第10話 精霊
「この城のどこかに、目覚めさせてはならないという言の葉の精霊を封印したものがある、と聞いております。まさかその封印を解いたと…? いや、しかしその封印は特別な印が結ばれており、普通の者では破れないという話でありましたが」
チラ、とゼンを見遣る。
「ああ、そうさ。俺は昔、油断して鉄瓶に入れられ、ご丁寧に印まで結んで閉じ込められていた言の葉の精霊だ。だが、ここにいるスズがいともあっさり印を解いてくれた!」
「あら、そうだったの」
そんなに難しいことをやったつもりはないのだ。何しろ、書いてあったのは『回文』だったし。それともこの世界には回文っていうものがないのかしらね? などと考える。
「俺はスズに付き従うまでだ」
皆の前で、ガッツリと立場を表明した。
それによって、ここにいる全員の鈴子に対する見方が変わることとなる。
「まぁ、そんなわけだからゼンちゃんは悪いことしたりしないわ。せっかくだからゼンちゃんにも話を聞いてみましょうよ。あなたたちが言う『亜種』側の意見なんて、どうせ聞いたことないんでしょ?」
やんわりと、痛いところを突く。
「ゼンちゃん、精霊っていうのはどんな人たちなの?」
傍らに立つ青年に尋ねる。ゼンは頭の後ろで手を組むと、遠くを見て、言った。
「そうだな……精霊ってのは、川や木、花なんかに宿る妖精の仲間で、力を使う者もいれば、そうでない者もいる。精霊同士で群れることはほとんどなくて、各自好き勝手に生きてるな。たまに俺みたいに、なにかの必要があって人間と契約結ぶこともあるが、大体は精霊使いでもない限り、振り回されるのは人間の方だ。その点スズはすごいな! 最初から思ってたけどさ、マジで凄い!」
楽しそうに鈴子を褒める。精霊というのは、好奇心に溢れ悪戯心を持つ可愛い生き物なのかもしれない。
「八百万の神様みたいなものかしらね」
鈴子がぽつりと言った。
「やお…なに?」
「ああ、私のいる国ではね、花や草だけじゃなく、ありとあらゆるものには神が宿るって言われてるの。だから、使う道具だったり、身に着ける衣服だったり、植物でもお日様でもトイレにも神様がいて、みんな大切なのよ、ってことね」
そう。神はすべてのものに宿っている。何事に対しても感謝の気持ちを忘れてはいけないという教え。
「ゼンちゃんは言の葉の精霊なのね。とっても素敵だわ!」
褒めちぎられ、まんざらでもないゼンであった。
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