第2話 よくあるやつ

 安西鈴子、五十八歳。


 息子はやっと大学生。まだまだ手もお金も掛かるお年頃である。

 旦那はしがないサラリーマン。無口だし腹は出てるし、面白くもないけれど、結婚なんてそんなもんでしょ、と思っている。


「あれでしょ~? ニートがチートで転生すると世界征服無双、みたいな!」

 鈴子は、どんよりした表情でうなだれている近くの魔導士に、意気揚々と言ってみせた。

「息子が読んでた本、ちょっとだけ読んだことあるのよ~! 転生モノっていうの? あれ、悪くないわよねぇ、現世では目立たない地味な子が急にかっこよくなっちゃったり絶世の美女になっちゃったりしてさぁ、これが私!? みたいなやつ~!」

 魔導士の肩をバンバン叩きながら、尚も続ける。

「あら、でもおかしいわね。私別に死んでなかったと思うんだけど? それともなに、気付かなかったけど隕石でも落ちた?」


 ハッとしながら体を確認する。


 そして、

「えええ!? あらやだ! 何も変わってない感じだけどぉ? 絶世の美女な感じどこにもないわねぇ? ……とすると、ニートがチートの方がメインってことなのかしらっ?」


 これは…放っておくとずっと喋っているかもしれないな。

 そう思った国王ハースがコホン、と咳払いを一つしてみせる。

 鈴子がパッと国王の方を向く。

 そして、言った。


「飴、舐めます?」


 と。

 違う。そうじゃない。


「貴殿は…その……賢者…なのか?」

 答えを知るのは怖かったが、他にどうしろというのか。絶対違うにきまっているではないか。だが、そんなの認められない。

「あー、今回、そういう立ち位置? 魔法使いとか勇者じゃないのねぇ。へぇぇ。でも賢者って何する人だっけ?」

 質問を質問で返される。

「いや、あの、我々が貴殿を呼び出したのには訳があって、だな」

「ああ、でしょうねー。おおかた、世界を救ってくれっていうんでしょ? あはは、そういうやつよね、この光る輪っか!」

 足元の魔法陣を指し、言う。


 もしや…これが初めての召喚ではないのやもしれん。見た目に騙されそうであったが、国を挙げての召喚魔法は大成功でっ、


「でもねぇ、私、ただのおばちゃんなのよねぇ~」


 国王ハースの淡い期待は、その声にかき消されたのである。

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