第6話 つかの間の団らん
なんとかギリギリ門限に間に合ったポラリスとノックスはマンゲツを連れて部屋に戻った。
幸い、ここまでの道中で誰一人として会わなかった。ポラリスの上着だけ着た麗しい乙女の姿の
もし誰かに見られていたら裸の乙女を連れ込んだ男子学生二人という冤罪をかけられて事情を説明するのが面倒だ。
「門限に間に合って良かったな」
ノックスは部屋に入ってすぐに部屋の中央に置いてるテーブルへ向かった。
「本当だ。もし寮母に今のマンゲツの姿を見られたら怒られるだけじゃすまなかったぞ」
ポラリスは門限に間に合わず寮母に今のマンゲツの姿を見られたら即座に寮から追い出されていただろうと想像していた。
「けどどうする? マンゲツの服がないと部屋から出せないぞ」
「それなら問題ない」
ポラリスはマンゲツが麗しい乙女の姿をしているが故に服がない状態で部屋の外から出せない事をノックスに話すと、ノックスはすでに考えがあるようだ。
「私にそのような贅沢は不要です。私はこのままで問題ありません」
「「それだけはやめてくれ」」
マンゲツは霊獣であるが故に衣服などの贅沢が身に余るらしくこのままで平気だと伝えた直後、ポラリスとノックスは声を揃えてマンゲツの意見に反論した。
霊獣の価値観では自分に贅沢するのは申し訳なく感じるのだろうが、マンゲツの姿はどこから見ても人間の乙女の姿だ。服装に関しては人の価値観に合わせてもらわないとポラリスとノックスの人としての社会的尊厳が一瞬で失われかねない。
二人が食い気味で反論すると、マンゲツはその理由が思いつかず頭の上に疑問符を浮かべた。
「服の心配はしなくて大丈夫だ。この書類を学院に提出すれば何とかなる」
ノックスはテーブルの傍で座って何か書いていた紙を手に取ってポラリスとマンゲツの方へ歩み寄る。
ノックスが手に持っている紙の書面が見えるようにポラリスとマンゲツに見せた。
「契約した霊獣にかかる諸費用の代払申請書だ。これにお前らの血判を押して学院に提出すればマンゲツにかかる全ての費用を学院が負担してくれる」
ポラリスとマンゲツに見せた代払申請書を見ると書面の二ヵ所に空欄があった、
ノックスはポラリスに無言で代払申請書と血判用のナイフを渡した。
ノックスから代払申請書とナイフを受け取るとポラリスは申請書をテーブルの上に置いてナイフで指の先を浅く切り血を滲ませて申請書の『霊獣の契約者欄』に血印を押した。
「次はマンゲツだ」
血印を押したポラリスは血判用ナイフをマンゲツに渡すと、マンゲツはナイフを受け取りポラリスの見よう見まねで指の先を切って血を滲ませると書類の『契約霊獣欄』に血印を押した。ポラリスとマンゲツの血印が押された瞬間、二つの血印が輝き押した血印の上に『ポラリス』と『マンゲツ』の名前が独りでに刻まれた。
「これであとは学院に届ければマンゲツにかかる諸費用が支給される」
ノックスはポラリスとマンゲツが血印を押した申請書をすかさず手に取った。
「ポラリス。飯の用意してくれ。腹が減った」
「そうだな。まだ夕飯食べてないからな」
夕飯を摂る前に霊獣契約のため第七演習場に向かったのでポラリスとノックスはすでに空腹だった。
ノックスは早く夕食の準備をするように告げると、ポラリスはすぐに部屋にある調理場へ向かった。
ポラリスが調理場に着くとすでに鍋の中に作り置きされている野菜と肉のスープを温め直す。
毎食の料理は基本的にポラリスが担当している。最初はノックスが栄養バランスの整った献立を決めて調理していたが、たった一食調理した後、すぐにノックスからポラリスに調理担当が変わった。
理由は至極簡単で、ノックスの作る料理が絶妙に不味いからだ。
ノックスは栄養バランスさえ良ければ味など気にせずに調理するので料理が不味くなる。しかもノックスの料理は一口食べてすぐに吐き出すような強烈な不味さではなく、ギリギリ一食完食できる不味さなのが余計に
これが毎日続くと考えて危機感を覚えたポラリスはノックスに使う食材だけを用意してもらい、その食材を分量通り使って料理するようになった。
ポラリスは温め直した具だくさんのスープを木製の食器に盛り付けてテーブルに運んだ。
「用意できたぞ」
ポラリスは夕食の用意ができた事を伝えるとノックスはすぐにテーブルの椅子に座る。
マンゲツは食器に盛り付けられたスープの香りにつられてテーブルを見るとテーブルの上には具だくさんのスープが盛り付けられた食器が三つ並べられていた。
「マンゲツも食べようぜ」
ポラリスはテーブルの椅子に座るとぽつんと立っているマンゲツを手招きして夕食を食べようと伝えた。
「そのような贅沢など私には不要です!」
マンゲツは申し訳なさそうな表情を浮かべて必要ないと身振り手振りも含めて伝えるが、腹の虫は正直でマンゲツのお腹から気持ち良いくらい盛大に腹が鳴った。正直者の腹の虫にマンゲツは恥ずかしさで顔を赤くした。そんな姿を見せたマンゲツにポラリスはくすっと笑う。
「命令だ、マンゲツ。オレの作った飯を食べるんだ」
「……承知いたしました」
ポラリスは『命令』と言いマンゲツにテーブルの上に用意したスープを食べるように伝える。
マンゲツは恥ずかしさを拭いきれないままポラリスの『命令』を承諾した。
マンゲツはポラリスの向かいにある椅子に座った。
ポラリスがスプーンをマンゲツに手渡すとスプーンの持ち方が分からないようで少しの間、動きが止まった。
ポラリスはマンゲツに見えるようにスプーンを持って盛り付けたスープを口に運んだ。
マンゲツはポラリスの見よう見まねで、ぎこちない手つきでスプーンを持ってスープを口に運んだ。マンゲツがスープを口に入れると野菜の優しい甘みと煮込む前に周りをじっくり焼いた肉の香ばしい旨味が口いっぱいに広がった。
「……美味しい」
マンゲツは目を大きくしてポラリスの作ったスープを見た。
そしてすぐにスプーンでスープの具材を掬い取り口いっぱいに運んで食べる。
「口に合って良かった」
口いっぱいにスープの具材を頬張るマンゲツにポラリスは嬉しそうに微笑んだ。
「これでポラリスの作った料理はマンゲツの食費に換算できる。いやぁ、代払申請書を用意して正解だったな」
微笑ましい雰囲気を一蹴するノックスの発言にポラリスは途端に苦い表情を浮かべてノックスを見た。
「そのためにマンゲツがオレの作った飯食べるのただ見てたのか?」
「当たり前だろ。節約できるところは節約するのが賢いって事なんだよ」
ポラリスの白けた目など気にも留めずにノックスはポラリスの作ったスープを食べ進める。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます