2. プロローグ(後編)

2. プロローグ(後編)




 オレは風魔法を使う謎の仮面の金髪美少女に助けられそのまま馬車に乗せられ、この聖ラステリア王国の貴族街へ進んでいる。一体この女は何者なんだ?なぜオレを助けた?正直謎だ。


「おい。あんた何者だ?」


「黙りなさい。あなたは黙って私に従っていればいいわ」


 ダメだ。会話が成立しない。なんだってんだよ……しかもオレを拘束してる縄も解かねぇし。そしてしばらく馬車を走らせると目的地に着いたようだ。


「着いたわ。降りてちょうだい」


 オレは言われるがままに馬車を降りる。すると目の前には豪邸があった。


「ここは私の家よ。とりあえず中に入って」


 えぇ……マジで言ってんの?この状況から逃げられるならなんでもいいけどさぁ。オレは屋敷の中へと連れていかれた。そしてリビングらしき部屋に通される。


「お帰りなさいませステラ様」


「ええ。目的のカラスを捕まえたわ。リリス、紅茶を用意してくださる?」


「はい」


 その金髪美少女のステラ様と呼ばれた女性に言われ、メイドらしきリリスという女性は紅茶の用意をしに行く。


「とりあえずそこに座りなさい」


「あのさ?この縄を解いてくれないか?」


「黙りなさい。あなたは私が助けたんですわよ?従っていればいいわ」


 ソファーに腰掛けるよう促され座ると、その対面にある椅子にステラと呼ばれた少女も座った。くそ……マジでこいつなんなんだよ。


「あなた『黒鴉』と呼ばれた、ならず者のエリックで間違いないわね?」


「どうでもいいけど、まずはこの縄を解け!」


「質問しているのはこちらですわよ!まあいいわ。それで答えは?」


「ああそうだぜ?それがどうかしたのかよ?」


 オレは諦めて質問に応じることにした。というか仮面もとれよ、顔見せろや。そんなことを考えているとリリスというメイドが紅茶を用意して戻ってくる。


「ありがとうリリス」


「いえ」


 この目の前にいる金髪美少女は出された紅茶を一口飲むと、オレを見てこう言った。


「ならず者のくせに生意気だわ。リリス。これをあのうるさいカラスにつけてあげて頂戴。そして縄を外してあげなさい」


 するとオレは右の人差し指に指輪をはめられ、縄を外された。やっと手が自由になった。それと同時にステラと呼ばれた女性は何かの魔法を唱える。


制約コネクト


 そう唱えるとオレにはめた指輪が熱くなり、体の中に何かの魔力が入ったような感覚になる。


「お前……オレに何をした!?」


「だから黙りなさい。ある制約をかけただけですわ。とりあえず自己紹介をしておくわ、私はステラ=シルフィード。一応貴族令嬢ね」


「その貴族令嬢がオレに何の用なんだよ?」


「単刀直入に言うわ。あなた私の代わりに魔法学園に通って卒業しなさい。断る権利はないわ。私はあなたの命の恩人だものね?」


 は?こいつ何言ってんだ?オレが魔法学園に通うだと?ふざけんじゃねえぞ。しかも勝手に助けたんだろうが。


「おい頭イカれてんのか?オレは男。お前は女。そんなの無理があるだろうが。」


「そう言うと思ってたわ。これを見てもそんなこと言えるかしらね?『黒鴉』のエリック?」


 そう言ってステラは仮面を外す。するとそこにはまるで鏡を見たかのように自分と同じ顔があった。


 これは夢なのか?オレと同じ顔が……良く見れば違いはあるだろうが、正直分からない。目の前にいるのは間違いなくオレだ。そしてオレは無意識に声をあげる


「はぁ!?なんでこんなことが!?」


「私に似ている人物がいると聞いて調べましたの。まさか本当にここまで似てるとは思いませんでしたわ?かなり親密な関係じゃないと気づかれないレベルですわ。幸い声も似てますわね骨格が同じだかしらね?」


「骨格って……」


「これで分かりましたわよね?あなたは私の代わりに魔法学園に通って卒業する」


 だとしても全くわからん。なぜこいつはわざわざオレを影武者みたいにする必要が?


「いやだからと言ってなんでそんなことをする必要があるんだ?お前は誰かに命でも狙われてるのか?」


「簡単なことですわ。ズバリ時間の無駄だからよ」


「は?」


「正直。私は天才なの。魔法の能力は学園一の実力があると思うわ。なのに、魔法学園ごときに通わないといけない。しかもあと3年間も時間を使うのは人生の無駄。それなら自由に楽しみたい。でもこの国の法律では貴族令嬢の魔法学園の卒業は必要。おわかり?」


 ……えーっとつまりこの女は、オレを影武者にして、自分は有意義に時間を使いたいということか。なんかムカつくな。というか自分で自分を天才とか言う奴初めて見たぞ。


 この国では王族、貴族は必ず卒業することを義務づけられている。その理由は至って単純明快。『血筋』である。生まれながらに高い魔力を内包し、優れた才能を持って生まれる者が多いからこそ、その者達が努力して切望する学園を卒業しているか否かで身分が決まるのだ。


 だが、当然のことながら例外も存在する。それは――平民でも優秀な人材であれば入学することができるということだ。


「断る。誰がそんなことのために手を貸すんだよ。帰らしてもらうぜ?」


「あら?もちろんタダじゃないですわよ?提案がありますわ。」


「ああ?提案?」


「ええ。もしあなたがバレずに魔法学園を卒業出来たのなら、私が魔法学園卒業後のあなたの生活を死ぬまで保証してあげますわ?好きなようにしてくれて結構ですし、もちろん常識の範囲内ですが。私は3年間の自由、あなたはこれから先の自由を手にするの。悪い提案じゃないでしょ?」


 確かに悪い提案じゃない。今までの生活から解放されるならそれに越したことはない。


「というより、あなたにはもう断る権利はないですわ。さっき制約魔法をかけたもの。」


「なんだそりゃ?ん?まさかこの指輪!?」


「簡単に言えば契約みたいなものですわ。内容は……そうですわね、あなたがあなたは死ぬ。それでいいでしょ。」


「おいちょっと待て!それじゃ、まるで呪いじゃねぇか!」


「ふふっ。まぁそういうことですわね。」


 こいつマジで最悪だ。自分のために他人を犠牲にすることを何とも思ってない。というかそもそもオレの命なんてどうなってもいいと思ってるんじゃないのか?しかもただ自分が楽したいだけ……。


 ふざけやがって……


 面白い……バレなきゃいいんだろ?オレは今まで困難なことなんて数えきれないほど乗り越えてきた。それに不本意だが、こいつが助けてくれなかったらオレは今頃死んでたしな。たった3年間だろ?バレずに逃げ切ってやる。そして自由を掴みとってやるぜ!


「分かった……。お前の提案に乗ってやる。その代わり約束は守れよ?それとオレのやり方に文句を言うな、好きにさせてもらう。バレなきゃいいんだよな?」


「ええ。問題ありませんわ。せいぜい死なないことを祈っていますわ?」


 それに冷静に考えたら、こいつが助けてくれなかったらオレは今頃死んでただろうし、せっかくのチャンスを逃すわけにはいかない。


「ではこれからよろしくお願いしますわね。私の影武者さん?」


「ああ」


 こうしてオレは魔法学園に通う3年間ステラ=シルフィードとして生きることになった。

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