幕間

ポラリスの目指すもの

 ポラリスには憧れの存在がいる。


 現マギノリアス統一国騎士団騎士団長のセドリッグ・キルリックだ。

 ポラリスが初めてセドリッグを知ったきっかけは、ポラリスが六歳の時にマギノリアス統一国の中央都市で開催された魔導大会の決勝戦で、孤児院の院長が孤児院の子ども達と一緒に魔導大会を観戦した事だった。


 当時のポラリスは魔導の力を有していたが、コップ一杯の水を生成するのが精一杯で数秒だけ宙に浮かせるだけの力しかなかった。特に突出した魔導の力のなかったポラリスは魔導大会の観戦自体に興味がなかった。


 セドリッグの試合を見るまでは。


 ポラリスは当時の試合を今も脳裏に焼き付いている。

セドリッグは対戦相手に一歩も引かない魔装術で徐々に追い込み、ついに勝利した。その時の洗練された身のこなしと対戦相手のすさまじい魔導に引けを取らない見事な魔装術の戦いにポラリスは今まで感じた事のない緊張感と高揚感を覚えた。


 この日からポラリスは魔導大会で決勝戦に勝利したセドリッグの勇敢な姿に憧れた。

 大会後に偶然セドリッグと出会い少しだけ話をしたポラリスはセドリッグに告げられた言葉を今でも覚えている。


『大きくなって立派な大人になった君に再会できる時を楽しみにしているよ』


 その言葉を聞いて魔導大会を観戦し終わってすぐポラリスは魔導の修練を始めた。

 憧れのセドリッグのような魔導師になるためポラリスは必死に魔導、魔装術の腕を磨いた。


 そしてセドリッグが魔導の腕を磨いたバレンシュタイン魔導学院に入学して、セドリッグが達成した学院本科各年次主席の成績を目指し、マギノリアス統一国の騎士団に入団する。

 それが幼い頃から目指してきたポラリスの目標だ。


 学院の学生が大半を占める貴族出身の学生達の心無い言動も、ポラリスは耐えられた。

 同じ平民出身のセドリッグもポラリスのように貴族出身の学生達から同じく心無い言動を受けていたはずだから。そのような逆境にもセドリッグは負けず、学院設立以来三人目の本科各年次主席の記録を樹立して学院を卒業してマギノリアス統一国の騎士団に入団した。


 そんな憧れのセドリッグのような偉大な魔導師になるためにポラリスは学院で自身の腕を磨き続ける必要がある。

 憧れの人に追い付くためにこんなところで躓いている時間などない。


 ポラリスは悪魔に魂を売ってでも学院を卒業する覚悟でいた。

 しかしポラリスは予想していなかった。

 自身が想定していたよりも早く悪魔に魂を売る事になるとは。

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