五幕 二人の定期試験
第15話 アイリスの悩み
ポラリスとノックスが学生会と風紀委と共に魔装強盗事件の解決のための協力者となって数日が経過した。
二人は相変わらず他の学生からの決闘に明け暮れていた。
貴族社会の敵と認識されてから二人に勝利して敵を倒した英雄になろうとする学生達を二人は次々と倒して勝利していった。
ポラリスとノックスは寮から出て学院の校舎に向かうと、風紀委主幹補佐のカミラが現れた。
「学生総代と風紀委主幹からの指令です。『容疑者二人を君達二人がそれぞれ尾行するように』との事です」
連日決闘に明け暮れていた二人の丸一日決闘のない日の朝にカミラがラインハルトとエミリーの指令を代わりに伝えに来た。
「挨拶もなしに指令を言うだけなのは礼儀がなってないんじゃないか? 風紀委主幹補佐様?」
「あなたが礼儀を説くのは不愉快です。総代と主幹の指令でなければあなた方と顔も合わせたくありませんでした」
「もう伝える事言ったんだろ? そう思ってんなら早く帰れば?」
カミラはポラリスとノックスを睨みつけて用件を伝えると、ノックスは用件を伝え終わったカミラに淡々とした口調で帰るよう提案した。
無礼な言葉遣いで追い返すノックスにカミラは眼鏡越しでも伝わる鋭い眼光を向けて踵を返した。
「さすがに先輩に対してあの態度はないぞ」
「最初に敵意を見せたのはあっちが先だ。俺が先に謝るメリットがない」
ポラリスが上級生に対する態度を注意するとノックスは悪びれもせずメリットのない言動をしないと豪語した。
「本当にお前らしい考えだよ。どうやったらそんな図太い神経になるんだ?」
呆れた表情でポラリスはノックスの言動に神経を疑いながら、このやり取りに慣れてしまった自分にも呆れてしまった。
「それで学生会と風紀委からの指令だけどお前はどうする?」
「指令を無視すれば事件解決の貢献度が下がって点数を引かれる。ここは素直に従う方がいいだろう」
ポラリスがカミラから聞いた指令内容に従うのかノックスに尋ねると、ノックスは事件解決の貢献度に響くと言って素直に従う事にした。
「俺は二回生のフォールスを尾行する。ポラリスは一回生のアイリスを尾行しろ」
「あ、あぁ。分かった」
ノックスはポラリスにアイリスを尾行するように指示を出した。
ポラリスはこの前にセリアと一緒にいた時の気まずい空気を思い出してノックスへの返事が一瞬遅れた。
「じゃあ、ここから別行動だ。早めに容疑者を見つけろよ」
そう言うとノックスはフォールスの居場所に心当たりがあるのか迷いもせず。すぐに走っていった。
それに比べてアイリスのいる場所に見当が付いていないポラリスはどこにいるか数瞬考えた。しかし方向音痴のアイリスが特定の場所にいるとは到底考えられなかった。
「
アイリスの居場所の見当がつかないポラリスは半ば
ポラリスは学院の至る所に足を運んでアイリスを探すが、ポラリスが足を運んだ場所にはアイリスの姿はなかった。
「あー、疲れた」
学院の第二闘技場の近くの芝生に座って歩き回った足を休ませるポラリスは芝生に座った後空を見上げた。
雲一つない青空が広がる快晴の今日はまだ昼前という事もあり心地良い暖かさの気温だった。
ポラリスは快晴の空を見上げていると、急にポラリスの近くから物音が聞こえた。物音が聞こえる方向を見るとそこには目的の人物が視界に入った。
「あんたと会う時、よく転んでるな」
物音が聞こえた方を見るポラリスの視界に映るのは既視感のある転び方をしているアイリスだった。
ポラリスは立ち上がってアイリスのすぐ近くまで歩み寄った。
目の前まで歩み寄ったポラリスは目の前で盛大に転んでいるアイリスに手を差し伸べる。
「ほら」
差し伸べたポラリスの手を見たアイリスは手を伸ばしてポラリスの手を掴む。アイリスが手を掴むとポラリスは掴んだ手を上に持ち上げて転んでいたアイリスの体を起こした。
「ありがとう」
起き上がったアイリスは手を差し伸べたポラリスに礼を言った。
礼を言ったアイリスにポラリスは「どういたしまして」と伝えた。
「それで今日はどこに向かう途中で迷ったんだ?」
ポラリスは冗談交じりで方向音痴のアイリスにどこに向かっているう途中なのか尋ねた。
「もう目的地に着いた」
「もしかして第二闘技場か?」
目的地に着いたと言って胸を張って自慢げにしているアイリスだが柔和な雰囲気が拭いきれない姿にポラリスはなぜがほのぼのする。
「違う。ポラリスのいるところが目的地だよ」
「どういう事だよ?」
もし事件解決の協力者になる前に言われていたらアイリスを全く警戒しなかっただろう。
事件解決の協力者となったポラリスは目の前の容疑者の一人であるアイリスが自分に会いに来た事を伝えた瞬間、声音はいつも通りに心掛けて心の中で警戒心を総動員する。
「あなたに相談がある」
「相談?」
