第17話 着替えだ!
ポンジャーたちが本部に小走りで向かっているとき、浅野のスマホがまた振動した。
「あれ、どうしました村崎社長」
「追加で連絡よ。本部には戻らないで、戦隊中央本部会議室に来てちょうだい」
「分かりました」
浅野は電話を切った。今はイエローとブルーも走っているので聞き耳を立てていない。それで浅野は説明する。
「目的地が変わったわ。村崎社長は戦隊中央本部に来てほしいそうよ」
「なんだって? 戦隊中央本部? それは大事だ! いったい何が……」
「まあ、村崎社長は全国戦隊連合の会長でもあるからね。何か考えるところがあるんだろう」
「でも何を考えているのかは見当もつかないわね」
浅野たちはさらに走って、戦隊中央本部に着いた。
「遅いわよ!」
村崎社長が建物の入口まで迎えに出ていた。
「ええっ、あの居酒屋から走ってくれば、これくらいは時間がかかりますよ」
村上が思わず文句を言った。グリーンとピンクが抜けてしまったせいで、村上はポンジャーにおいて一番足が遅い人間になっているのだ。現在も、浅野と平田は涼しい顔をしているが、村上だけが肩で息をしている。
「そういう問題じゃないでしょう。あの距離からだと、確実に電車を使った方が早いはずよ。頭を回しなさい、頭を」
「そういやそうですね」
「まあいいわ。あなたたちもまだ遅い方ではないしね。汗をかいてるようだし、着替えて会議室に入ってなさい」
「了解です」
ポンジャーの三人は奥に向かった。
「そうか、電車を使えばよかったのか……無駄な体力を使ったな」
村上が反省したように言った。
「ま、まあ、体力づくりにもなるし、悪くはないんじゃない?」
何度も「ほらほら、村上、もっと全力疾走しなさい!」とか楽しそうに言っていた張本人である浅野は、目をあらぬ方向に向けている。
「無理だよ。もし戦隊中央本部が悪の秘密結社に襲われていて、僕がすぐに戦わないといけなかったとしたら、僕はすぐにやられてしまったはずだ。何事も効率的にやらないと……」
「ほらほら、そんな不吉なことを言わない! じゃあ、私は着替えるから!」
浅野は早口でまくし立てると、ちょうど更衣室の前に来ていたのをいいことに、さっさと更衣室に入ってしまった。村上と平田は顔を見合わせると、黙って男子の方のそれに入った。
「あれえ、誰もいないぞ。もしかしてこれ、意外と俺たちが一番早いんじゃないのか?」
平田はそう言いながら、ポンジャーの制服ーーいわゆる『ヒーロースーツ』ーーを脱いだ。平田の筋肉質な上半身があらわになる。
「うーん、まあこれは、僕たちが物理的に本部に近い場所にいたということもあるだろうけどね……僕たちより先に着くとしたら、『ランチャー』くらいのものだけど……まだ来ていないようだね」
村上もヒーロースーツを脱いだ。彼は平田ほどいかにも筋肉マンという感じではないが、常人よりはかなりがっしりした体つきをしている。
「そりゃそうさ。あんな雑魚戦隊なんかは、たぶん中央からの連絡も遅いんだよ。もしかしたら公式に登録されていない違法戦隊かもしれない。フフフ……あいつら、ついに違法に成り下がったのか。違法になってしまえば、悪の秘密結社たちと同じだぞ!」
更衣室にはすでに服が用意されていた。だが、平田はそれを取り上げて、「やっぱりな!」と声を上げた。
「見ろよ村上、この着替えもヒーロースーツだ。おそらく、これから行われる会議が終わったら、俺たちは新たな戦いに行かないといけないらしい」
だが、村上はそちらのヒーロースーツには近付かず、今自分が脱いだばかりのヒーロースーツを見つめていた。
「ちょっと待って平田。僕が思うに、これは何かがおかしいと思うんだ」
「おかしい? ヒーロースーツを着替えることのどこがおかしいんだ?」
「だって、ヒーロースーツはもともと、その速乾性が売りじゃないか。そうでなければ僕たちは戦っているうちに汗まみれになってしまうからね。どうして村崎社長は、僕たちを着替えさせようとしたのだろう」
「そういえばおかしいぞ。村崎社長が着替えろと言ったからなんとなく着替えに来たけれど、いつもは戦いの後、着替えなんかしないからな。それで何も困ることはないわけなのだけど……」
「うーん、僕の考えだと、この新しいヒーロースーツにはーー」
「「「こんにちはーっ!」」」
村上の言葉は、元気のいい三人の声によって中断された。
「ん? ああ、『サンジャー』のみんなか。先に使わせてもらっているよ」
「あざっす!」
「さすが、集合が速いっす!」
「今日はよろしくっす!」
都内の戦隊の一つであるサンジャーの三人の男性メンバーたちは、それぞれ場所を取って服を脱ぎ始めた。
「ふう、よかった。追放騒ぎでどうなっているかと思ったけど、最強の戦隊『ポンジャー』の威信は衰えていないようだな」
「さあ、それはどうかな……」
満足そうにささやいてきた平田に、村上は首をひねった。
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