第32話 目覚め
「それより、どう?」
ランスを床に寝かせたゼンに鈴子が訊ねる。
「やっぱり操られいてたようだな。入り組んだ術が施されてる」
クルスの作戦通り、鈴子とゼンはユーリル城へと乗り込んでいた。鈴子は小国から派遣された聖女、ゼンはその従者という設定でランスに近付き、まんまとランスの自室まで入り込むことに成功していたのだ。
鈴子の昼メロ芝居も功を奏し、ランスを捉えることも出来た。
そして主犯格の魔導士はというと…、
「そっちはどうだったの?」
ゼンが追い詰めていたはずだ。
「ああ、檻の中で寝てる。俺が起こさない限り、起きないぜ」
ふふん、と自慢げに言った。
「ゼンちゃん、本当にすごいわ~」
鈴子がポンとゼンの肩を叩いて褒める。と、何故かゼンが顔を赤らめた。
「その姿で言われるとヤバいな」
自分好みにしたせいである。
目を覚ましたランスは、長い悪夢から醒めたかのようにスッキリした顔をしていた。そして同じくらい、動揺していた。
「一体、私は…、」
今までの数年間の記憶を辿る。自分が何をしてきたのかを、鮮明に覚えている。自分の兄を陥れ、王位を奪った。それがすべて、たった一人の魔導士が仕組んだことであると知ったのは、ついさっきのことだ。
「もう大丈夫ですよ、陛下。陛下は悪い男に操られていたのです。クルス様に掛けられていた呪いも解きました」
鈴子が声を掛ける。
「兄上っ、兄上は無事なのか!?」
兄を思うランスの言葉を聞き、鈴子は心から安堵した。ああ、この兄弟は仲たがいをしていたわけではないのだ、と。
「陛下、まずはお聞きしたいことが」
よろけるランスを支えながら、鈴子。
「なんだ」
「ユーリル国は、戦をしたいのでしょうか?」
何処と、とはあえて言わず、訊く。
ランスはハッと目を開き、今までの記憶を探っているようだった。
「私は…、確かに私は軍人だ。しかし、相手構わず、理由すら後付けでの戦など、するつもりは毛頭ない」
そう、言い切った。
「よかった! ここに来た甲斐がありますわ」
鈴子はニコニコしながらゼンを見遣り、大きくブイサインを出して見せた。
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