第12話 予言者誕生

「しかし、もう大陸の同盟国とは戦の方向で動いているのですぞ、国王! 今更和平への道を探るなどっ、」

 トルボ元帥が声を荒げる。


 はいはい、体裁とか面子ってやつね。


 鈴子は大きく息を吐き出した。

「くだらない男のメンツなんか豚に喰わせてしまいなさいよ。他の国のお偉いさんになんて言えばいいか、って? ふふん、簡単だわ。『異世界から召喚した予言者のお告げ』って言えばいいのよっ」

 鈴子がニコニコしながら提案した。


「予言者…?」

「そう。だって、私どう見ても賢者や勇者って感じじゃないじゃない? でも、予言者とか占い師ってことにしたらそれっぽく見えなぁい?」

 ノリノリである。


「それは…まぁ確かに、賢者よりは」

 ごにょごにょとトルボ元帥が口籠る。


「私とゼンちゃんの話を聞いても尚、戦争がしたいって言うならあんたたちは救いようのないバカで、そんなバカに力を貸そうなんて思えないわ。でもね、考え直してもらえるなら、私一生懸命やるわよ?」

「鈴子殿…何故そこまで」

 国王ハースが声を絞り出す。

「あら、そんなの簡単よ。『困ったときはお互い様』ってね!」


 正直、急に魔法陣で別世界に連れてこられて戸惑わなかったわけではない。殺されるかもしれないし、二度と帰れないかもしれないのだ。しかし、鈴子は知っている。この手の小説は大体ハッピーエンドである、と。あの時、息子の持っていた小説を数冊読んでいたものが、鈴子にとって指南書となっていた。異世界ハンドブック、とでも言おうか。急に予言者の話を持ち出したのも、読んだ小説にそんなシーンがあったからなのだ。


「王様、どうかしら?」

 最終決定を委ねる。彼が頷きさえすれば、ひとまず『いきなり戦争』はしなくて済むのだ。

「……うむ…。鈴子殿が予言者ということで、先程の話を他の国々の者たちが納得するのだろうか…」

「ああ、それは多分大丈夫!」

 鈴子、断言する。

「好きこのんで戦争しようなんて人はどの世界にもいないわよ。ただ、集団心理っていうの? みんなが言うなら、じゃあ俺も、って人の方が多いはずだもの。一応聞くけど、戦争しようって決めた会議に女性はいたのかしら?」

「…いや、」

「まーったく! 発展途上だわねっ」


 急にプリプリし始める鈴子なのであった。

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