四幕 魔装強盗事件
第10話 仲違い
『決闘終了!——』
決闘の終了を告げるアナウンスが響き渡る第五闘技場にはポラリスとノックス、マンゲツが決闘を挑んできた学生と共に立っていた。
降参を宣告した学生は正面にポラリスが首筋に《漆黒の
その少し離れた場所に決闘の一部始終、一歩も動かなかったノックスは余裕の笑みを浮かべていた。
『——の獲得点数は二百四十三点。ポラリス、ノックス・イングラムの獲得点数は九百二十七点です』
アナウンスによって決闘で獲得点数が発表されるとノックスは闘技場から退場していく。
「お疲れマンゲツ。よくやった」
納剣してすぐにマンゲツの元へ歩み寄ったポラリスは共に決闘で戦ったマンゲツに労いの言葉をかけた。
「主様のお役に立てて何よりです」
ポラリスから労いの言葉を受けたマンゲツは綺麗なお辞儀をして返事を返した。
対戦相手が敗北の屈辱で顔を歪ませていると闘技場の観客席にいる観戦している学生達はそれぞれポラリスに視線を向けて大声を発した。
「平民の分際でいい気になってんじゃねえぞ‼」
「卑怯な手を使ってそこまで勝ちたいか‼ 平民が‼」
「何だよ今の戦いは‼ 霊獣と一緒に戦う卑怯者が、でかい顔するんじゃねえ‼」
「まともに魔導を使えないくせして魔装術も使う蛮人が‼ この学院に籍を置くな‼」
決闘に勝利したはずのポラリス達へ観客席にいる学生達は様々な罵詈雑言を叫ぶ。
「寮に戻ろう。マンゲツ」
「分かりました。主様」
罵詈雑言を浴びるポラリスは学生達からの声を無視してマンゲツに寮へ戻る事を告げるとマンゲツは素直に了承する。
「そんなに大事な霊獣なら夜に存分大事にしてろ‼ 下賤な平民が‼」
観客席から聞こえた一人の学生の誹謗中傷にマンゲツはその発言をした学生の方をすごい形相で睨む。
マンゲツに睨まれた学生とその傍にいる学生達はマンゲツの殺気を帯びた眼光に怯む。
「マンゲツ!」
観客席に殺気交じりの眼光を向けたマンゲツにポラリスは声を張って名前を呼んだ。
マンゲツはポラリスに呼ばれた瞬間、はっとしてポラリスに申し訳なさそうに見る。
「一緒に寮へ戻るぞ」
「……承知いたしました」
ポラリスが静かな声でマンゲツに一緒に寮へ戻るように再度告げるとマンゲツは暗い表情で了承した。そしてポラリスとマンゲツは罵詈雑言の渦の中、闘技場から退場する。
ノーリットとの決闘で勝利した後、ポラリスは淡い期待をしていた。
今まで自分を見下していた学生達が決闘を見て自分を認めてもらえる。
そんな淡い期待はただの妄想でしかなかった。
決闘の次の日から続々と他の学生達がノーリットを含め敗北した学生達の雪辱のために次々に決闘を挑んだ。そしてポラリス達はその対戦相手を次々に勝利してノックスが想定する対戦相手から獲得できる理論上最高得点を獲得して勝利していった。
そんな日々が続くにつれて観客の学生達から浴びる誹謗中傷が増していった。
ポラリスとマンゲツが寮の自分達の部屋に戻ると先に戻っていたノックスがテーブルの前の椅子に座っていた。
「やっと戻ってきたのか。遅いぞ。まだ明日から溜まってる受諾した決闘の準備をしないといけないんだぞ」
椅子に座るノックスは戻ってきたポラリスに次の準備をする事を伝えた。
「少しは休ませろ。今日だけで三人連続で決闘したんだ。マンゲツも疲れてる」
ポラリスは次の準備を急かすノックスに休憩を要求した。
「私の事はお気になさらずとも大丈夫です。主様」
マンゲツは口では平気と言っているが、ポラリスが言うようにマンゲツの顔に疲労の色が見えていた。
それは体力的な要因よりも精神的な要因が大きかった。
ノーリットの決闘以来、マンゲツは他の学生達から『ポラリスの霊獣』という認識が根付いた。その認識によってポラリス達と同じ、疎外する対象に分類された。
長い間、その対象として扱われたポラリスはまだ慣れているが、呼び出されて日が浅いマンゲツにとって今の状況はかなり負担がかかっているはずだ。
「マンゲツがそう言ってんだから早く始めようぜ」
ノックスはマンゲツの姿を一切見ないでテーブルの上の対戦相手の情報をまとめた書類に目を向ける。
「でも。ここまで俺の考えた
ノックスは今の状況が予想通りの流れに動いている事が愉快なのか口角を上げた。
「脚本通り……?」