アイリスは先程まで自信満々に胸を張っていた姿から急に悩みを抱えた暗い表情に変わった。
その様子にポラリスは内心総動員していた警戒心が少し弱くなって、その隙間からアイリスを心配する感情が芽生える。
「オレに何を相談したいんだ?」
ポラリスは警戒心をなくさないように心掛けながら芝生に座りアイリスが相談したい内容を話すように尋ねた。
アイリスも芝生に座ってポラリスの方を見る。
「わたし。セリアといろいろあってぎくしゃくしてる」
「そりゃ、すぐに分かったよ」
「もしかしてわたしの心が読めるの⁉」
「二人の様子を見ればすぐに分かるって意味だよ」
アイリスの相談内容をすぐに見破ったポラリスに驚愕すると、すぐに見破られて驚愕したアイリスの言動にポラリスは呆れてしまった。
「で、そのぎくしゃくするきかっけは何だったんだよ?」
ポラリスはアイリスとセリアが気まずくなったきっかけを尋ねた。
「わたし、十歳の時に国から七大魔装の一つを
「七大魔装⁉ 七大魔装って、あの七大魔装か⁉」
アイリスがさらっと口にした発言にポラリスは驚愕した。
それもそのはずだ。七大魔装は魔導大国となったマギノリアス統一国が厳重に保管している特に強力な七種類の最強の魔装だ。
「そう。ジオグラン家は国が保管している七大魔装から使い手として選ばれる程、魔装術に長けた家系なんだ。わたしには他の誰よりも魔装使いとしての才能があるってお父様にも言われた。それで十歳の時に七大魔装の一つがわたしを使い手として選んだの」
アイリスは話していくと徐々に陰りの表情が濃くなっていく。
「わたしとセリアは母親が違う異母姉妹なんだ。セリアのお母様の方が爵位の高い方で、わたしのお母様はお父様の妾なんだ」
アイリスの口から出てくる複雑な家族間の話を聞いているポラリスは難しい表情になる。
「でも小さい頃はセリアからよく話しかけて、『遊びに行こう』って言ってくれた。どんくさかったわたしに優しく手を差し伸べてくれた。わたし達がお父様から魔装術を教わってから、どんくさいわたしより先にセリアがいろいろと魔装術を使えるようになっていった」
アイリスは小さかった頃のセリアとの話をしている時、陰りの中に少し懐かしそうな、嬉しそうな表情を見せた。
「わたしはセリアに追い付こうと努力した。セリアにできる事ができたらセリアも褒めてくれると思って頑張った。それでセリアができる事をできるようになってセリアとお父様に見てもらった。その時からセリアがどんどんわたしに話しかけなくなった」
アイリスからここまでの話を聞いたポラリスはこれから起きた出来事の大体の想像ができた。
「それでわたしが十歳の時に七大魔装の一つを賜った。お父様とお母様はすごく嬉しそうだった。けどセリアが泣いて怒った。『アイリスなんかいなければよかった‼』って言われた」
話してどんどん暗い表情になるアイリスから告げられた言葉は想像以上に重かった。
「いつもわたしに優しくしてくれたセリアがわたしに怒った理由がその時分からなかった。けど大きくなって理解できた。わたしがいたせいでセリアからお父様やいろいろな人の興味を奪ったって気付いた」
アイリスは下を見ながら話すと座っている
ポラリスの視線には下を見るアイリスの顔は見えないが、話している声がすごく震えているのはポラリスはすぐに分かった。
「それであんたはどうしたいんだ?」
ポラリスは声を震わせているアイリスに問いかけた。
「……前みたいに話がしたい。セリアと笑って話がしたい」
ポラリスの質問に喉を詰まらせながらアイリスは本心を話した。
嗚咽交じりで泣いているアイリスから話を聞いたポラリスは息を吐いた後、口を開く。
「それは本人に言う事だろ?」
ポラリスが口を開いて伝えた言葉にアイリスは顔を上げてポラリスの顔を見た。
「オレには家族がいないから、あんたの悩みが全部理解できるわけじゃない。けどその言葉が本心ならそれは伝えたい人に直接伝えるべきだ。オレもできる限り力を貸すからその言葉はあんたの口から姉にしっかり伝えろ」
ポラリスは顔を上げて見てきた大粒の涙を流して泣いているアイリスを見て自分が思った事を口にした。
ポラリスの言葉を聞いたアイリスは一瞬、動きが止まった。その後アイリスは再び大粒の涙を流し出した。
「ありがとう……!」
「泣くか喋るかどっちかにしろよ」
アイリスは号泣しながらポラリスに礼を言うと、ポラリスは苦笑しながら注意した。
「まあ、オレは場所を設けるだけで言いたい事を言うのはアイリスだ。それは分かってるよな?」
「うん」
ポラリスが場所を設けるだけだと伝えるとアイリスは小さく頷きながら一言返事をした。
〈変な奴で学年一位と言っても普通の女の子なんだな〉
泣きながらわずかに笑みを浮かべたアイリスを見てポラリスは少し安堵した。
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