【極限の入れ替わり!?】ステラ様(偽)は逃げ切りたい!~突然貴族令嬢の代わりになったオレ。バレたら死ぬらしいので秘密裏に生き抜きます~
夕姫
1. プロローグ(前編)
1. プロローグ(前編)
ここは世界の中心にある聖ラステリア王国。古代の叡知が眠る国。そして世界中の魔法士たちが憧れを抱き魔法技術の研鑽に励んでいる。そんな優秀な魔法士を育てるための学園。それが『王立魔法学園』国内最高峰の教育機関。
この学園を卒業できれば、それだけで一生安泰な生活ができると言われているほどのエリート校だ。そんな王立魔法学園の入り口に美しい金髪、そして翡翠色の瞳をした少女が立っていた。
「ふーん……ここが王立魔法学園か。」
そう呟くと、彼女は制服を軽く整える。
「準備はよろしいですか?」
「なるようにしかならないだろ?大丈夫だ」
少女の名前はステラ=シルフィード。四大属性の『風』を司る、由緒正しきシルフィード家の令嬢で、今日からこの魔法学園に通う学生である。
「それよりあのワガママ貴族令嬢はなんか言ってたか?」
「ええ。『せいぜいバレないように頑張りなさい。簡単に死んだらつまらないわ』と伝言を預かってます」
「……もう少し労いの言葉とかねぇのか?まぁ期待するだけ無駄だよな。あいつはそういう奴だ」
「まぁまぁそう言わずに。ステラ様は優秀ですから」
「はいはい、さてと行くとするかね」
呆れたようにため息をつくと、そのまま歩き出した。誰が見ても金髪の美少女ステラ=シルフィード。しかし彼女はそんな容姿とは裏腹に、実の正体は……
◇◇◇
これは少し前の出来事。オレの人生を変える大きな出来事だ。
降りしきる雨、薄暗い倉庫。そこにオレは捕らえられていた。そう少しだけドジを踏んだ。
オレの名前はエリック。昔から喧嘩は負けなしで強かったし、腕っぷしにも自信があった。この辺りのスラム街では知らない人はいない『黒鴉』なんて二つ名で呼ばれている。悪いがちょっとした有名人だ。生まれてすぐに親に捨てられ家族も信頼するやつもいない。言わばならず者だ。今まで困難なことも数え切れないほど乗り越えてきた。
気にいらない貴族たちから金品を巻き上げ、それを売り、金にする。それがオレの日課。決して誉められたものじゃないのは分かっているが、そうしなければオレは生きていけない。生きるために仕方のない事なのだ。
その日もいつものように仕事を終えて自分の家に帰ろうとしたんだが……どうやら運悪く、この辺りを縄張りにしてるならず者の連中に見つかっちまったらしい。いつもならこんな奴らから逃げ切ることなんて簡単なことなのに、この日だけは違ったんだ。抵抗しようとしたがさすがに数の暴力には勝てなかった。
「お前か?最近ここらを荒らしてるって言うカラス野郎は」
「だったらなんだ?」
「お前男だったんだな?女みてぇな顔してるし、声も高いから分からなかったぜ?まさか噂の『黒鴉』がこんな女顔の小僧だったなんてな?」
「チッ……」
あぁクソっ!コイツらはオレが気にしてることを……。それにしてもさっきから周りの連中もニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべてこっちを見てきやがる。
「まぁいいさ……これ以上好き勝手暴れられても困る。少し痛い目にあってもらうぞ?」
「やってみろよ。こっちはその方が好都合だぜ」
オレの言葉を聞き、周りの男たちが武器を構える。
「おい!こいつ殺しちまってもいいのか!?」
一人の男が叫ぶように言う。それにリーダーらしき男は首を横に振った。
「すぐに殺すなよ?少しくらい楽しめ。どうせこいつは罪人だ。死刑になるような奴だからよ」
