第4話 衣装合わせ

 女官たちは首をかしげながらも、衣裳部屋へと彼女を通した。

 そもそも、賢者を呼び出す予定でいたのだ。体系などわからないからと、数種類、数サイズの衣装を用意はしていたが、彼女の体形に合う服など……。

「こっちか、こっち、ですね……」


 二枚しかなかった。


 一着目は勇者っぽいプロテクター付きのラフなもの。もう一着はゾロっとした賢者服だが、いかんせん丈は長い。


「あら! なんだかそれっぽいじゃない! だけど、あら、長いわねぇ。これ、お着物みたいに端折っちゃえばいいかしらね。よいしょ、っと。あ、あなた、なにか帯っぽいのあるかしら?」

 女官に一人に、指示を出す。言われた女官が慌てて腰紐を渡した。

「そうそう、ありがとねー。まずはこれでいったん結んで、っと、うん。あと、もっと太いのあるかしら? あ、それでいいわ、それ頂戴!」

 掛かっている衣装の、肩にかけてある太めの布を指す。

「え? ですがこれは腰に結ぶものではなくて、ですね」

「いーのいーの。はいはい、巻いて、形作って、と。よし! 即興だけど二重太鼓結び完成ね!」


 悦に入っている彼女を見ていた女官の一人が、我慢できなくなって言った。

「あのっ、あなた様は本当に世界を救ってくださる賢者様なのですかっ?」

 鈴子がキョトン、とした顔をする。


「あんたたち、人の命を見ず知らずのババアに託すの?」


 その言葉を聞き、今度は女官たちがキョトン、とした顔になる。

「私が賢者だろうと勇者だろうと、勝手に呼び出しておいて命差し出されて守ってほしい、って、そんな話ないでしょ?」

「え、あの…」

 とても真っ当な意見だと思う。思ってしまった。ご都合主義にもほどがある話だ。

「まぁ、そうはいってもさ、困ってるからこういうことしたわけでしょ? 話くらいは聞くわよ~! 私だって鬼じゃないんだから!」

「おに…?」

「でもねぇ。私、何かの役に立つのかしらねぇ? もしかして魔法とか使えるようになってるのかしら? ねぇ、杖とかないの?」

 棒を持つ仕草で、促す。


「武器庫ですね! こちらです!」


 鈴子は促されるままに今度は武器庫へと入っていったのである。

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