第13話




 文化祭から凡そ一か月が経過し、直ぐに修学旅行が始まる。例年通り、向かう場所は今尚、日本文化が色濃く残る古都、京都。和と洋がちょうど良いバランスで折衷されているにも関わらず景観の良い観光地ともされている。三年にもなればこういった行事が少なくなる。そのため、二年は毎年この時期に修学旅行を行う。


 「取り敢えず、予定としては伏見稲荷大社は巡ることは確実として、他にも清水寺とその敷地内にある地主神社も巡るってことで良い?」


 班としてのメンツはいつものメンバーで僕、あかり、前田くん、梨奈さん、沙美さんの五人。旅行誌を見ながら予定表のメモに書き込む。


 「ねぇねぇ、きょーや。このじ……ぬし神社?って恋愛の神社なんだね」

 「うん。そうみたいだね。境内の中にはこれに載ってるようにペアセットの恋愛成就の御守りだとかが定番のお土産みたいだね」

 「けど、相当距離あるよなこのお稲荷さんとことここ」

 「あ、たしかに〜。移動はどうするの?」

 「移動は市電があるからそれを使うよ。流石に徒歩はキツすぎるしね」


 ペラペラとページを捲り、電車情報をページを見る。そして、目的地に近い駅名をそれぞれペンでマークする。


 「清水寺は最寄り駅がないから京都駅からバスを使おう。それで、清水寺を参拝した後は一度京都駅に戻ってから稲荷駅っていう伏見稲荷大社の鳥居の目の前の駅で降りる。それでどう?」


 地図のページを開いては京都駅から清水寺、京都駅から伏見稲荷大社とペン先で示しながら言い、四人に目を向ける。


 「全然良いぞ」

 「私も〜」

 「おなじく〜」

 「ん、全然おっけー」

 「良し、じゃあプランはこれで良いとして。他に皆は行きたいところとかある?」


 各班に渡される予定表に大まかではあるが二つの目的地を記入し、行き方も記入する。


 「あ、それじゃあさ」


 修学旅行に向けて学年全体の空気は浮き足だったようなそんな明るい雰囲気に包まれ、僕たちもまた例外ではなく、和気藹々と意見を出し合いながら話を進めるのだった。




⭐︎




 修学旅行当日。外観がレトロな雰囲気のする東京駅から京都駅へ電車で向かう。数時間の電車移動はそれほど苦ではなかった。隣を座るあかりのおかげだからだ。


 「ねぇねぇ、きょーや」

 「うん?どうしたの?」

 「写真撮ろ〜」

 「ふふっ、いま撮るの?」

 「うんっ。だめ?」

 「全然大丈夫だよ。僕はどうすればいい?」

 「それじゃあね〜……顔、近づけて」

 「こう?」

 「んっ、こう!」

 「笑顔出来るかあんまり自信ないけど……出来てる?」

 「出来てるよ〜。じゃあ撮るね」

 「はーい」


 肩を叩かれ、本から顔を上げればあかりが写真を撮りたいということで本を閉じ、あかりの肩に顔を寄せ少し上めに出されたあかりのスマホを見ながら笑顔を作る。インカメで撮られた二人の顔は楽しそうな顔だった。


 「ん、良い写真」

 「そっか。それは良かった」

 「あっち着いても写真撮っていい?」

 「僕は全然大丈夫だよ。思い出として残したいとか?」

 「それもあるけど……やっぱり修学旅行だし?」

 「なるほど」

 「あ、窓見てきょーや」

 「うん?」


 指を指された方に目を向ければ同学年の他クラスの人たちが声を上げながら写真を撮っていた。


 「富士山だね。手ブレ……ちょっとあるけど良いかなぁ」


 スマホで撮り、写真を確認すると若干ブレているけれど仕方ないと諦める。


 「ブレててもいいから写真ちょーだーい」

 「うん。はい」

 「ありがと〜」


 撮った写真をあかりに上げ、スマホをしまう。


 「そういえばなに読んでるの?」

 「あ、これ? これは京都を舞台にしたキャラミスっていう…まぁ、ライトミステリって言えば良いかな?とても面白いよ。多分、三条通とか通るだろうし」

 「聖地巡礼ってやつ?」

 「ま、そんな感じだね」

 「きょーやって楽しむときはとことん楽しむよね」

 「まぁ、それくらいはね。ハメを外しすぎない程度に楽しみたいと思ってるよ」

 「いっぱい楽しもうね」

 「うん」


 京都に着くまでまだ時間はある。途中で読むのをやめ、隣のあかりに着きそうになったら起こしてほしいと頼み、軽く昼寝をする。そして着く前に起こしてもらったが、あかりの肩を枕代わりにしていたようで気恥ずかしかった。何故なら、その隣の座席や前後の座席にも見られていただろうからだ。あかりは嬉しそうだったが。だが僕は人前で寝ることは極力しないようにしようと胸の中で誓ったのだった。




⭐︎




 移動で一日の大半を使ったため、初日は京都に着き、そのまま宿泊する旅館に泊まる。向かった先では夜だというのに眩しいわけではない灯りで照らされた幻想的という言葉が似合う夜の街並みだった。


 「めっちゃ壮観だな」

 「うん。広いよね。それとここお寺さんもあるみたい」

 「ほへぇ……すごいところなんだね」

 「うん。らしいよ」


 チェックインを教員が済ませているのを視界の片隅に置きつつ前田くんとあかりとそう話をする。それなりに移動をし、場所は東山だそうだ。


 「おーい、お前たち女子と男子でどっちの部屋使いたいか決めてるかー?」


 前もって決めてたんじゃないの!?


