第14話
翌日、僕以外の誰かが設定したアラームの音で目を覚まし、時間はまだあるため目覚ましと寝汗を流すために大浴場に向かう。僕と考えが同じ人がいるのか、大浴場に来たのは僕だけではなかったけれど朝湯はとても良かった。
「やべぇくらいぐっすり寝たな〜」
「設定してくれてた目覚ましで起きれたしね」
班行動をするにあたり、そのまま旅館から行動を開始する班はそこからスタートし、京都駅を始点として動く班は京都駅まで送迎してもらった。僕たちはそっちだ。
「バス停ってこっちだよね?」
「うん。待ってれば来ると思うよ」
「楽しみだね〜」
「初めての京都だしね」
「お? アレじゃねぇか?」
「あ、そうみたいだね。先生から渡されたこれ見せれば大丈夫みたいだから降りるときは忘れないようにね皆」
「は〜い」
「おう」
「りょ〜か〜い」
「ういー」
返事軽いなぁ皆。四者四様の反応を見つつ、バスターミナルの銀閣寺行きのバス停で待っているとバスが停車し、乗車券を取りつつ乗り込む。ボックス席が空いていて僕とあかり、沙美さんと梨奈さんと前田くんで座る。三人の方が狭くないかなと思うけれど沙美さんたちは華奢だし、問題はないみたいだ。
「えーと……どこで降りるんだっけ?」
「五条坂っていうバス停だね。そこから少し歩いて向かう感じかな」
「歩いてどのくらいなん?」
「身を乗り出すのは危ないよ沙美さん」
「にっひひ、ごめんごめん」
「まぁ良いけれどね。っと、五条坂で下車したら10分歩いて清水寺だね」
「意外と近いんだな」
「みたいだね」
「あ、ねぇねぇ。写真撮らない?」
「お、いーねーさっちん」
「てわけで、カメラ頼んだよん嶋山くん」
「あ、僕が撮るのね」
他の乗客たちに迷惑にならないよう配慮しつつ記念写真として一枚撮る。それから程なくして五条坂に着き、下車して来る前に確認した地図を思い浮かべながら清水寺へと向かう。
「ほぁ〜おっきいねぇ〜」
「写真で見るのと大分違うよねこれ」
「寺舐めてたわ」
「いや〜圧巻ですな」
「すげぇな」
僕含め皆して語彙力が低下した会話をして眺める。清水寺に入る前に参拝量を支払い、清水寺がパッケージされたチケットを皆貰い、それを手にしながら入る。
「あ、左側が地主神社みたいだね」
「あ、ほんとだ〜」
「結構煌びやかだな」
「御利益ある神社だしね。それじゃあ、清水寺見てまわろうか」
全員頷き、ゆったりとした足取りで周りを見ながら参拝する。
「あ、これ七福神だよね」
「なんて名前だったっけな」
「大黒天様だね」
「さっすがきょーや。詳しいんだね」
「そこまで詳しくないよ。ただ名前を知ってるだけ。あぁ、因みになんだけど、七福神は大黒天様、蛭子様、毘沙門天様、寿老人様、福禄寿様、弁財天様、布袋様の七柱で宝船っていう大きな船でやってくるとても縁起のいい神様なんだ」
以前読んだ本で得たものをスラスラと言う。
「蛭子さんはそれなりに知ってたけど他のそんな名前がいたんだな」
「まぁ、メジャーで知られてるのは蛭子様が多いよね。確か、お酒のパッケージになってるんだっけ? 僕はお酒はあんまり知らない……っていうか父さんが呑まない人だから分からないな」
「でも、きょーやってすごいね」
「え、そう?」
「うんっ。きょーやが話してくれるの全部好きだからもっと聞きたいな〜」
おだてられてる? と思ってしまうけれどあかりは純粋に思って言っていることが分かっているため覚えている範囲で答える。
「確か……大黒天様が祀られているお寺さんは清水寺の他にも長谷寺っていうお寺さんにもあるんだったかな。そのお寺さんも清水寺と似たような作りで実際、清水寺で起きた事と同じことが長谷寺でも起こったとか」
スマホを取り出し、大黒天様に心の中で撮らせてもらう旨を念じつつ写真に収めつつ観覧の方に向かう。
「え、じゃああのなんだっけ……ほらあるじゃん?」
「あぁ、なんかあったな。テレビでたまーに聞くけど忘れたな」
「清水から跳び降りる……だったっけかな。言葉通りの意味で、覚悟を決めて物事に努めるみたいな感じだったはずだね」
「そうそれ! さっすが〜」
梨奈さんが感心するような声を上げつつぽんぽんと肩を叩いてくる。