「へぇ……あんたらはオレが金品を巻き上げたどこかの貴族様の味方じゃなかったのか?」
「勘違いすんな。ただオレらは楽して儲けたいだけだ。その為ならどんな手でも使うぜ?つまりお前が邪魔なんだ」
「そうかい……」
そこからは一方的な暴力だった。次々と殴られ蹴られ、ボロ雑巾のような姿になった。身体中に激痛が走る。このまま死ぬんじゃないかと思ったほどだ。
しかし奇跡的に意識だけは失わなかった。いや、正確には失う事が出来なかったのだ。首元にナイフを突き付けられていて動けないでいたからだ。
「さてどうする?『黒鴉』。さすがのお前でもこの状況じゃオレたちには勝てないだろ?まぁ奴隷になるなら命は助けてやるぜ?その女顔を活かして毎日男でも相手にするか?それともここで死んどくか?」
ニヤリと笑みを浮かべる男たち。正直どちらも選びたくない選択肢だ。だがどちらを選んでも殺される未来しか見えない。
「さっさと選べ!」
「ぐあっ!!」
腹を思いっきり蹴り飛ばされる。もう限界だった。このままだと本当に殺されてしまうかもしれない。悪いことをするやつには救いなんてないんだな……。
そんな時だった……。
「こんなところにいましたのね?何をしているのです?」
突然響いた透き通るような美しい声。オレを含め全員がそちらへと視線を向ける。そこには一人の少女がいた。歳はオレと同じくらいだろうか?金髪の長い髪、それよりも何故か仮面をしている。
彼女は真っ直ぐこちらへ向かってくる。そしてオレの首元にあるナイフを見て、眉間にシワを寄せた。
「貴方たち……私の
大切な物?この子は一体誰と話しているんだろう。
「なんだ嬢ちゃん?もしかしてお仲間か?」
「仲間ですって?とんでもないわ!こいつはやっと見つけた私の所有物よ!勝手に手を出さないでくれるかしら?」
所有物?どういう意味だ?するとリーダー格の男は、彼女の言葉を聞いて大声で笑う。
「はっはっは!!面白い事を言ってくれるじゃないか嬢ちゃん!これは遊びだ。別に殺そうとしてやってる訳じゃないぜ?さっさと帰んな。痛い目に会いたくないならな?」
「遊び?あらそうなの?それは残念ですわね……私も混ぜてもらいたかったのですけど?」
「残念?はっはっは!面白い嬢ちゃ……うおっ!?」
突如、目の前にいたはずの彼女が消えた。気付いた時には既にリーダー格の男の後ろに回り込んでいた。そして辺りを強力な魔力が包み込む。
「私は自分の大切な物を勝手に傷つけられて、今機嫌が悪いのです。死にたくなければ消えなさい」
底冷えするような冷たい声音で言う彼女。それに気圧されたのか、取り巻きの男たちは後ずさりをする。
「ま、待ってくれ!オレたちが悪かった!許し……ぎゃああぁぁぁぁ!!!」
「うるさいですね……」
いつの間にか手に持っていた杖を地面に叩きつけ、風の槍を作り出していた。それを容赦なく男の足目掛けて放つ。両足を貫かれた男はそのまま倒れ込み悲鳴を上げ続けた。
「な、なんなんだよこの女……」
「バケモンだ……こんなの勝てるわけねぇ……」
「逃げろぉ!逃げるしかない!早くここから離れないと……」
蜘蛛の子散らすようにその場から逃げ出す男たち。残されたオレは呆然とその光景を眺める事しか出来なかった。そんな中、彼女はゆっくりと振り返ると微笑んだ。
「さぁ私と一緒に来てもらいますわよ?私の所有物さん?」
そうオレに言う彼女。オレは彼女に言われるまま、その場から連れ出された。これが彼女とオレとの出会いだった……。そしてこの出会いでオレの運命は大きく変わっていく事になる。そのことをこの時のオレは知るよしもなかった。
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