第5話 ババアの武器
ババアの武器といえば、怖いものなしのでかい態度! これである。が、いかんせんここはどうやら異世界。鈴子は自分の力を試すべく、武器庫へと踏み入った。
「んま~! いいわねー! 中世ヨーロッパって感じだわ~! あら、これなんか装飾綺麗ね~! でも重そうだわね。あ、こっちが杖コーナー?」
もはや、百貨店感覚だ。
「なんだかあれね、やっぱり杖持つとイケそうな感じになってくるわねっ」
手に馴染む感じの杖を持ち、指揮者のように構えを取ってみる。
「ビビディ~! バビディ~! ブー!」
シーン
「……ま、そうよね。普通に考えて、そうよね。いきなり魔法なんてね」
ちょっと恥ずかしい鈴子であった。
ふと、あるものが目に留まる。
「これって……ヤカン?」
よくある大きなヤカンに似ている。この世界でもお湯を沸かすのはヤカンなのね、などとどうでもいいことを考えてみる。
「あら、なにか書いてあるわね」
薄汚れたヤカンの側面を軽くこする。そこに書いてある文字はもちろん読めないものだ。が、言葉同様、なにが書いてあるかは、わかる。不思議なものである。
「えっと、かい…ぶん? かいぶんって、回文のこと? しんぶんし、とかの、あれ?」
『おお、なかなかの出来だな』
どこからか、声。
「誰が喋ったの? え? ヤカンが喋った? この世界ではヤカンも喋るの?」
『もっと言えるのか、回文』
「は? 回文? あるわよいっぱい。『私負けましたわ』『旦那が何だ』『あれはレア』『預金満期よ』『闇の飲み屋』どうよ!」
どや顔で立て続けに言う。
『おおお、素晴らしい! お前を主と認めようではないか!』
ボムッという音と、煙。ヤカンからである。
キャーキャーと黄色い声を上げ、煙に驚いた女官たちが逃げ惑う。鈴子は至って冷静にヤカンをテーブルに戻すと、煙の向こうに現れたソレを眺めた。
「やっぱり上半身裸なのねぇ。なんでこう、見せたがるのかしらね、若い男っていうのは。お腹冷えちゃうでしょ?」
パシ、とソレの腹を平手で叩く。
『おおっ、私に一発食らわせるとは!』
ソレは尚も驚いた様子で続けた。
『仰せのままに!』
「まぁ、ヤカンこすって出てくるんだからそういうことなのよね。願いは何回? やっぱり三回なの?」
ランプの魔人は確か三回だった。が、
『回数に規制はない』
「ええ? 随分サービスいいじゃないの! じゃ、なに? 時間制限?」
『まぁ、時間制限というならそうかもしれぬ。お前の命が果てるまで、だ』
「そんなにっ? そんなの悪いわよ~。いいわ、私がもういい、って言うまではよろしくね。でもそこから先は自由に生きて頂戴な。あと、人のこと『お前』なんて呼ぶのは感心出来ないわね。私のことは鈴ちゃん、って呼んで頂戴」
『鈴…ちゃん?』
「そうそう。で、あなたお名前は?」
「私の名は、ゼン、だ」
「そう、ゼンちゃんね。ヤカンのゼンちゃん。面白いわねー。あはは」
こうして、ババアは精霊ゼンを手に入れたのである。
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