27. 噛み合う歯車は勝利に向かって②
27. 噛み合う歯車は勝利に向かって②
そしてもう1つの歯車は動き出す。
その清らかな青い髪をなびかせ、四大の『蒼氷』エリス=アクアマリンは四大の『破炎』と『風神』が戦っている中央の大木へ歩き始めていた。
理由は明確だ。どう考えても風属性の『風神』ステラ=シルフィードが炎属性の『破炎』グレン=フレイザードを倒せるわけがない。万が一のことがあっても手負いの相手なら負けるはずがない、2人の勝負が決したあと星を奪えばいいだけなのだから。
「ステラ=シルフィード。変わり者と噂されてましたが、ここまでとは……」
そう呟くと彼女はその足取りに迷いはない。正直ステラの意図は読めない。でもそんなことを考える必要はなかった。最後には勝てばいいのだ。
「さぁ……行きましょうか」
するとその時、目の前に赤い髪の男が見えてくる。あの男はステラ=シルフィードと同じ落ちこぼれクラスの生徒だったはずだ。
「おお!これはこれは『蒼氷』エリス=アクアマリン令嬢。待ってたぜ?」
「あら?私を待ってたんですか?それは光栄ですが……私は今時間がありませんので失礼しますね」
しかし赤髪の少年はその言葉を無視してこちらに近づいてくる。
「ちょっと待ちなって!」
「……なんでしょうか?」
「あんた、良く見ると美人だしスタイルも抜群だな?オレと付き合ってみないか?」
「私があなたのような下賤な人間のものになると思っていますか?」
「思わないね。だからオレがあんたに勝ったらでどうだ?」
エリスは大きくため息をつく。この男の言っていることは理解できないし時間の無駄だ。こんな男に構うより早く行かないと……。
「回りくどいですね。初めから私の足止めが目的でしょ?」
「まあな。悪いがステラの邪魔はさせない。オレがここで止めるんだ」
「彼女も彼女ですが、あなたもあなたですね?炎属性のあなたが水属性の私を止めるつもりですか?」
「ああ、そうだ。お前を止めてみせる」
「バカな人。……では行きますよ?」
エリスの周囲には水の渦が巻き起こり、そこから無数の水が飛び出していく。
「スプラッシュ!!」
大量の水を操り攻撃する魔法だが威力はそれほど高くない。これならばいくらでも対応できると思ったのだがーーー
「なっ!?」
その水は赤髪の少年の身体中を包み込み身動きが取れなくなる。そしてそのまま水の檻に閉じ込められてしまった。
「ぐぅ!!なんだこりゃ!?」
「ウォータープリズン。水の牢獄ですよ。これであなたの逃げ場はなくなりましたね?」
「ちぃ!!」
「あー。最後に名前くらい聞いておきましょうか」
「ギルフォード=ファルス。未来のあんたの旦那になる男かもな?覚えておくといいぜ?」
「ふふふ、面白い冗談ですね?私、弱い男には興味ありませんので。さようなら……クラッシュガスト」
そう言いながらエリスは指を鳴らす。するとギルフォードを拘束していた水牢は一瞬にして凍りつき砕け散る。
「ぐわぁぁぁ!!!」
そしてそのままギルフォードは地面に倒れ込む。
「ふん。口ほどにもありませんね。まあいいでしょう、あの2人の元へ……」
そうしてエリスは再び歩き出そうとした瞬間、背中に熱い痛みを感じる。
「え……?」
振り向くとそこにはボロボロになりながら立ち上がるギルフォードの姿があった。
「ヒートバレット……」
「くっ……」
「悪いな?今の一撃じゃ無理だったみたいだ。もう少しだけ付き合ってくれよ……」
エリス=アクアマリンは決して慢心したわけじゃない。四元の法則を考えればさっきの魔法で十分倒せたはずだ。なのにこの男は立ち上がった。
「なぜ……立てるんですか?」
「そんなもん決まってんじゃねぇか?……オレが諦めたら面白くないからだよ」
彼は一体何者なのか?エリスの中で疑問が生まれる。
「……どうしてそこまで必死になれるのですか?あなたが私を倒すことなんて出来るはずがないわ!」
「そりゃ分かってる。簡単さ……惚れた女にかっこいいところを見せたいだけだ」
「またそんな冗談を……くだらない」
「そう言うなって。オレは結構マジだぞ?」
「なら尚更笑えないわね……いい加減目障りです。消えなさい……ハイドロインパクト!!」
すると今度はエリスを中心に大きな水流が発生し、ギルフォードを飲み込もうと襲いかかってくる。しかし彼は一歩も引かず、真っ直ぐに走り出す。
「おおぉぉ!!!」
そしてそのまま巨大な水の渦に飲み込まれてしまう。
「はぁ……はぁ……これで終わりですね。まったく……つまらない時間を過ごしてしまいました。さて、行きましょうか」
そう言って彼女は再び歩き始める。するとまた背後から声が聞こえてくる。
「待て……まだ……終わってねぇぞ?」
「まさか……そんなはずは……」
振り返るとそこに立っていたのは全身血まみれのギルフォード。どう考えても立っているのが不思議な状態だった。
「さぁ……続きをやろうぜ?負けを認めてオレの彼女にでもなるか?オレは全然構わないけどな」
エリスは顔を歪める。ギルフォードは簡単には倒れない。そこには強い意志がある。1分1秒でもエリス=アクアマリンを足止めする。それが自分が与えられた役目。そして、それが自分たちが勝つ方法だからだ。
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