第22話
ある日の週末。久々に前田くんとの予定が合い、大学生になったとしてもほぼ寄ることのない居酒屋に来る。前田くんは卒業後、大学進学は選ばず、なんと建設会社に入社したのだ。それも時折職場でのことを動画にしてそれをアップしたりして意外と人気だったりする。あぁ、まぁ、前田くんってガタイいいしねと思ったけれど結構意外に思ったのも記憶に新しい。
「呑みすぎたらダメだよ前田くん」
「へへ、俺は酒強いんだぜ恭弥」
「それでも、だよ?」
「まーったく厳しいねぇ」
「制御しなきゃ呑み崩れる人がいるからねー」
まぁ、当のあかりはお酒にはとことん弱い為チューハイ一本でも酔い潰れるのだけれど。
「それで? 久々の休日はどうだい前田くん」
「どーもこーもねぇってそれがよ」
前田くんはハイボール片手に仕事の愚痴を漏らす。楽しい分やはりあるものはあるみたいで僕はそれに苦笑しながら相槌を打ち、レモンサワーを呑む。僕もそれほどお酒に強いわけじゃ無い。一度父さんと呑み交わした後に酷い頭痛に襲われたことがきっかけであまり家でもお酒を呑むということをしなくなった。
「んでよ恭弥」
「ん〜? なんだい?」
「その首んとこよ虫にでも喰われたん?」
「えっ? あ〜これね。これはキスマークだね」
「お前らは幸せなもんだなぁ」
「あはは、お陰様でね」
鎖骨より上らへん。この辺りに少し触れる。人に言うのは少し気恥ずかしいけれど、まぁ前田くんだしそこまで気負う必要は無い。
「でもね、前田くん」
「ん?」
「好きな人といるとね、結構自制心削れるよ」
「惚気か? 惚気なんだな?」
真顔で返された。惚気じゃないけれどなぁ。
「もう俺もそうだけどお前ら二十歳だろ? 結婚しねぇのかよ」
「いや……したいけど……まだその時じゃないと思うし、焦ってやっても後悔すると思うからね」
「慎重だなぁお前は」
「いやだってさ……」
「わーってるよ。ま、俺が急かしても意味ねぇしな。けど折角指輪渡してんのにまだしないのはちょっとなって思っただけなんだよ」
「まぁ、それはそうだけど……」
そう。なんだかんだいって指輪を渡して以降これといった進展はない。あるのはただ一緒に住んでる、同じバイト先だということくらい。結婚は僕だってしたいしあかりもまたしたいと思ってるだろう。けれど──────。
「大学生とはいえ僕とあかりは『まだ』学生なんだ。だからまだ……出来ない」
カランとグラスの氷が転がる音と共にそれを見ていた僕は真っ直ぐに前田くんを見る。ほろ酔い気分の前田くんの目はそれでも優しげだった。
★
今日はお家で一人お留守番。だけどきょーやは梨奈さんたち呼んでもいいって言ってたから呼んだらすぐに来てくれてお家で宅飲み。
「ほーほーここがあーちゃんと嶋山くんの愛の巣なんだね〜」
「凄い広いね〜」
「えへへ、でしょ〜」
三人でリビングで寛ぎながら持ち寄ってくれたチューハイを一口飲む。舌がピリピリして凄い顔が熱い。そういえば、私って弱いんだったと思い出すけどどうせお家だしいっか。
「それでそれで〜? 恭弥くんとはどうなの最近」
「ふぇ? ん〜……ふふ〜凄い幸せだよ〜」
『見ればわかる』
二人して声揃えて言う姿に私はケラケラ笑う。
「って、あーちゃんもう酔ってない?」
「えぇ〜ぜーんじぇん酔ってないよ〜」
「呂律回ってないじゃん!」
今や箸が転がっても笑えるくらい出来上がっているのだけれど、自分はそれに気づいてなく、「だいじょぶだいじょぶ」と言う。
「あ〜こりゃあ呼ばないと行けないっすな」
「そうだねぇ」
☆
前田くんと晩酌してる時だった。テーブルに置いているスマホが震える。
「うん?誰だろ」
スマホを手に取り画面に目を向ける。
「片桐からか?」
「ううん、梨奈さんからだね。どうしたんだろ。出ていい?」
「おう」
「ありがと」
前田くんに断りを入れ、着信を受ける。
『あ、嶋山く〜ん? やっほやっほ〜』
『聞こえてる〜?』
電話口からは梨奈さんだけじゃなく沙美さんの声も聞こえる。ということは一緒にいるのだろう。
「うん。聞こえてるよ。どうしたの?」
『いや〜まさかあーちゃんが缶チューハイ半分で酔い潰れるとは思ってなくてさー』
『どうする? って話してたんよねー』
「あぁ……あかりは酒に弱過ぎるからね。リビングで呑んでたならリビング出て、奥の扉あってそこが寝室だから寝かせといてくれる? 僕も帰るから」
『あーい。なんか置いとく?』
「う〜ん……ただ酔い潰れただけならベッド横のローテーブルの上に水の入ったポッドなり適当に置いてくれれば良いかな」
『りょ〜。ところで恭弥くんは今何してるの?』
「あ、僕は今前田くんと呑んでたんだ。といっても僕はまだ一本目でちびちびと味わいながらだから問題ないけどね」
『酒強いんやね』
「さぁ、どうなんだろうねぇ……僕もあまりお酒呑まないからなぁ」
スマホを片耳に前田くんに諸手を上げて席を立ちテーブル上にある分の注文したものを会計してから家に向かう。
『一応水置いといたからあと頼んでもおk?』
「うん。全然大丈夫。二人はちゃんと帰れる? なんなら泊まってっても良いけど」
『ん〜……ウチらはあんまり呑んでないし呑みたりないからカラオケとかで呑んでくるかな』
「わかった。あかりに付き合ってくれてありがとね」
『ま〜久々に楽しめたしねー今度奢ってもらうよん』
「ははっ、お手柔らかにね。それじゃ」
『あいはーい』
通話を切り、スマホをズボンのポケットに突っ込み早歩きで帰路に着く。
「あかり〜大丈夫?」
薄手のコートを脱ぎつつベッド横に膝立ちになる。
「ん……あれぇ〜? きょーやぁ? んふふ〜らいじょ〜ぶだよ〜」
あ、全然大丈夫じゃないなこれ。僕は苦笑してコップとポッドを手に取り水を入れていく。
「ほら、お水飲んで」
「のまへて〜」
「え゛……」
いま、なんと?