 「え、先生。先生が決めてたんじゃ…」

 「いや〜忘れてた」

 「忘れてたって……先生……」

 「悪い悪い」


 ほんとに思ってるのかそれと僕がいるクラスの担任を見つつ、それぞれの部屋を見てみる。ここはどうやら和洋室どちらもあるようだ。


 「どする?」

 「ん〜。普段ベッドだし、こういうとこは布団使ってみたいし僕は和室が良いかな」

 「あ、俺も〜」


 僕の言葉を皮切りに男子は和室を選ぶ。


 「女子たちはどっちの部屋がいい?」


 あかりたちを見ながらも聞いてみる。


 「和室〜」

 「あーちゃんに任せるよウチら」

 「うんうん」

 「あ、私は和室が良いです」


 どうやら女子の方も和室が良いようだ。


 「だ、そうです先生」

 「おっけー。そんじゃもうちょい待っててくれ」


 というより僕はクラス委員ってわけでもないんだけどな。


 「なんで前もって決めてないんだかな」

 「意外とズボラなとこあるからねぇ先生は」


 仕方ないよと肩を竦める。それから程なくして客室に案内される。それぞれ数人に分かれ男女でそれぞれ数室借りる。


 「おぉ……めっちゃ綺麗だな」

 「そうだね。畳の匂いも良いし」

 「こんなんテレビでしか見たことねぇぞ」

 「すっげぇ〜……」

 「あ、荷物はわかりやすいところに置こっか皆」

 「あ、おう」

 「あ、そうだった」

 「おっけおっけ」


 和室の綺麗さ壮観さに圧倒され暫く呆然としたが我を取り戻しつつ荷物を置く。時間的にも夜ご飯が出てくるだろう。


 「お、なぁお前ら、これ見てみろよ」

 「なんだなんだ?」

 「あ、これって」

 「館内用の浴衣だね。どうする? もう着る?」


 クロゼットには人数分の浴衣─────とはいえ、上下分かれているが──────があり、僕がそれを見ながら聞くと、全員頷いたため、制服を脱ぎ、浴衣に着替える。


 「サイズ皆はどう? 僕は少し大きいけど問題ないけど」

 「俺は大丈夫だな」

 「おれも〜」

 「同じく」


 着替え終わり、制服を整えてからしまい、予め備え付けられているテーブルを囲うように座る。


 「おれら班違うけどさ、お前らって明日どこ行く?」

 「あ〜確か伏見稲荷大社だっけか? と清水寺は確実に行くんだよな?」

 「うん。先に清水寺を参拝して、清水寺の中に地主神社っていう清水寺に比べれば少し小さいけれど立派な神社があるんだけれど、そっちも行った後に京都駅に戻ってそこから伏見稲荷大社行く予定だよ。きみたちは?」


 明日の班行動を話し合っていると襖がノックされる。


 『お待たせ致しました。御夕食をお持ち致しました』


 襖の奥からそう声をかけられる。たしかに良い匂いが襖奥から匂ってくる。僕たちは顔を見合わせて僕が立ち上がりながら声をかける。


 「はーい。今開けますね」


 襖を開ければ着物姿に振袖が垂れないよう紐でたくし上げ、背中で結った仲居さんというのだろう女性がこれまた綺麗な所作でお辞儀から顔を上げていた。


 「あぁ、ありがとうございます。こちらお食事です。まだありますのでただいまお持ち致します」

 「ありがとうございます。あ、手伝ってくれる?」


 人数分の壊食料理を部屋に入れ、それぞれ持ってテーブルに乗せる。


 「おぉ〜…美味しそうだな」

 「そうだねぇ」


 前田くんの言葉に頷きつつ座る。


 「いただきます」

 「それではごゆっくり」


 仲居さんは再びお辞儀し襖を閉め、それとほぼ同時に僕たちは夕食を食べる。とっても美味だった。




⭐︎




 その後、大浴場もあるらしく、皆と一緒に入った。湯加減も丁度良く、露天風呂も見晴らしが良くてとても満足した。


 「あ、きょーや」

 「ん? あかり? あ、もしかしてあかりも大浴場に?」

 「うん。とっても気持ち良かったんだ〜」

 「ははっ、そうだね。露天は入った?」

 「入った入った! すごかったよね! あれ!」


 風呂上がりにあかりと偶然会い、休憩所の椅子に座り、先程の大浴場のことで盛り上がる。あかりもまた館内着で僕の着てる淡い青色のとは反対の赤色だが、とても似合っている。風呂上がりともあり後ろで束ねた髪はまだ少し湿っていて心做しか頬が上気している気がする。


 「あ、それでさ、明日、楽しみだね〜」

 「うん。道とか迷わないようにしなきゃね」

 「ふふっ、確かにそうだね」


 そう互いに笑い合って、背後ががやがやしだす。恐らく他の皆も出てきたのだろう。それを皮切りに僕は立ち上がろうとする。


 「あ、きょーや、ちょっと待って」

 「ん? どう、したの?」


 ふと、左袖を引かれ、立ち上がりかけた腰を止めあかりを見る。あかりは目を閉じながら顔を近づけ唇を重ねた。


 「……今日、まだしてなかったから」

 「あ、あぁ……そうだね。おやすみ、あかり」

 「ん、おやすみきょーや」


 僕はお返しとばかりに彼女の額にキスをして、前田くんたちと合流し、部屋に戻る。


 「……えへへ」


 その後ろで額に手を当てながらだらしなく笑みを浮かべるあかりが沙美さんたちに見られ、そこから女子会が始まったそうだが、それはまた別の話。


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