第33話 おばちゃんであること

「本当にいいのか?」


 ゼンが残念そうな顔で言う。

「いいわよぉ。名残惜しい気もするけど、期間限定だからこそのありがたみ、ってことでもあるんだし、充分堪能したわ」

 鈴子は胸の前で手を組み、祈るような格好でゼンに向き合った。


 なにを揉めているかというと、鈴子の変身のことである。


 ユーリルでランスを呪縛から救い、兄であるクルスと再会たガイアール軍近衛隊長リンドルをメロメロにし、ガイアール国王ミルデロを驚かせ、更に今、ミリールまで戻り国王ハースとの謁見と報告。皆、鈴子の姿に驚愕するとともに、大絶賛だったわけである。


 しかし、当の鈴子が『元の姿に戻る』と言い出したわけで……外野から『今の姿でいいのでは?』という声が、男性陣を中心に湧いているのだ。どこの世界でも絶世の美女は大事にされる……。


「しかし鈴子殿、これからまだ交渉事やらもあるのだし、」

 なんと、国王ハースまでもが渋る始末。

 鈴子は腰に手を当て、取り囲む周りの男どもを一喝する。


「あのねぇ、皆さん私がおばちゃんであることがそんなに残念なのかしらっ? この姿はあくまでも作戦の一環、いわばボンドの変装と同じなのっ。ま、ボンドは変装やめても色男だけども…、とにかく、私は元の鈴子に戻りますよっ」

 半ばプリプリしながら、鈴子。

「大体、交渉事があるから何なの? おばちゃんは交渉が出来ないと思ってるの? 冗談じゃありませんよっ。綺麗な女性の姿で交渉するのと、おばちゃんで交渉するの、どっちも同じよ! 私はね、心で交渉するんですからねっ」


 なんでも物は言いようだ。


「ま、そうだよな。スズはスズだもんな」

 ゼンが笑いながらそう言うと、パチンと指を鳴らした。ふわ、と鈴子の周りを風が駆け、元の姿へと戻る。


 男性陣から無念の声がチラホラあがる。


「ふぅ、戻ったわねぇ。そうそう、見下ろした時に見えるのは、お胸じゃなくてお腹なのよねぇ。あはは、ウエストよ、さらば!」


 パン! と自分の腹を叩く。相撲取りもビックリな音が響いた。

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