 「売店で何か買ってから行く?」


 目の前の売店に手を向けつつ四人に目を向ける。


 「なにあるんだろ〜」

 「みた感じお面とか木刀みたいだね」

 「お、じゃあ木刀買わね?」

 「え、ダメじゃね? 買って良いん?」

 「う〜ん……どうなんだろうね」


 前田くんの言葉に苦笑してスマホを取り出す。


 「先生に確認してみるよ」

 『おー、嶋山か?』

 「はい、嶋山です」


 慣れた素振りでタップし、耳に当てる。


 『どうしたんだ? 何か問題あったか?』

 「いえ、何もないんですが質問がありまして」


 さっき話していた木刀云々を話す。すると先生は電話口でクツクツと笑う声が聞こえる。


 『やっぱお前もちゃんと男子してて安心したよ』

 「え、どういうことですかそれ」

 『いやなに、そういうの買いたくなるんだなってな』

 「いや、僕は別に…」

 『お前は変わったよ嶋山。声で楽しんでるの分かってるからな。お前の悔いのないようしろよ。あ、木刀買っても文句は言わん。そんじゃあな』


 言うだけ言って切りやがった。耳から離しスマホを睨み、溜息を吐いてからスマホをしまう。


 「どうだったんだ?」


 前田くんの言葉に僕は肩を竦めながら頷く。


 「別に良いらしいよ。先生は気にしないってさ」

 「ほー。じゃあ買いに行こうぜ」

 「じゃあ、ウチらお面でも買う?」

 「あ、いーねー! 嶋山くんはどする?」

 「……じゃあ僕はお面と木刀を買うよ」


 全然に見透かされた感じがなんとも気色悪いが楽しんでるのは事実。沙美さんの言葉に少し考えた後にそう答える。




 お土産も買いつつ奥へと進み、時代劇などの撮影にも使われているという場所へ入る。


 「おわ〜! すっご〜い! ねぇねぇ! きょーや! テレビで見たことあるようなの多いね!」

 「そうだねぇ……壮大なセットだね」


 腕をぐいぐい引かれながらも昔の街並みの造りを目に納めつつ進んでいく。


 「あぁ、そういえば、衣装の貸し出しもあるみたいだよ。やってみる? 皆」


 空いている手でマップを見つつそう言う。どうやら着物を着たりなどのなりきりと言った方がいいだろうか。そういったことも体験できるようだ。


 「え、やってみたーい! どこでできるの?」

 「お、てことはあーちゃんの着物姿が見れるってことかにゃ?」

 「え〜、りなっちもしようよ〜」


 話をするのは良いけれど、僕の腕を引っ張りながらするのはやめておくれ。腕が取れそうだよ?などとは言えるわけでもなくというか、言うわけでもない。


 「前田くんもやってみる?」

 「んー……まぁ、お前がやるんならやってみっかな」

 「じゃあ決まりだね。こっちみたいだよ」


 皆を引き連れ、なりきりが出来る場所に向かう。着いた後に人数分の体験料をそれぞれ払い、女性陣は着物を。僕と前田くんは着物に先程買った木刀を帯に提げる。


 「おぉ〜! すごい似合ってるよ〜きょーや、前田くん」

 「そうか? ありがとな」

 「そう? それなら良かった」

 「お二人さん似合ってますな〜。それでウチらはどうなのかね〜?」

 「ほらほら〜」


 沙美さんは淡い赤色の着物になんの花なのかは分からないがその花が散りばめられた着物。梨奈さんは鮮やかな黄色っぽい色にこちらは……向日葵……だろうか。二人のらしさが出ていてとても似合っている。あかりは落ち着いた色合いの着物で、藍色と言えば良いだろう。意外といえば意外なのだが、髪色と相まって大人っぽくてとても似合っている。


 「すごい似合ってる。沙美さんも梨奈さんもきみたちらしいって感じであかりは大人っぽくてとっても良い」

 「めっちゃ良いじゃん」

 「あっは、前田くんざっつ〜。でもありがと二人とも」

 「良かったね、あーちゃん」

 「うんっ! えへへ、ありがときょーや、前田くん」


 ほにゃっとした笑みを浮かべる姿を見ると唐突にあかりらしさが出てその姿に僕は微笑む。


 「ここの時代劇セットの中でならこの格好で歩けるみたいだし、散策しようか」


 その後は只管散策した。一周した後に着替えたが、全員着物であの街並みの中を出歩くだけでその時代に来たような感覚がするほど楽しかった。売店の方へ戻ると二階に上がるエスカレーターを見つけ、上がる。特撮コーナーは僕はあまり分からないが前田くんはテンションが上がっていたからやっぱり楽しい場所なのだろう。


 「はぁ〜楽しかったな〜」


 結構時間を映画村で費やし、外に出れば空が赤くなっていた。


 「もう戻る?」

 「ん〜……うん。時間的にもそろそろだろうし」

 「おっけ〜。あしたはどする〜?」

 「あ、それならさ」


 明日の自由行動を話しながら旅館へと帰還する。不思議な体験もしつつ、二日目の京都散策を終えたけれど、とても楽しかった。


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