「んふふ〜」
「……………はぁ」
どうやら酔いは冷めてないみたいだね。それと寝惚けてもいるみたいだ。僕は深呼吸してからコップに注いだ水を口に含んでベッドに手をついてあかりにキスをする。そして口に含ませた水を少しずつ流していく。それでも唇の端からつつっと細く一筋の糸を垂らすように水が垂れる。
「ん……んっ……く、っ……ぁ……はぁ」
「………目、覚めうわっ!?」
離れようとした瞬間にぐいっと引き込まれてあかりは僕の上に跨る。
「あ、あかり…?」
「きょ〜や〜……ぁ……ん…」
「んっ、んんっ!?」
振り払うこともできた。勿論、あかりは酔っ払っていて尚且つ寝惚けていた。彼女の肩を掴み隣に退かすことくらい容易のはずだった。けれど僕はあかりの蕩け切った唾液が分泌されまくった口内で塞がれ、彼女の熱りすぎた唾液が僕の口内に襲いかかり、喉奥まで押し流すように舌をねっとりと絡み取られてはまるで生娘の如く振り払うことはできなかった。この時僕はレモンサワーを多少呑んでいたのだから少しだけ箍が外れていたのかもしれない。
「んっ…ちゅ……じゅる……ぁ…んちゅ…」
「ん、くっ……んん……」
ゆったりとしたキスを重ね、振り払うこともせずただただ彼女の行為を受け止める。頭蓋に響く淫らな音がなかなかどうして心地良いと感じてしまうのだろう。キスをしたままススっと彼女は手を動かす。彼女のしたい事を理解した時には彼女の浮かべていた
☆
翌朝目を覚ますと、素肌を曝したあかりを抱いていた。横に顔を向ければあかりは起きていたようでばっちり目が合った。
「………………………いつから起きてたの?」
「ん〜……さっき……かな?」
「そっか」
「ん。おはよきょーや」
「うん、おはようあかり」
寝顔を見られるくらい慣れたものだ。軽く身動ぎしあかりの首筋に顔を埋もれる。あかりはそんな僕をしっかり受け止めて後頭部を撫でてくれる。
「……きのうは〜……その、ごめんね?」
「………全然大丈夫。頭とか痛くない?二日酔いとか」
「ん〜ん全然へいき〜」
「そっか……あかり」
「ん〜?な〜にきょーや」
「……おはようのキス」
「ん、しよっか」
「ん」
顔を上げ、ほんのりと紅い彼女にゆっくりとキスをする。数秒重ね、そっと離れる。
「……あ、ソレ、首にいっぱい付けちゃった」
「……? あ、あ〜……コレか。確かに昨日のはいつもより過激だったね」
「あ、あれは酔ってたから……」
「うん、僕も少し酔ってたと思うから……お互い様だね」
「……えへ、うん」
起き上がり、ベッド横に脱ぎ散らかした服を集める。全身写る鏡に目を向ければ首のほぼ全体的に小さく赤いマークが点々としていた。自分の首に指をなぞり、次いで起き上がり伸びをしているあかりに目を向ける。
「……ふにゅ……ん〜?」
僕の視線に気付き首を傾げるあかり。その仕草ですらとても愛おしい。ローテーブルの上に服を置きベッド上に膝を乗せつつ近寄り僕はあかりの柔らかな髪と共に頬に手を当て、首筋に顔を付けてその首筋を甘噛みする。
「ん、っ……」
耳許近くで小さく声を漏らすのを聞き取る。甘噛みした部分をぺろっと舌先で舐める。
「ひゃぅっ…!」
「……いつもはあかりが付けてるから……僕もしたくなった」
スッと離れて再度服を手に取りそのまま洗面所に置いている洗濯機に向かう。
「……ふへへ、きょーやにもあったんだ独占欲」
後に残ったあかりはベッド上で座りながら何処か満足そうに僕の付けたキスマークに触れながらそう呟くのだった。
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