第14話 ノックスの意図
「契約書の写しは確かに預かった。君達もなくさないように」
学生総代室を出て行こうとするポラリスとノックスに契約書の一枚を紛失しないようラインハルトは声をかけた。
ポラリスだけ「分かりました」と返事をしてポラリスとノックス二人は学生総代室を出た。
廊下に出た二人はしばらく無言のまま寮へ向かった。
数時間前、盛大に口論をした二人は気まずい雰囲気が流れる。
「……言い過ぎた」
気まずい沈黙を先に破ったのはノックスだった。
「俺は何一つ間違った事は言わなかった。けどマンゲツのいる場所で話す内容じゃなかった」
ノックスはいつもより少し声音を落として話し出す。
ノックスの切り出した話にポラリスは視線をノックスに向けた。
「お前の性格を知ってて俺の真意を伝えたのも俺の
「……ノックス。それ謝ってるのか?」
ノックスがいつもより声音を低くして話している事にポラリスは謝罪なのかと尋ねた。
「お前に謝る気なんて毛頭ない。けどこれで俺の指示を無視されると俺の脚本に支障が出ては困る。それだけだ」
ノックスは顔色一つ変えずにポラリスに話した。
〈こいつ。相変わらず上から目線のくせにマンゲツの事だけは悪いと認めやがった〉
ポラリスは腑に落ちない点は感じつつも、ポラリスがノックスの言動に一番気に入らなかった点について悪い事をしたと認めた事に溜息を吐いた。
「そう思うんならオレじゃなくてマンゲツに直接言え。オレもマンゲツのいるところでお前の胸倉を掴んで喧嘩するべきじゃなかった」
「俺の胸倉掴んで激怒してた時、マンゲツかなり怯えてたもんな」
「見えてたならオレを挑発する言葉を言うな」
「あれは挑発じゃなくて事実を言っただけだ」
互いにマンゲツの事だけを心配しつつ自分は相手に悪い事したと一切口にしなかった。
けれど今まで通りの喧嘩腰の会話をしていた。
いつの間にか二人の間にできていた気まずい空気も消え去って、いつも通りの雰囲気に戻っていた。
「そろそろ寮に着くからここで言っておく——」
男子寮が見えてくるところでノックスはポラリスの方を見て口を開く。
「——事件が解決するまで今回の事件で関わった全ての人間を信用するな」
「どういう意味だよ?」
ポラリスはノックスの言った真意が分からなかった。
「事件が解決するまで決闘や、この先に行われる定期試験の時以外、俺の事も信じるな」
ノックスは自分すらも信用するなと忠告する意味も今のポラリスには理解できなかった。
◇
「いや、流石は二回生序列一位の
ポラリスとノックスが出て行った後の学生総代室。
すでにエミリーとカミラは風紀委室へ向かい用意していた書類を片付けに戻っていた。
今、学生総代室にはラインハルトとフィルラインだけだった。
「しかし、ただの一回生の態度にしては目に余り過ぎます。なぜ全学生の代表である総代は何も言わなかったのですか?」
フィルラインはノックスの上級生に対して敬語も使わず、そして上から目線の言動に腹を立てていた。
フィルラインとは逆にラインハルトはなぜか上機嫌だった。
「だって協力関係という
ラインハルトは上機嫌な理由を口にし始める。
「それは僕達が提供する報酬に目がくらんだのでしょう?」
フィルラインは学生会と風紀委が協力するにあたっての報酬目当てで拒否をしなかったのだろうと話すとラインハルトとはくすっと笑う。
「本当にそう思うかい? フィルライン?」
「どういう意味ですか?」
ラインハルトは浮かべた笑みを変えて真剣な表情を浮かべた。それを見たフィルラインはラインハルトの真意を尋ねた。
「フィルラインも知ってるはずだ。今や彼ら二人は学生達の嫌われ者で決闘に事欠かない存在だ。その彼らに得点の譲渡ほど価値のない報酬はない。すでに十分優秀な魔装を持つ彼らに魔装工房を提供するメリットも薄い」
ラインハルトは最初に報酬を提示した時に、ノックスが口を挟む事は、話す内容をすぐに把握して、こちらより先に話す内容を口にした時点で理解できた。
それだけ頭の回るノックスなら今回提示した条件を承諾するメリットよりもデメリットの方が遥かに大きい事は理解できたはずだ。
ラインハルトはノックスが口を挟んだ時点で追加報酬の話を切り出すと確信していたが、その確信はあっさり裏切られた。ノックスが変更したのは追加報酬ではなく点数の前払いだけだった。
「つまり、ノックスはすでに犯人の見当が付いていてその犯人を捕まえる
「⁉」
ラインハルトの話を聞いてフィルラインは驚愕の表情を露わにする。
「俺はこの事件を解決して学生達を安心させたい。エミリーも同じ思いだ。それが可能なら彼の態度を大目に見て協力を頼むくらい容易い事さ」
ラインハルトはフィルラインを見ていつもの笑みを浮かべた。
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