第15話 不信感

 もちろん今の予言はハッタリである。あらかじめゼンに頼んで調べをつけていただけのこと。ゼンは言の葉の精霊。人の考えを覗くことが出来るのだそうだ。もちろん、全てを見られるわけではないようだが。


「私がこの世界に呼ばれたのには意味があります」


 鈴子はかしこまり、やや声を張って厳かな雰囲気を演出する。大体こんな感じかしらね。


「今、この世界では亜種を相手に戦を仕掛けようとしている。……そうですね?」

 皆を見渡し、訊ねる。所々で頷く姿も見受けられた。

「ですがそれは間違いです」

 鈴子ははっきりそう言い放った。案の定、集められた使者たちがざわつく。

「戦いに果てに何が残るのか、今から私がお見せいたします」


 そう、宣言すると、ゼンに合図を出した。鈴子は頭の中にあるイメージを映像化する。父親から聞いた戦争の光景。本で知った知識。映画のワンシーン。全て戦闘シーンではない。親を亡くして泣きじゃくる子供、幼子を抱え伴侶を失い途方にくれる母親、腕や足を失った兵士たち……。


 戦争が生み出すのは平和でも自由でもない。ただの、悲惨な日常だけだ。こんなことに何の意味がある? 戦わずして平和を手にしようと、何故思えない?

 鈴子は、ありったけの『悲しみ』を頭の中に思い描いたのである。


 ふと目を遣ると、ゼンが顔をしかめているのが見えた。ゼンだけではない、国王ハースも、トルボ元帥もフィンノ将官も同じように渋い顔をしている。使者たちの中には頭を抱えうずくまる者や、泣き出す者もいた。


「今お見せしたのはあくまでも一部に過ぎません。本当の戦争は、もっと悲惨で、もっと過酷です。命を捧げる、などと口で言うことは簡単です。でもその裏にある苦痛や悲しみの深さは、想像を絶するものですよ?」

 静かに、だが強い口調で訴える。


「皆さんはここへ戦の計画を立てるためやって来ているのは重々承知しています。ですが、私は戦ではなく、和平の道を示したいのです。どうか私の声に耳を傾けていただきたい。そして各自、このことを国へ持ち帰り、今一度話し合っていただきたいのです」


 ザワ、と会場が揺れる。


「私自らが説明に伺うこともやぶさかではありません。どうか、戦わないという選択を、和平への道を私と共に歩んでいただきたいのです!」


 成功するかしらね。


 鈴子は使者たちの中にいぶかしむようにこちらを見つめる視線を見つけ、不安を抱いたのだった。

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