「そんな慣用句の背景として、昔には良くこの清水寺が建立して以降、その飛び降りが頻繁に起こっていたらしいね。そういった方たちを供養するのも込めて大黒天様だとかを祀ったのかな? まぁ、詳しくは知らないからあまり下手なことは言えないんだけどね」
苦笑しつつ、観覧から見える景色を写真に撮る。
「ひょえ〜、めっちゃたっかいよ!」
「わ、ほんとだ! あーちゃんも見てみなよ!」
「え〜私はいいよ〜……怖いし」
あかりの呟きはしっかりと聞き取れた。僕はスマホをしまいつつ清水寺に関することを言う。
「ここ清水寺は北法相宗っていう宗派? があるだけれどそれの総本山で御本尊は十一面千手観世音菩薩様で……ほら、あれ。あの大きな銅像が十一面千手観世音菩薩様なんだよ」
後ろを向き、丁度正面に見える銅像に手を向ける。指を指すのは失礼に値するからだ。そのまま銅像前まで向かう。
「おぉ……凄いな」
「更に言うとここ清水寺は音羽山という山に建立されたことから音羽山清水寺という正式名でもとは法相宗に属してたけれど独立して北法相宗って名乗ってるんだって」
横で十一面千手観世音菩薩様の銅像に圧巻している前田くんを横目にそう続け、一度手を合わせ拝む。僕の行動に気づいた四人はそれに倣い、同じように手を合わせる。
「さ、それじゃあ今度は地主神社に行こうか」
数十秒ほど経ってから拝むのをやめ、清水寺を後にする。
「なぁ、恭弥」
「うん? なに、前田くん」
「地主神社って一体どういう神社なんだ? 縁結びの神社ってのは聞いてたけどよ」
「あ〜それはね」
前田くんの言葉に合点が行き、覚えている範囲で頭の中の抽斗から出していく。
「地主神社は神社やお寺が建立する際にその建てる場所に由縁のある神様を祀るために建てるんだ。そういった土地に由縁ある神様を地主神って言われてるね。それで地主神社はそういった時に建てる神社やお寺の隣や敷地内に建てることが多いんだ。ここ地主神社が顕著だね」
「な、なるほど?」
「だから、祀られてる神様は色々なんだよ」
「色々? それっていっぱいいるってこと?」
「そう。主祭神は
階段を上がり、境内へと入る。
「あ、あの石見たことある〜!」
あかりがふと指差しながら言う。
「あぁ、あれは地主神社の名物だね」
「あ、ウチも聞いたことあるよ〜。確か向こうの石にタッチ出来たら恋が叶うとか」
「そんなんあるんだな」
「あれ、前田くん聞いたことないん?」
「そーいうのにはあんま興味なかったからなぁ」
観光客でごった返しつつも僕たちは離れないよう気をつけつつ進む。
「説明するとこの恋占いの石っていうのは縄文時代の祭祀遺物で、梨奈さんの言ったように向こうの石とこっちの石が10メートルあるんだけど、目を瞑った状態で歩いて行って、向こうの石に辿り着けたら叶うっていうのがこの恋占いの石だね」
そっとその石に触れつつ説明し、四人に顔を向け、「やってみる?」と聞くと意外にも興味がないと言っていた前田くんがやってみたいという反応で正直僕は驚いた。
「それ聞いたらよ、やってみてぇなって」
「チャレンジャーだね。わかった。それじゃあただ目を閉じて行くのも面白くないし、ゆっくり三回身体回すから、それから歩いてみて」
「恭弥も乗り気じゃねぇか」
「僕はやらないよ。現にこうしてあかりと付き合えてるし、恋は叶ってると言っても良いと思うよ。それにさ」
「ほえ? どしたの?」
あかりに目を向けると僕の視線に首を傾げる彼女に微笑みを向ける。
「神頼みをするときはどうにでもならなくなったときだって僕なりに決めてるからさ」
ぽんと傾げた頭を撫でる。瞬間、相好を崩すあかりにこれ以上ないほど胸が苦しくなる。人前じゃなかったら抱き締めてたな。
「ま、恭弥はそうだろうなと思ったよ。そんじゃ、やってみるかー」
「あ、渡るときは心の中で想い人がいるなら思い浮かべた方良いよ」
「おう」
前田くんは目を閉じて、僕と沙美さんと梨奈さんでくるくると三回回す。正面に向き直った時に前田くんの肩をぽんっと軽く叩き、「いってらっしゃい」と促す。ゆっくりとした足取りで前田くんが進んでいく。少し後ろから見守りながら跡を追う。途中で転びそうになってもカバー出来る様にするためだ。始めてから数分は経過しただろう。前田くんは徐ろに目を開く。
「こ、これ……ゴールってことで良いよな?」
全身を小刻みに震わせながら見つめてくる前田くんは小型犬のように見えた……というのは言わない方がいいだろう。