ポラリスはノックスの発言を聞いて反射的に呟いた。
「そうだ。ノーリットとの決闘で他の学生達は俺達の戦い方に怒り心頭だ。なんたって魔導と魔装術を同時に使う戦い方は貴族同士の手合わせでは御法度だ。しかも霊獣と一緒に戦うなんて貴族からすれば野蛮な戦い方という認識だ。そして本来一対一の決闘で俺達は三対一で戦っている。他の貴族からすればこれ以上なく邪道極まりない合理的な戦術だ」
ノックスは饒舌な喋りで本科に進級してからの決闘の戦術が大勢の貴族から反感を買う戦術である説明をした。
「それに輪をかけてマンゲツが人間の少女の姿ってのが俺の脚本の要だ。霊獣の姿はその霊獣を使役する霊獣使いの格として見られる。雄々しい獣の姿ほど格は高くなり弱い姿は格が低く見られる。極めつけは人の姿の霊獣を使役する霊獣使いが霊獣を夜の玩具にするために呼び出したって噂が貴族社会の中で流布されてる」
ノックスが流暢な口調でマンゲツが周りから向けられる心無い視線の理由を話すとマンゲツは表情に陰りを見せる。
「これで名実ともにポラリスは貴族の嫌われ者。そしてその嫌われ者と
ノックスはここまで他人の認識を利用してノーリットとの決闘の後の脚本まで考えてポラリス達に合理的な戦術を叩きこんだ。
その事に上機嫌なノックスの元へポラリスは駆け寄った。
「ざけんじゃねえぞ‼」
ノックスのすぐ近くまで駆け寄ったポラリスはノックスの胸倉を掴み殺気に満ちた眼光を向けた。
「オレやマンゲツ、他の学生まで自分の駒にできてそんなに楽しいか‼」
ノックスの胸倉を掴むポラリスは今まで溜めてきた不満が爆発して今まで発した事がない程の怒声を上げた。
「オレが何を言われようがどうだっていい‼ けどお前の脚本のせいでマンゲツが苦しんでる‼ そこまでして自分のために画策するお前は最悪のクソ野郎だ‼」
ポラリスはここに来て間もない自分の『パートナー』まで巻き込んで嫌われ者になった事へノックスに今までの怒りをぶつけた。
ポラリスがノックスに胸倉を掴んで激昂する姿にマンゲツは怯えていた。
「それがどうした?」
激昂するポラリスに対して淡々とした口調でノックスは一蹴した。
「俺とお前は何が何でも各年次で主席になる。そして俺には魔導の才能がない。だから俺は目的のために使えるものなら何でも使う。人、行動、言葉、認識、思い、感情、何でもだ。お前だってそうだろ?」
「は?」
「本科に上がってから魔導、魔装術、霊獣、使えるもの全て使って決闘した。お前も観客からの誹謗中傷で気付いていたはずだ。今の戦い方は合理的だが周りから認められていない。けどその手段でしか勝ち目がない。だから今まで俺に抗議しなかった。違うか?」
「っ‼」
ノックスの淡々と話した発言にポラリスは苦虫を噛み潰した表情を浮かべた。
ノックスが自分の目的のために使えるものを全て使う手段にポラリスはこれまで否定しなかった。
否定できなかった。
ポラリスは本科に進級してからの決闘で勝利できた理由は自分の使える魔導を全て使って戦っているからだ。
魔導も、魔装術も、霊獣使役も、全て使ったから勝利できた。目的を果たすための活路を見出した。
だからノックスのやる事に否定できなかった。
自分もノックスと同類だから。
口ではマンゲツを気遣っているように言っているが、マンゲツがいなければこれまでの決闘は絶対に勝てなかった。それは実際にマンゲツと共に戦っているポラリスが一番実感していた。
「お前一人で決闘相手に勝てたか? お前一人で理論上最高得点を獲得できたか? お前一人でこれから他の学生に決闘を挑ませる状況をつくれたか? 一人で何もできないお前が口を出す資格があると思ってるのか?」
ノックスはポラリスへ追い打ちをかける。言われた通り、最悪の
ノックスの追い打ちの発言に何も言い返せないポラリスは唇を噛み、胸倉を掴む手が震えた。
「クソッ‼」
ノックスの胸倉を掴んでいた手を突き飛ばすように放したポラリスは一言悪態を吐いて部屋から出て行こうとする。
「主様⁉」
部屋から出ようとするポラリスにマンゲツは声をかけるが、ポラリスはマンゲツの声を無視して部屋から出て行った。
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