9. 逃げるな
9. 逃げるな
新入生魔法競技大会まで残り1週間。オレとカトレアは仲間が集まらないままでいた。このままじゃ上位に入るのも難しいかもしれないよな。オレは授業で使った魔法具を返しに歩いていると、中庭の方から声が聞こえてくる。
「お前最近調子に乗ってるらしいな?少し顔貸せよ『炎鬼』ギルフォード?」
「……何だ?オレは忙しいんだが」
「うるせぇ!さっさと来い!」
「ちっ……分かったよ」
オレは何気なく覗いてみるとそこには数人の男子生徒がいた。そしてその真ん中にはギルフォードと呼ばれた赤髪の男。そしていちゃもんをつけてるのはあのガンドラたちだった。懲りないなあの男。
まぁ関わる必要はないよな。……と思ったが気になるのであとをつけることにする。そのまま学園の裏にある森に入っていった。あそこって立ち入り禁止じゃなかったか?
「お前クラスにも在籍しねぇのに、周りにデカイ顔してるらしいな?」
「そんなつもりはないが?周りの奴らが弱いだけだろ?」
「うるせえんだよ!てめぇのせいでオレらのメンツ丸潰れなんだよ!」
そう言ってギルフォードの顔を思いっきり殴った。あいつらマジか!?ギルフォードはそのまま地面に倒れる。しかしギルフォードは反撃をしない。
「ぐっ……」
「おいおい~もう終わりかよ?この程度ならオレでも勝てるぜ?おらやっちまえ!」
ガンドラの言葉を聞いて周りの取り巻きたちもギルフォードを殴り始める。これは流石に見過ごせないな……。
「ちょっといい加減にしなさい!」
「ああん?ステラ=シルフィードじゃねぇか?ちょうどいい!てめえも痛め付けて犯してやるよ。それともこの場で脱いで見せてくれるのか?」
すると取り巻きたちがオレを囲むようにして立ち塞がる。こいつらは本当にどうしようもないクズ共だな。それと気持ち悪いんだよオレは男だ。
「やれ!」
取り巻きたちは一斉にオレに向かって攻撃してくる。だがオレはそれを全て避け、ボコボコにしてやる。久しぶりに暴れるのは爽快だな!
「弱すぎて話にならないわ?」
「くそが!てめえやりやがったな!こうなったら奥の手を見せてやるよ」
ガンドラが指を鳴らすとオレの手足は地面から現れた鎖によって拘束されてしまう。マジ?こんな魔法使えたのかよこいつ。
「くっ……」
「さて。その服を引きちぎって、裸体でも拝んでからたっぷり可愛がってやるぜ!」
そう言うとガンドラはゆっくりと近付いてくる。やめろ気持ち悪すぎるんだが!しかもオレが男だってバレんだろ!
ガンドラが服を掴んだ瞬間、オレは勢いをつけてガンドラの頭に思い切り頭突きをかます。ゴンッという鈍い音が響き渡る。
「ぐあああっ!!」
そしてガンドラはそのまま倒れ込む。それと同時にオレを拘束していた鎖の魔法は解ける。
「うわああ!!逃げろ!」
「覚えてろよ!必ず復讐してやるからな!」
取り巻きたちはガンドラを連れて慌てて逃げ出していく。ふぅ……なんとか助かったな。そしてギルフォードの方を見るが特に大きな怪我をしている様子はない。
「大丈夫かしら?」
「ああ。別に助けてくれなくても良かった。どうせオレはこの魔法学園をやめようかと思っていたからな」
「は?やめる?何を言ってるのあなた?」
「オレは元々冒険者になりたかった。だけど親父はそれを許さなかった。だから、こんなつまらねぇ魔法学園に入学しただけ、真面目に学ぶつもりもない。」
なるほどな……そういうことか。ギルフォードの父親はかなり厳格な人らしいな。息子である彼に対して優秀な魔法士になること以外は認めないと。それはなかなかキツイ話だよな。もしかしたら貴族や王族はみんなそうなのかもな。
「そうだったのね。ならなんで喧嘩を買ったりしたの?」
「そりゃ問題を起こせば即退学になるだろ。それにオレみたいな問題児はいらないだろうしな。血筋で将来を決められる人生なんてのはゴメンだ。あとはそんなやつらとの馴れ合いなんかもまっぴらゴメンだ。」
確かにな。家柄だけで実力のない奴が上に登っていくのは見ててイラつくしな。でもこのまま放っておくのもな……。
正直こういうやつは嫌いじゃない。待てよ?こいつを仲間にできないか?そこそこ強そうだしな。そうしよう、オレたちには時間がないからな。
「……ダサいわね。あなた」
「ああ?なんだって?」
「血筋で将来を決められるのはゴメンだ?その血筋を認めて逃げようとしているだけでしょ。退学なんて楽な方法で。」
「なに?」
「平民にはね、自分の夢を諦めずに努力している人はたくさんいるわ。あなたの父親はそれができないくらいに厳しい人かもしれない。だからこそ男なら格好良く抗って見せなさいよ!そして証明してみせればいいじゃない!」
オレはそのままギルフォードの胸ぐらを掴み、更に言ってやる。それは初めて会った時にステラ=シルフィードに言われた言葉。
「私についてきなさい。あなたのこと助けたんだから断る権利はないわ。おわかり?」
「なんだと?」
「どうせやめるくらいなら少しくらい私に従ってみない?私が見せてあげる、世の中血筋が全てじゃないってことをね?」
「……」
ギルフォードは何も言わず、オレが掴んでいる手を振り払いその場を去る。だがオレは見逃さない。その目からは悔しさが滲んでいることを。オレはその背中を見つめながら小さく呟いた。『待ってるぞ。ギルフォード』と。
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