「うん。ゴールおめでとう」
「やったね! 前田くん!」
「おめ〜!」
「おめでとう〜」
「お、おぉ……嬉しいなこれは」
「僕たちは何もしてないからね。単純に前田くんの実力でゴールしたからとても喜ばしいよ僕も」
照れ笑いを浮かべる前田くんとハイタッチをする。
「ね、ねぇきょーや」
制服の左袖を引かれ、目を向ける。
「もしかしてやってみたい?」
あかりの目線でそう思い聞くと頷いた。
「じゃあやってみよっか。僕もやるから手を繋いでやってみよう」
「え、いいの?」
「まぁ……ゴールできなかった時はその時はその時で考えれば良いしね」
「んっ! わかった」
結果はというと勿論ゴール出来た。前田くんたちに聞くとどうやら僕の歩みが澱みなく歩いていたそうだけれど、僕は目を閉じていたし、摺り足で行っていたと思うからそこまで澱みないかといったら首を傾げる他ない。
その後、籤を引いたり御守りを買った後に清水寺…基、音羽山を後にする。京都駅に戻り、そこからJR稲荷駅行きの電車に乗車する。丁度空いていたから全員座ることが出来てよかった。
「おわ〜……おっきいねこれ」
稲荷駅に着き、外に出れば道路を挟んだ向こうに大きな鳥居がある。文字通りすぐ目の前に伏見稲荷大社があるのだ。
「見上げるぐらい大きい鳥居って中々見たことないよね」
そう言いつつ僕はその鳥居を写真に収める。
「あ、そうだ。鳥居をくぐる時は真ん中を通るのはあまりお勧めしないよ」
「そりゃあなんでだ?」
四人の目線を一度に集めながらも鳥居の先を見つめながら続ける。
「なんでも、鳥居をくぐるのは人間だけじゃなく、神様も通るみたいなんだ。それで、その通る神様や祀られている神様の失礼にならないように真ん中を避けて通るのがマナーらしいよ」
「ほへぇ、そうなんだね〜」
「初めて知ったかもそれ」
そう話しつつ僕たちはその大きな鳥居をくぐる。足を踏み入れ、中に入れば少し違和感を感じた。入った瞬間に僕は歩みを止めて鳥居の外を見る。
「ん? どうしたん? 嶋山くん」
「きょーや?」
「恭弥?」
「恭弥くん?」
四人はそんな僕を訝しむように見つめる。僕は慌てて首を振る。
「あ、ううん。何でもないよ。気のせいかもしれないけど、なんか入った途端に空気変わったなって思ってさ」
そう。僕が感じたのが空気が変わったことなのだ。観光客もおり、賑わっているのにそれでも尚静謐さを感じる。恐らくそれ程までに大きな存在なのかもしれない。とはいえ僕は霊感なんてのはあるのかすらもわからないけれど。
「こっから先はここ伏見稲荷大社の名物でもある千本鳥居もあるよ。といっても、周るルートは幾つかあるみたいだけど……どれで行く?」
千本鳥居を通らなくても頂上の方には行ける。するとあかりは千本鳥居の方に行きたいと言う。前田くんたちは特に何かあるわけでもなく、祭場側の方から進む。そこでまた僕は立ち止まり振り返る。気のせいのはずなのだけれど、今一瞬だけ───。
「……いや、気のせいだな」
「きょーや? どうしたの?」
「何でもない。行こ」
「う、うん」
千本鳥居を抜け薬力社まで辿り着き、思った事。
「……結構疲れるなこれ」
「あ、はは……確かにそうだね」
「はふぅ……かなり歩いたよ〜」
「ほんとそれな〜。もう足パンッパンよ」
「まさかここまでキツいとはね〜」
「思わなかったねうん」
軽い登山をしたと満場一致で疲れた。ゆったりした足取りで登ったと思ったけどゆっくり来るのが意外とクるのかもしれない。
「この後、どこ行こっか」
まだ集合の時間まで全然ある。僕たちの班で必ず周る場所はこの二箇所の神社仏閣のため、後が自由だ。
「あ、じゃあさ、映画村行ってみないか?」
「真反対な位置だねそこ。でもまぁ前田くんが選ぶ理由分かる気がするよ」
「映画村ってドラマの撮影とかしてるとこでしょ」
「あ、梨奈さん正解」
「やっりぃ〜!」
「あとはまぁ、売店もあるし、二階には特撮の展示があるらしいね」
「あ、ねぇねぇきょーや。今調べてみたらさ、こんなことできるって載ってたけどほんと?」
あかりは調べていたらしく、その情報を見せてくる。
「あ〜、どうだろ。行ってみなきゃ分かんないなそれ。良し、行ってみよう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます